第4話

 同窓会の帰り道は何度も後ろを振り返った。大輔はもうこの世にいないとわかってから、むしろ誰かの視線が気になるようになった。帰り道が長く感じた。ヒールのせいもあるのか、家に着くころには脚に疲労が蓄積していた。ドアに鍵を閉め、念のためにチェーンまでかけておいた。


『同窓会、楽しかった?』


 浩太からLINEが届いているのを見て、安堵が胸に広がった。


『楽しかったよ! 高校時代の親友と久しぶりに会えた!』

『良かったね! 俺も同窓会したいなー』

『浩太も三十歳だからそろそろ案内来るかもね!』


 浩太とのやり取りが続くほど安心感に包まれている心地がする。でも浩太の返信が帰ってこなくなり、私はLINEの画面に戻ると、友達のタブが赤い点がついていた。今すぐスマートフォンを閉じた方がいい。でも親指が反応してしまった。慎重にスクロールしていくとやっぱり大輔のアイコンが更新されている。


 タップして写真を拡大すると、「ひっ」という声が出てしまった。浩太が隣にいてほしい。同窓会に参加した私を遠くから眺めている写真だった。


 肌が粟立つ。いたずらのレベルじゃない。山登りのアイコン以外、ずっと私の跡をつけていることを暗示したようなアイコンが続いていたけど、もはや確定的だった。


 早く浩太から返信が欲しい。いやもう待てない。浩太に電話した。でも出ない。


 もう一度スマートフォンを見ると、また大輔のアイコンが変わっている。ドアの写真だった。私の家のものではない。でも見覚えはある。胃からせり上がってきそうだった。浩太のアパートのドアだ。


 五回連続電話したのに、全然反応がない。さっきまでLINEしていたのに、何で急にでなくなったの? 嗚咽が止まらなくなった。


 また赤い点がついていた。心臓が破裂しそうなほど大きい鼓動を立てている。呼吸するのも苦しい。見ちゃだめだ見ちゃだめだ見ちゃだめだ。頭で何度も私を引き留めるのに、指だけが勝手に動いている。大輔のアイコンが変わっている。絶対に見てはいけない。でも、もう遠目でもわかってしまう。


 何でこんな目に遭わなきゃいけないの? あんたが嫉妬深いだけで、勝手に死んだだけで、なんで浩輔が首を吊らなきゃいけないの?

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