人か、実験動物か

「流石に向こう向いててほしいかな。こんな格好だし」


 大穴の淵で語らい、共に二人の時間を過ごした道実と遥華。

 入ったりすることの出来ない大穴を除けば、立ち入り禁止区域はそこまで広い場所じゃない。帰路に着いて間もなく、入ってきたフェンスが見えてくる。

 遥華が後ろを振り向いたのは、そんな時だった。問いかけてくる彼女の視線がはちょうど後ろを歩いていた道実に投げかけられる。

 彼女の手はちょうど自身の腰あたりに触れている。これで分からなければ救いようがない。


「あ、ごめん」

「降りたら呼ぶから。それまでこっち見ないでね」


 

 口元にははつらつとした笑みを浮かべているが、目が笑っていない。光を宿さない彼女の瞳は、会話をしている道実でさえないこの世ではないどこかを見ている。

 先ほどと同じ危険な香りを感じて、道実はすぐに後ろを向いた。彼女が通り魔事件の犯人の可能性がある以上、背中を見せるのは危険なのは分かっている。

 だがいまの彼女には、有無を言わせぬ超然とした迫力があった。道実は黙って後ろを向くしかない。


 ザリ。


 地面を踏む音。

 足踏みをしているのだろうか。彼女は小柄だし、勢いをつけないと高いフェンスを上るのは厳しそうだ。それが可能であるかどうかについては、内側に入っているのだから行けないことはないのだろうけど。


 ジャクジャク。


 また地面を踏む音。砂利同士がこすれ合って独特な音を出す。小学校の運動場に車が乗り入れてきたときのような音は相当重くないと出せないハズであるが、彼女もそうなのだろうか。

 そろそろ上り始めるだろうか。


 ザリ。ザリ。ザリ。ジャリジャリ。


 また地面を踏む音。いくら非力な女の子だとはいえ、大穴を囲う金属製のフェンスは触れただけでも音が鳴るはずである。

 それが一時の軋みさえならないのは流石におかしくないだろうか。彼女はいったい、何をしているんだ?


「あの」

「終わったよ。待たせちゃったね」


 何をしているのか聞こうと思った矢先、彼女がオーケーの合図を出してきた。だがその声はたしかに、直前よりも遠くに聞こえる。

 振り向くと、確かに彼女はフェンスの向こう側に居た。


 そんな筈はない。背後に居た彼女は、金属製のフェンスを登るときのガチャガチャと言う音を出さなかった。

 そんな芸当なんてできようはずもない。それは道実自身がよく知っている。誰でもない、彼自身がずっと此処を上り下りしてきたのだから。

 ましてや彼女は裸足であるのだから飛び降りるなんて芸当が出来る筈もない。


「……あ、ありがとう」


 なんて言っていいのか分からず、途端に出た言葉がそれだった。


 あの時振り向いたら、そこには何があったのだろう。遥華の言うとおり後ろを向いたのは本当に正しかったのか。

 訳も分からず、狼狽する気持ちを抑えつけながら道実は自身もフェンスに手を掛ける。フェンスからはがしゃんと歯切れのよい金属音が鳴った。




 ***




 事件はその直後、唐突に起こった。


「見つけた!」

「居たぞあそこだ! 応援を呼べ‼」


 明後日の方向から、殴りつけられたような怒号が飛んで来る。その先に居たのは今朝通り魔事件について聞き込み調査をしていた警官たちであると、道実は予想した。

 予想というのは、彼らが朝見たような警官の格好をしていなかったからである。今はワイシャツにスキニー、何処にでもいる休暇のオヤジといった感じであった。

 学生が夏休みに入る時分、このような恰好はさぞ、雰囲気に溶け込めるだろう。


 道実がよじ登ったフェンスの天辺から飛び降りたのと、彼らの手に銃が握られていたのを確認したのはほぼ同時だった。

 先ほどの怒号が示すとおり銃口はこちらに、さらに言えば遥華に向けられている。


「あらあら~。見つかっちゃったみたい」


 日本では絶対にあり得ない光景。若干怪しいところはあるが、暫定一般市民であるはずの二人に、警官であるはずの男たちは凶器を突き付けられている。

 男たちの奇行と鬼の形相から感じられるのは、まるで国を守るために戦争でもしているような覚悟。彼らが正規の警察でない事は明らかだ。

 状況に反して遥華はケラケラと笑っている。まるで日常の一部分を切り取ったようなその表情は、凡そ銃口を突き付けられた人間のそれとは思えない余裕である。


 だが、その声のお陰で正気に戻れた。

 道実は遥華の手を掴み、親指を何処かの指の間に滑り込ませてしっかりと握りしめた。


「に、逃げよう!」

「えっ? なんで」


 それは自分でも問いたい。自分でもなんでだろうと、道実は頭を抱えて走る。

 分かっていた筈なのに。彼女の日常には踏み込んではいけないと。彼女は自分たちとは違う世界の人間で、その背後には途方もなく大きな闇が渦巻いている。

 何を考えているか分からないし、今だって何をしているかも定かじゃない。


 でも、それでも。


 道実が遥華の手を握りしめ、全力で走る。本来ならすぐバテてしまうの距離をすいすい走れてしまう事に、今だけは気がつかない。

 対してロクに呼吸も乱さず余裕がありそうな遥華は、今のシチュエーションを見て笑っていた。


「意外だね~これってロマンス?」

「……うるさい」


 身体が限界を超えて走るなか、道実の身体を駆け巡る熱はそのまま怒りへと変わっていく。彼女ののらりくらりとした笑いを聞いていると虫唾が走る。

 彼に言うほど運動能力はない。だからいまも別に、銃口を向けられたことによる火事場の馬鹿力であって、余裕もあまり無いけれど。

 あんまり気にくわない彼女に、顔の半分だけ振り向いて叫んだ。


「そんな悲しそうな顔してまで笑うなよ!」


 男に見つかった時の遥華は、今にも泣きだしそうな顔をしていた。はつらつとした少女がただ笑っているだけの声の震えの奥に、辛さや苦しさを感じた。


 それが、彼が遥華の手を引いた理由。臭いことを言っても彼はヒーローではない。この先どうするかの計画なんて一切ない。




 ***




 いきなり銃を突き付けてきた、明らかに警察ではない男たち。彼らから逃げるために、明らかに一般人ではない少女の手を引きながら、道実は街を駆ける。

 だが普段からロクに運動もせず、部活にも入らず大穴を眺めているだけの少年が急な逃避行に走っても、そう上手くはいかない。

 少年は派手にすっ転んだ。


「わぶッ! うぎゃあ!?」


 街中にある自転車置き場の眼前、なにもない場所で道実は本日幾度目かの尻もちをついた。二度悲鳴が上がったのは、尻もちをついた拍子に自転車置き場に並べられていた自転車の後輪を蹴り飛ばしたからだ。

 間を開けずギチギチに詰められていた自転車たちが、ドミノ倒しで一気に崩れていく。


「そんな調子で良くカッコいいこと言えたね~。どうして今まで大穴に落ちなかったのか、むしろ心配になってくるよ?」

「放っとけ……」


 自転車の中で倒れ、足を押さえている道実。自転車の下敷きになったことで痛みが走る。パンツ越しの手触りから脚の表面が歪に膨らんでいるのが伝わってくる。

 彼の運動神経も、普段のルーティーンから逸れればこんなものだろうか。

 男たちに銃を突き付けられた時も遥華の言葉が無ければ正気に戻れなかったり存外、アドリブには弱いようである。

 対して遥華の動きは軽やかであり、夏の街を爽快に駆けまわる彼女の動きは、そのふんわりした白ワンピと相まって浮いているようでもある。

 彼女は道実のことを静かに見降ろしている。


(頼りにしてたんだけどな~。案外頼りないな……)


 彼がもう走れないことを遥華も既に見抜いていた。このまま二人で逃げ回っていれば、いずれすぐに捕まってしまう。彼らは特殊な存在である遥華のことを追いかけているのだ。


 彼女の脳裏に真っ先に浮かんだのは 『捨て駒』。

 捕まりそうになったら、彼を捨てて自分は逃げれば良い。この瞬間、彼女のなかでの道実は王子様から身代わりへとなり替わったのだ。


 遥華は道実が蹴り倒した自転車たちを見繕い、ひとつを立て直す。鍵が掛かっておらず二人乗りが可能なもの。こうも何台も並んでいると、条件に当てはまるものは存外在るものである。


「え、自転車?」

「しゃーない。もうこれで逃げちゃおうか」 


 足を怪我した彼を、負担を掛けず運ぶ現状唯一の手段である。


「ダメだよ。自転車盗ったら泥棒だし、相手が車に乗ってきたらどうせ逃げ切れない」

「大丈夫。車が入れない道に入ればいいだけ。あたし、この街の路地裏には詳しいの」


 だるコイツ、なんて思いながら適当に口先八丁であしらう。だって仕方がないではないか。現状何とか出来るのは自転車しかない。特殊な存在である遥華が免許も持っているはずもないし。

 ほかに何とか出来る手段なら電車が思い浮かぶが、駅はもっと先である。男から逃げ回りつつ怪我した人間を抱えて行くのは現実的じゃない。


 彼女らに選択肢は無いようである。




 ***




「誰もあなたが漕げとは言ってない!」


 街の路地に、遥華の声が響き渡る。彼女はいま盗んできた自転車の荷台に腰を下ろし、サドルに跨る男の腰に手を回している。

 ぎーこぎーこと自転車を漕ぐ音が、周期的なリズムを刻んでいる。

 恐らく全力で回しているであろうその速度は、極めて遅い。もう最初の全力ダッシュの体力は尽きたようである。


「足、大丈夫? さっき怪我してなかったの」


 遥華は道実の足を見る。決して速くは無いが懸命にペダルを漕いでいる。遥華の考えなど知らずに。もしも男に追いつかれれば、彼女に切り捨てられるとも知らずに。

 男たちの狙いは、たしかに遥華である。道実は関係ない。だが捕まった本人がそれをどうやって説明出来ようか。もしも彼が捕まっても、遥が逃げ回る限り開放はされないだろう。むしろ新たな情報を聞き出そうと、なにか痛くて辛いことをされるかもしれない。いや。ほぼ確実にされることになると遥華は確信している。


 だって捕まえようとしているという事は。彼らが遥華の写真を持っていたという事は。遥華が男たちの組織に居た何よりの証拠になる。

 彼女は自身が特別な存在である故、男たちに狙われているのだから。


「……うん、平気。言うほど痛くも無いから」

「そう」


 嘘だな。

 彼の腰に手を回す姿勢のなか、遥華はそう確信した。彼女は触れている相手の心が読めるから。その力は思考だけでなく痛みや容態なんかも漏れなく対象だ。

 道実のなかで傷がどれほど痛み、肉体的にひっ迫した状況下がまざまざと伝わってくる。彼は多分、あと一キロも走らないうちに力尽きて倒れる。


「大丈夫。もうこの際、何処までも守るよ。ボクみたいなのでも、最悪囮くらいにはなるだろ」


 ありきたりなその言葉に、心が揺れるのはなぜだろう。何のことはない。ただ、考えていることを言い当てられて戸惑っているだけではないか。


 いや違う。大丈夫。守る。痛くない。平気だ。全て母に似てるんだ。遥華にとって、かけがえのなかった存在。生まれた時からずっと怪しい組織に狙われ続けてきた彼女を守ってくれた存在だった。

 その言葉を機に、彼女の脳裏にあの日のことが浮かぶ。嵐の日。大切な母を失った日のことだ。


『貴女は愛を知らない』


 それが母の最期の言葉。

 組織の凶弾に倒れ、嵐の中で倒れ伏した母。まだ幼く組織に取り囲まれた彼女はどうすることも出来ず、失血と雨に濡れる寒さでどんどん冷たくなっていく彼女を見ていることしか出来なかった。

 人は悲しみが溢れて感情がオーバーフローすると涙は笑いに変わることを、その時初めて知った。


 溢れ出す狂笑とともに、暴走する力。それであの周辺一帯を、底の見えない大穴に変えたと知ったのは十年後に組織を抜け出した後だった。


 それからは笑うことはあっても泣くことはなかった。


 どんなことを言われてもケラケラ笑っていた。

 自分を繋いでいる鎖をジャラジャラと鳴らして遊び、実験をグッと耐えれば一日が終わる。六つのときに捕まって十年間、その繰り返し。

 どう頑張っても涙なんて出てこなかった。母を失ったあの嵐の夜に壊れた感情はもう戻らないと、助けなんて来ないと諦めていた。


 だけど、あの時は本当に辛かったんだ。


 少年と大穴の淵で過ごした時間は、数回やりとりしただけだったがかけがえのない思い出になった。

 だけど手を繋いで。彼の記憶を垣間見て思った。彼は私が関わっちゃいけない人間だと。


「でも」


 少年を介して見た記憶。あれは大穴が開いた日、いや私が能力を暴走させて開けた日に、大穴の上に在った家の風景だ。其処に在った八百屋が丸々無くなっている。

 彼自身はこうして生きているから、恐らく祖父母の家とか。両親と別の場所に住んでいて無事だったんだろう。

 だが中に居た祖父母は? 何の変哲もない夜。明日も仕事があるなかで、その日に限って八百屋を無人にするなんてあり得ない。

 彼女は間違いなく、彼の家族の命を奪っている。

 そして今現在。自分の力で殺した八百屋の老夫婦の孫に漕がせた自転車に、遥華は乗っている。これを見て殺された人たちはどう思うだろうか。


「でも、やっぱり……」


 自転車に掛かる風を受けて、彼女のワンピースの裾がふわりと翻る。

 太陽の下に晒された肌についていたのは、夥しい数の痣。何かに弾かれ叩かれて出来たものも有れば、何か薬品を流し込まれて爛れ、円状に広がっているものもある。


「やっぱりあなたと一緒に居たい」


 嘘か誠か、遥華は世界のバグのような存在らしい。組織の人間は地球の癌だと言っていた。癌だから殺されても仕方が無いし、関わったもの全てを死なせてしまうから誰も助けには来ないと。


「いいよ。泣いても」


 道実が呟いた。自転車を懸命に漕ぎながら。前を向きながら声量も大したものじゃないし、チャリ漕ぎで息を切らしていたが、その声はたしかに遥華にも聞こえた。


 癌という表現がどこまで本当か分からないけど。もし癌なら癌は増え続けるんじゃないだろうか。隣り合う人も、すべて似たような存在に変えて。

 心を読む能力だってそうだ。心を読むのは遥華自身に起こる現象であり、読まれる側にどんな作用を与えているかなんて分からない。

 もし彼女を癌だというなら、記憶をすべて読み解いたとき、彼は……。


「本当はもう代わってほしいと思ってたんだ。やっぱり足痛くて。でも、キミが泣き止むまでもうちょい漕いでみる」


 遥華の事情なんて何も知らずに笑っている。あの日の母と同じ、遥華の事が心配で堪らないから元気づけようとしている笑み。

 この力は、離れない限りオフになることはない。世界から与えられた望まぬ力は、愛する人に触れ続ける限り永遠に読み取ってしまう。


 だからこそ、こうするしかない。


「――うわ、階段だよ。しっかり捕まっててね。顔ぶつけないように」

「こっちに来てほしくはないかな」


 階段に向かってハンドルをしっかり握り直す道実。

 遥華は一言そう呟いた後、彼の腰に回していた手を離した。道実の手に掛かっていた自転車の重さがするりと軽くなる。まるで誰かが、そこから飛び降りたように。


「ぅお! え、遥華!?」


 思わず振り返る道実。其処には誰も居なかった。荷台の網が夏の日差しを浴び、何事もなかったかのように鈍色に輝いている。

 触れてみると言うほど熱くない。やっぱりそこに誰か居たんだ。道実は狐につままれたような気分になる。


「何なんだよ。撮影なら撮影だって言ってくれないと……」


 きっとテレビか何かのドッキリ撮影だったのだ。終わったのなら、放送日は何時かくらいのPRはしてくれたっていいじゃないか。

 帰ろう。普段なら日暮れまで大穴を眺めている彼にとって不完全燃焼もいいところだが、変なものに巻き込まれてもの凄い疲労感だ。

 なんだか急に寂しい気持ちになって来て、ハンドルを握り直そうとする。そのとき彼はあることに気付いた。


「あれ? 階段、なくなってる……」


 そこにはなんてことのない、平坦な道が続くばかりだった。




 ***




「誰も居ないじゃん。も~折角また実験動物に戻ってあげようと思ったのに!」


 道実と別れた遥華は、自分自身の足で路地裏を踏みしめていく。

 あれだけ逃げ出したかった筈の組織の男たちの姿が一切見えないのは、神様もまた都合のいい話である。

 まぁ表通りに出れば誰かしらに会うだろう、明るい方へと進んでいく。

 周囲が明るくなる度に喧騒が身を包む。ずっと施設の中で過ごしてきた彼女にとっては、賑やかな光景。ワイワイガヤガヤと大声で騒いでいる様子はむしろ、うるさいくらいだ。

 いや、むしろ煩すぎないかと、遥華は首を捻る。これはどちらかというと悲鳴に近いような気がする。様子を見て物見遊山でもしていようと、小走りに進んでいく。

 おそらくもう一度捕まれば、実験で野垂れ死ぬまで施設からは出られないだろうから、これが人生最後の遊びになる。

 遥華はわくわくした気持ちで表通りに飛び出した。飛び出した先には、彼女に向かって突っ込んでくる人影が。


 ドスッ!

「――ッ? すいませ……」


 その人とぶつかって謝ろうとしたとき、身体の力が抜けた。

 立ち上がれない。遥華は何故か地面に倒れ込み、風船の空気が抜けていくような感覚に襲われる。息が詰まって、そのまま声が出なくなる。息を吸えない。

 吸った傍から抜けていく気がする。ちょうど、脇腹の辺り。


「あ、れ……?」


 首を動かして脇腹を見ると、その周辺から血が出ていた。白いワンピースが赤く染まっており、無意識に押さえていた手も真っ赤になっていた。

 だんだん朧気になっていく耳に、周囲の声が聞こえる。


「イヤァァァ! 子どもが‼」

「おい、誰か救急車だ! 警察なんて後だろ!」

「百十番? あれ一一九だっけ? おい誰か教えてくれ!」

「おい誰かそいつを捕まえろよ! 人を刺してんだぞ!」


 通り魔事件。男たちは彼女を探すために体のいい話題としてそれを使ったが、それが今日この場で起きない保証はどこにもない。


(あの時……)


 遥華は歩いてきた方向を見る。先ほどまで居た、薄暗い路地裏。薄暗くて不気味で、頼まれたって入りたくない。彼女の脳内にはぎーこぎーこと、自転車を漕ぐ錆びついた音が張り付いていた。

 通り魔に遭うなんて偶然だ。時間が合致したから通り魔に遭いましただなんて、ただの結果論でしかない。だけど、それでも。


 あの背中に、もう少しだけ張り付いていれば。


 そう考えながら遥華は目を閉じた。周囲の路を赤黒く染めながら眠る少女の瞼が開かれることは、もう二度と無かった。

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