◇Phase 18◇
【戦場】
片腕で剣を握るカルミアと剣を捨てたドライアンが向かい合っている。
ドライアン:カルミア。
カルミア:――私は悪魔を、殺す。
ドライアン:今のお前は、心を閉ざしてるってことか。
カルミア:――――。
ドライアン:まぁ、ひとのことは言えねぇか。グレモリア・ダラスに、感謝しないとな。
カルミア:――殺す。
カルミア、斬りかかる。
ドライアン:……っと!
カルミア:ふっ! はぁっ!
ドライアン:遅いな。ほんとのお前はそんなもんじゃないだろ。なぁカルミア。俺と何十回もした戦いは何だったんだよ?
カルミア:――悪魔を、殺す。
ドライアン:神のためにか? そんな理由で戦うのかお前は?
カルミア:悪魔に凄惨なる死を。
ドライアン:俺は、お前と戦いたい。好きなんだよ。お前と戦うのが。
カルミア:私は悪魔を蹂躙し殲滅する。
ドライアン:違うな。
カルミア:殺す。
ドライアン:俺はお前のことが好きで、
カルミア:――死ねッ!
ドライアン:愛しているんだよ!
ドライアン、カルミアの剣を受ける。
ドライアン:ぐ、があぁ……! すっごい痛ぇが、掴まえた。
カルミア:は、なせ……!
ドライアン:嫌だ。放さない。正気に戻れ。
カルミア:なに、を――
ドライアン:カルミア、愛してる。
ドライアン、カルミアに口づけをする。
カルミア:――っ!
ドライアン:カルミア、帰ろう。
カルミア:――あ、ぁ――。
ドライアン:一緒に帰ろう。
カルミア:――ド――アン。
ドライアン:ウルが泣いてるぜ。
カルミア:ウ、ル――?
ドライアン:ああ、俺達の飼い猫だ。
カルミア:猫――。
ドライアン:カルミア、俺達は大事なものを失った。
カルミア:――――。
ドライアン:多くの同胞を、グレモリアを。そして俺も手にかけた。天使を、そしてお前の弟を。
カルミア:――レ、リア。
ドライアン:レリア・アンセプスを、殺した。
カルミア:貴様、が――!
ドライアン:殺した。……その事実は消えねぇ。過去は、消えない。
カルミア:殺、した――。
ドライアン:俺達の過去は消えてない。目を背けちゃいけない。投げ出しちゃいけねぇんだ。ましてや未来を。
カルミア:どうして――?
ドライアン:お前をこんなに傷付けて。
カルミア:どうして――?
ドライアン:向き合うことから逃げて。
カルミア:どうして――?
ドライアン:戦うことから逃げていた。
カルミア:どうして、貴様が謝る――?
ドライアン:カルミア。
カルミア:悪いのは私だ。レリアが悪魔に強い恨みを抱いていたのも、私のために暴走したのも、全て私が悪い。貴様はだから、私を殺してもいいんだ。なのに、どうして。
ドライアン:……あのな、カルミア。
カルミア:ドライアン……?
ドライアン、カルミアに口づけをする。
カルミア:……ん!? な! 何を!
ドライアン:この死にたがりの天使め。
カルミア:何だと?
ドライアン:今思い出したよ。
カルミア:何がだ?
ドライアン:初めて会ったときもお前は死にたがってた。死に場所を探してるって顔してた。だから、俺はお前を見逃したんだ。
カルミア:……いや、そんなことは無い。よく憶えておるが、貴様は私に命乞いしただろ。
ドライアン:……し、してねぇよ! そういう演技だ。だってその後――
カルミア:逃げたものな。あの背中、まだしっかりと思い出せる。
ドライアン:逃げちゃ悪いかよ。
カルミア:別に。しかしさっき、逃げてすまなかったと言ったばかりであろう?
ドライアン:それはそれ、これはこれだ。
カルミア:好き勝手言いおる。……貴様らしいな。
ドライアン:だろ。前に言ったろ、自由に生きている限り俺の勝ちだ。
カルミア:では、さっきまでは負けておったのか?
ドライアン:……っそうだよ!
カルミア:そうかそうか。ふふふふふふふ。
ドライアン:笑うなよ……。は、はははははは。
二人笑い合う。
カルミア:こうして出会うために生きておったのだろうな。
ドライアン:何だって?
カルミア:生きていたから出会えた、死んでおったら出会えないからな?
ドライアン:当たり前だろ?
カルミア:そう、私達は当たり前のように生きて出会い、そして――
(可能なら同時に)
ドライアン:――愛してる。
カルミア:――愛してる。
ドライアン:一緒に帰ろう。ウルが待ってる。
カルミア:ああ。良いだろう。貴様とならどこへでも。
降り続いていた雨が上がる。
ドライアン:カルミア。
カルミア:ドライアン。
ドライアン:お帰り。
カルミア:ただいま。
《天使と悪魔と捨て猫と。 幕》
天使と悪魔と捨て猫と。 音佐りんご。 @ringo_otosa
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