春一番が吹くらしい

明鏡止水

第1話

明鏡止水の服はですね。

……ダサいです。

多分自分が赤の他人だったら、

「え、明鏡さんの? ……ちょっと着れないかな」

って絶対言われちゃうくらいダサいです。

まず全身単色です。

青いジャケットに、青いジーンズ。

足元はこれまた母が買ってきたバーゲンの物だけは良いらしいベージュの靴。

なんというか、妖怪ですかね。


体は青く、その足元は裸足のように剥き出しを思い起こさせるラクダ色! 


と称されてUMA扱いされそうです。

わかっているけど可愛らしいセーターとか買わないんですよ。部屋のクローゼット、もういっぱいなんですから。

あー、おしゃれしたい。

連日鏡を見るのが嫌になります。

ろくに眉毛も剃れないで額の油ぎった、癖毛のおばさんが鏡の前で手を洗ってペーパータオルで無駄に大きい手を拭き拭き。


更にですね。

ピンクのパーカーとピンクのレギンスを合わせた日には最悪のピンク大好きおばさんみたいになります。でもキャラメル色を合わせても、そのくたびれた質感のせいで。


うっかり地面に落として台無しになったクレープの生地の部分みたいな薄汚れた感じが出るんです。


同じ上着を毎日着ます。

「またそれ、洗濯しないの?」

と母に笑われて悔しい思いをしましたが

「他に買えないから」

「他にないから」

と、衣装持ちにはなれないように悲壮感たっぷりに答えます。

まあ、洗濯してくれるの母なんですけどね。

私は干しもせず洗濯機回しもせず、お風呂からも遠ざかり、洗濯物を減らすだけ。


ちなみに知り合いのおしゃれさんは365日違うセーターでも着ているんじゃないかと思うくらいおしゃれなのですが。

私は昔お気に入りのセーターが盛大に虫に喰われた状態で出かけてしまってから、毛糸ものを信頼していません。


ところで日本語が難しい場面にぶち当たったのですが。

皆さんの意見をお聞きしたい。


面接やキャリアについての授業で履歴書が一枚配られたんです。大きめのサイズです。

そろそろ就活を考え始める頃。

明鏡止水も拙いなりに記入して添削してもらい、本番用の履歴書を用意しようと考えました。先生が言うには学校でも履歴書と封筒を一枚十円で売っているそうです。一応ドラッグストアでも一般用のを購入しましたがB 5サイズといいますか。


ちっちゃい。


添削してもらった書式の履歴書がいい!

明鏡止水は先生に詰め寄ります。


「先生! 履歴書と封筒は学校で買えると聞いたんですが!」

「買えますが、事務所で買えますが、自分で買ってください……」

どこか疲れたような、怒ったような先生の様子。


私は先生の調子から「事務所では販売しているが、他所で買ってください」と言う意味に受け止めたのですが。

帰って母に話すと「先生である自分に言わずに事務所へ行って勝手に買え」という意味ではと。


そっち?!


確かに事務所で売っているのにわざわざ他所で買えっておかしいと思ったんだ!!

ただ今時はその学校に通う生徒たちが買うから譲れ、という意味にも取れなくも無くて。


明鏡止水は、どっちだよ。

もう、事務所に直接聞いちゃうぞ。

もう一回先生に確かめるのなんか、勇気いる。

はじかれそう。

どうか校内で目当てのものが買えますように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春一番が吹くらしい 明鏡止水 @miuraharuma30

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ