イケメンさんと帰宅

「二人ともずぶ濡れですね」


「……なのに傘ですか」


「ははっ」


雨の中、俺たちを同じ傘の中に潜み、家へ向かう。


どうして相合傘してるかって言うと、不破さんは家での時傘を持つのを忘れたみたい


濡れてるとは言え、やはりこれ以上濡らしたくないので、俺と同じ傘に入ることにした。


「不破さんが風邪になったら困りますので」


「今更……それに」


そう言って、不破さんは俺の体の方を睨む。


「その理論からすると、あなたの方が風邪引くんじゃないですか」


「まぁ……」


俺の傘は一人用の傘。


どうあがいでも二人ともを被せるのは無理。


なので俺は傘を不破さんの方に寄せ、俺の肩は完全に外にさらし出している。


「もう濡れてるし、これくらい大丈夫ですよ」


「めちゃくちゃ……」


俺の言い訳を聞いて、不破さんはため息をついた。


「動かないでください」


「えっ?」


そう言って、不破さんは俺の方へ寄せに来る。


「不破さん!?」


「これならお互い様でしょう」


思い切り体を寄せてくる不破さん、俺はいきなりの行動にびっくりした。


「どうせ私が離れでも無理矢理私に傘を差すんでしょう」


「あっ……はい!」


「なんですかその顔……変な勘違いしないでください」


変な勘違いはなんなのかって思うが、頭が上手く回らない。


あの不破さんがこんなスキンシップをするなんて想像したことないし、人付き合いあんまにしたことない俺にとっては未知なハプニングだし、なにより不破さんから男とは思えないほどいい匂いがする。


確かにこれならお互い濡れつに?済むが、男相手なのにドキドキが止まらない。


「分かりました?」


「はい!承知しましゅ……!」


顔が真っ赤になりながら俺はなんとか返事した。


「舌噛んちゃった……」


「……バカ」


気のせいなのか、不破さんの顔もちょっと赤く見えた。










「覗かないでくださいね」


「そんなことしませんよ!?」


そもそも誰が男の風呂を覗くんだよ?!


そんなことを言い残し、不破さんは風呂に入った。


俺はリビングのソファーに座って、タオルで濡れた体を拭く。


「どうしよう……」


体を拭きながら、俺はどうするべきなのかを悩む。


なぜなら不破さんは俺が生まれてから初めて家に招いた同性。


どう接待すれば良いのか、全くわからない。


思い付くのはゲームなんだが、うちにゲーム機がない。


とりあえずテレビをつけて、アニメチャンネルに変えて、俺はキッチンでホットミルクを入れることにした。


不破さんはさっきまでずぶ濡れだから、ホットミルクで彼の体を温めようと思った。


そんなことを考えて、俺はとりあえずミルクで温めに行く。


「風呂を貸してくれてありがとうございます」


「あっどうも」


ミルクを温めはじ始めたらすぐ、不破さんは風呂から出た。


「早いですね」


「他人の家長風呂はどうかと」


「しばらくここに住むから、気にしないでください」


「……そうさせてもらいます」


そう言いながら、リビングまで来た不破さん。


「えっ……まだパーカーですか」


風呂に入って着替えたはずの不破さんが、先までと同じパーカーを着ている。


「予備があるので、なにか問題があります?」


「いえ、なにもありません」


俺がパーカーのことを聞いた瞬間、不破さんは不機嫌そうになったので、これ以上聞くのをやめることにした。


他人の趣味に突っ込むのも良くないし。


「はぁ……あなたはなにしていますか?」


「俺?……ちょっと待てて」


できたホットミルクを持って、不破さんに渡す。


「ホットミルクを飲んで、温めてください」


「えっ……ありがとうございます」


俺からホットミルクを受け取った不破さんはちょっと驚いた顔をした。


「どうかしました?」


「なんでもありません……あなたの分は?」


「風呂に入った後作りますので、気にしないでください」


そう言って、俺は風呂場へ向かう。








「あー、スッキリした」


風呂場から出て、リビングへ向かうと、不破さんはソファーで静かに座っていた。


テレビは消されたので、リビングは全くの無音。


「テレビ見ないのですか?」


「興味ないので」


もっと近つけて見ると、不破さんはホットミルクすら飲んでいない。


もしかして、俺が取った行動全部気に入られていない?


「うん……すみません」


「はっ?いきなりなんですか?」


「俺人付き合いあんまりしたことないから、下手なことしてすみません……」


「はぁ?私はまだなにも言ってないけど、なに凹んでるんですか」


「ホットミルク、嫌いですよね?」


「えっ……そういうことですか」


俺の話を聞いて、不破さんは「なんなんですか」って言いながら顔がジド目になる。


「あなたも飲むでしょう、一緒に飲むのを考慮しただけ」


「えっ、そんなことしたらミルク冷めちゃいますよ」


「そもそも体を温めたいほど冷えたわけじゃないし、それに……」


「それに……?」


「……風呂まで先に入らせて貰ったのに、これ以上あなたを置いて一人だけいい思いをするのはどうかと」


不破さん照れくさそうにそう言った。


「そんなこと気にしなくていいのに、俺なんかより不破さんの体の方が大事ですから」


「歯が浮くようなセリフですね」


「そうかな?でもその気持ちありがとうございます」


不破さんの優しさが心に沁みつつ、俺は不破さんに感謝した。


「じゃ俺不破さんのホットミルクを温め直しますので、一緒に飲みましょう」


「……勝手にして」


そんな感じでホットミルクを用意し、一緒に飲むことにした俺たち。


「……美味しいですね」


「本当!?良かったです」


「甘いと言いますか、優しい味がします」


「実は蜂蜜を入れたんですよ、これで甘くなるし飲み心地も普通のより良くなります!」


「そうですか……」


両手でカップを持ち、慎重にホットミルクを飲む不破さん。


律儀な人だなぁって思いつつ、俺も一口ホットミルクを飲む。


「正直予想外でした」


「はい?」


「あなたのことをもっと大雑把で人と思いました、意外と面倒見がいいですね」


「そ……そうですかね……?」


「なんで疑問系なんですか、これは素直な褒め言葉です」


「ありがとうございます……」


不破さんに褒められるとは思わなくって、ちょっとビックリした俺。


「正直俺がこんな風に知り合いを家に接待するのは初めてで、不破さん来てからちゃんとおもてなししてるのかが心配で、だからそう言ってくれると本当に助かります」


詩織やはるきもたまに家に来るが、みんな自由でこっちが引っ張られているような感じなので、こういう受け身な客を自分からなにかをするのは初めてである。


「そこまで重く捉えようとしたらこっちが困りますが……」


「ははっ、そうですよね」


不破さんに褒められたし、俺はやり方間違ってないみたい。


「じゃ、ボードゲームをやります?」


「それは要りません」


「そっか……」


おもてなし、やはり難しい。


「なんで客の私よりもあなたの方が困ってるんですか」


「下手なことしてすみません……」


「もうその話は十分です」


「はぁ……」とため息をつく不破さん。


「あなたは自然体でいてください、じゃないとこっちが安心できませんので」


「そうですよね……できるだけ頑張れます」


「頑張ったら自然体じゃないじゃないですか……」


「ははっ……」


こうして不破さんとお喋りしていると、気ついたら長時間が過ぎていった。


そうしてたら……


「ただいま」


玄関からドアが開ける音がした。


「はぁ……はぁ……」


それを聞いただけで、心が怯え始める。


なぜなら姉さんが帰ってきた。


「ちょっと、あなた大丈夫ですか?」


「平気……」


不破さんの心配な顔で俺を見つめる。


これ以上彼を心配させたくない。


「不破さんはここで待ってください、俺が事情を説明しますから」


「……家族ですか」


「はい、優しい人ですのできっと不破さんを受け入れてくれます」


「でも、あなたのその顔……本当に大丈夫?」


「うん……」


正直すごく怖い。


ただでさえ迷惑をかけているのに、これ以上わがままを言ったら、完全に嫌われるかも知れない。


だけど……


「大丈夫、俺はもう決めたから」 


俺は不破さんの力になることを決めたんだ、だから今の俺は怯えに屈しない。


「えっ……コウくん?」


リビングに入った姉さんは、ビックリした声を出した。


知らない人がいるからか、それとも俺なんかがいるからか、それは分からない。


だけどそれは関係ない。


「姉さん、お願いがあります!」


俺のやるべきことはもう決まったから。

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冤罪のせいで全てを信じられなくなった俺は、学校の屋上でクールイケメンに出会った〜なんだかんだ同棲することになったが、君女の子だったのかよ!?〜 @optimumpride

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