59. 最終話②
税を払い終わり、ジオの自室に話があるとズカズカと入っていくトーマス。部屋にはジオの他にレイラもいたがそのまま話し始める。
「この前ヒルデが自分が俺の嫁を見つけるとか言い出してよー」
参った参ったと言わんばかりのトーマス。
「ふーん……。本人が嫁になっちゃえばいいのに。あんたにはもったいなさすぎるかしら?」
興味なさげなレイラが適当に相手をする。
「ヒルデはないだろ」
即答。
「なんでよ」
「だってあいつは俺の姉だろ」
「叔父様の隠し子なの?顔面偏差値違いすぎでしょ」
「違う。俺もあいつも同じ人を父親と思ってるからだ」
まあ自分の場合は実際に血がつながっているが。だから姉と弟みたいなものなんだから恋人関係になることなんてない。
再婚同士の連れ子が恋に落ちることもあるし、それを否定する気もない。しかし、自分はそんな気にはなれない。やっぱりこう恋心と言うよりもミランダとかアイルに感じるような家族愛という思いを感じる。
だから、ヒルデとは” 絶対にない ”。
~~~~~
「みたいなことがあったのよ」
ヒルデは思わず口元がほころんだ。
坊ちゃま、私達相思相愛ですね。
しかし…………
” 絶対にない ”は少々思うところはありますが。
レイラはヒルデの微妙に念のこもった笑いにゾッとした。
ーーーーーーーーーー
今日も晴天。晴れ渡る青空は絶好の
ーーー洗濯日和。
ーーー掃除日和。
ーーー狩猟日和。
ーーーお買い物(食材買い出し)日和。
ーーー薪割日和。
ーーーお庭のお手入れ日和。
今日も予定は一杯だった。
「ヒルデちゃーん」
ミランダの声がする。
「ごめんなさい。アイルがぎっくり腰になっちゃって、病院に連れて行ってくれる?」
また一つ仕事が増えたようだ。
「すまんな、ヒルデちゃん。動かすとやばいからこのままの姿勢で飛ばしてくれんか?」
……魔術で固めたほうが良いだろうか。四つん這いになって動けなくなったアイルを見てヒルデは考える。
「おーい、ヒルデ。犬が男爵邸に入ってしまって、探してほしいって依頼があったんだけど手伝ってくれるか?」
次はトーマス。おお、とアイルの姿に驚く。こりゃ、一人で探しに行くしかないか……とぶつぶつ言っている。
「ヒルデー!いい茶葉が手に入ったんだけど、お茶でもしない?」
レイラがやってきた。
「また今度で!」
これは速攻断るヒルデ。
ただでさえやることは山積みなのだが、仕事が増えていく。はーと息を吐いているが、その顔はとても明るい。
いつもの日常。
当たり前の日常。
訓練のない、
戦のない、
腹の探り合いのない、
忙しいながらも充実した日々。
孤児院、王宮での生活では手に入れられなかった平穏。
昔は強すぎる力を頭脳をもてあまし、すべてのことがつまらないと思っていた。しかし、呪いに関わり、人の生死に関わり……今となっては贅沢な悩みだったとしみじみと思う。
手に入れた平穏。これからまたいろいろなことがあるかもしれない。
でも、自分の力を持ってして全力でここを守って見せる。それにヒルデは新たな目標を掲げたのだ。
そのためには……
「坊ちゃまーーーーー!」
犬を見つけ猛ダッシュで追いかけていたトーマスがこちらを振り向く。
「必ず良いお嫁様を一緒に見つけましょうねーーーーー!」
目をパチクリとするトーマスに思わず、笑みが溢れる。
その笑みと勢いに思わずおーーーーー!と言いかけたトーマスだったが、はたと気づいた。
「今はそれどころじゃないーーーーー!」
と大絶叫。
今日も男爵邸は穏やかで、
そして、
にぎやかでございます。
ヒルデ〜元女将軍は今日も訳ありです〜 たくみ @AlphaTakumi
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