◇Phase 17◇
【夢と現実の狭間】
カルミアの家の前。
ドライアンが袋を提げて立っている。
引き戸が開く。
中からウルを抱いたカルミアが現れる。
カルミア:また来たのか、ドライアン。
ドライアン:来たら悪いか?
ウル:みゃあ。
カルミア:それは、悪いに決まっているだろう。
ドライアン:どうしてだ?
カルミア:どうして? 貴様は悪魔だろう? そして私は、
ドライアン:お前は天使だ。カルミア。
カルミア:分かっているならもう来るな。
ドライアン:何も分からない。それだけで俺はこうしてここに来ることも出来ないのか? キャットフードを片手にこの扉の前に立つことが!
カルミア:それだけで十分なのだ。
ドライアン:天使と悪魔というだけで?
カルミア:天使と悪魔というだけが、
間。
カルミア:この世界の全ての理を分断する剣だ。
ドライアン:分かってるよ。俺は分かってる。けど!
カルミア:分かっておる。私も分かっておるさ。けれど、どうすることも出来ぬだろう? お前と手それを握っているのだ。
ドライアン:俺はそんなもの……!
カルミア:貴様の手に握られておるのは本当にウルの餌か?
ドライアンの手の中の袋が剣になる。
ドライアン:え? これは、違う。こんなモノじゃ無い。剣なんて握りたくない。お前に向けるつもりなんて。
カルミア:しかし私も同じだ。今、私は何を抱いておる?
ウル:みゃあ。
ドライアン:あ? そんなの決まってる。
カルミア:ウルか?
ドライアン:違うのか?
カルミア:違うな。
カルミアの抱くウルが剣になる。
カルミア:これは、貴様を斬るための剣だ。
ドライアン:でも、そいつはウルだ。俺が雨の日に拾った一匹の猫だ。うちにはベルがいるから飼えなくて、グレモリアにも断られて。それで……グレモリア? グレモリアは俺を愛してて、でも、俺はあいつを守れなくて……。俺はお前を殺さないといけない。天使だから? 違う、守るって決めたから。守るって決めたから殺す。そうだ、俺はお前を殺す。なぁ、カルミア、俺は何か間違っているか?
カルミア:いいや、何も間違っておらん。さぁ、私を殺してくれ。
ドライアン:そうだよな。ウルを受け入れてくれたお前は優しいから。俺が間違っててもきっと許してくれるんだ。ありがとうカルミア、安心して殺せる。
カルミア:……泣くでないドライアン。貴様のそんな顔見たくはない。『魔王』などと呼ばれておる大の悪魔が、情けない。笑って殺せ。天使の一人や二人くらい。いや、全ての天使を殺せ。そして神も。何もかも。それが貴様だろ? ドライアン・ダラス。
ドライアン:カルミア。俺は……、
カルミア:何をしておる? こうしなければ殺せぬか?
カルミアのそばにグレモリアが現れる。
グレモリア:先輩。
ドライアン:グレモリア!? おまえ、やっぱり生きていたんだな!
グレモリア:もちろん、死んでるっす。
ドライアン:お前何を言ってるんだよ、だってここに、
グレモリア:だって私は――
カルミア、グレモリアを斬る。
カルミア:私が殺したから。
ドライアン:グレモリアーーっ! ……カルミアぁぁ!!
カルミア:貴様は悪くない。グレモリアとかいうお前の愛する者を失ったのも、その仇である私の弟を殺したのも。貴様は悪くない。全て私の責任だ。だから、貴様が殺せ。終わらせろ。この私を。
ドライアン:ああ。望み通り殺してやる。約束だからな!
カルミア:それでいい。そして、お前は幸せに生きてくれ。この世界でな。
ドライアン:永遠にさようならだ。カルミア。
グレモリア:待つっすよ先輩。
カルミア:……何故。
ドライアン:グレモリア? どうして止める! 俺は天使を、カルミアを! お前の仇を殺すところなんだ!
グレモリア:いや、頼んでないですし。なに勝手に壊れてんすか、先輩。
カルミア:貴様、本物なのか……?
グレモリア:本物が何を指すかは知りませんが、それで言うとあーしは偽物っすよ。
ドライアン:何を言ってるんだ、グレモリア、お前は生きてて、でも死んでて、あれ、おかしいな。
グレモリア:いや、おかしいの先輩っすから。……はぁ、またやらないとっすね。おら! おら! おら!
グレモリア、ドライアンを殴る。
カルミア:何を!?
グレモリア:黙って指でもしゃぶって見てるっすよ、あーしの恋敵! 連れ戻してみせるっすから。おら、目ぇ醒ませ!
ドライアン:っぐ! グレ、モリア?
グレモリア:先輩、ご機嫌いかがっすか? あーしのこと愛してるっすか?
ドライアン:ほんとに、グレモリアなのか?
グレモリア:……もう。仕方の無い悪魔っすね。そこは「グレモリア、愛してる」だって前にも言ったでしょ。でも、残念、あーしはあなたの愛する、グレモリア・グリモニーではありません。あーしは――グレモリア・ダラスっす。
ドライアン:……でも、お前は!
グレモリア:あー、無視すんなよ。滑ったみたいじゃ無いっすか。死んだっすよ。疑いようもなく。あーしの心が。なーんて、だからあーしは先輩の妄想。一緒に行こうって先輩が無理矢理引っ張ってきた魂の残滓、言うなればそう、先輩の心に溶けた先輩だけの妖精。故にグレモリア・ダラスっす。
カルミア:妖精……? それが何故私に見える……?
グレモリア:いや、知りませんけど。でも、まぁそれが偶然にも? それとも運命的に? あんたの放った技で具現化したとかじゃないすか、カルミア・ナンチャラ。
カルミア:そんなことが……。
グレモリア:あんたがこんな土壇場でイメージ共有術を使わなければ、芽生えることも無かった、そういう可能性の存在っす。その時――不思議なことが起こった、みたいな。
ドライアン:お前は、じゃあ、本当に死んだのか?
グレモリア:しつこいっすね。死にましたよ。後ろからすぱっと斬られて、別れを告げる間もなくね。でも後悔はしてませんよ、先輩。あんたの胸の中で死ねたんすから。
ドライアン:グレモリア。
グレモリア:って、言われたかったんすよね、先輩は。
ドライアン:グレモリア……。
グレモリア:でも残念。あーしは本人じゃ無いので。
ドライアン:……っ!
グレモリア:ま、それでも言えて良かったっす。それで傷が少しでも癒えてくれるなら。
ドライアン:……ああ。ありがとう。救われた。
グレモリア:それは何よりっす。じゃあ、あーしは行くっすね。
ドライアン:どこへ?
グレモリア:さぁ? それは分かりません。でもきっと、大好きな先輩の居るところっすよ。
ドライアン:行かないでくれって言ったら?
グレモリア:ぶん殴る。……って言いたいとこっすけど、抱き締めてあげるっす。そんで、お別れっす。
ドライアン:……すまない。
グレモリア:ふふっ。……さぁさぁ、ぼさっとしてないで、好きな女待たせてるっすよ? 守るって約束したんでしょ? なら、男を見せて下さい、かっこいいドライ先輩。そんで、いつか、また――。
グレモリア、消える。
ドライアン:……カルミア。
カルミア:私を、殺してくれないのか?
ドライアン:ああ。殺さない。約束だからな。
カルミア:約束? そんな物はしていない。
ドライアン:したんだよ、忘れたか?
カルミア:知らない。
ドライアン:なら、またやってやる。
カルミア:何を?
ドライアン:外で会おう。……ウル!
ドライアンの剣がウルに変わる。
ウル:みゃあ。
ドライアン:俺を出してくれ。
カルミア:待て、ドライアン! 外に出たら私は貴様を殺さないといけなくなる、だからお前はここで私を。
ドライアン:殺せって? やなこった。俺はお前を守るって約束したんだ。散々傷つけちまって手遅れかも知れないが、グレモリアとも約束したしな。
ウル:みゃあ。
ドライアン:もちろんウル。お前ともな。
カルミア:ドライアン……。
ドライアン:待ってろ、カルミア。
カルミア:分かった。私は信じよう、貴様を。
ドライアン:ああ。お前のことは俺に任せろ。
ウル:みゃあ。
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