第3話

オープニング


探偵は考え込んでいた。

腕を組み、足も組み、

「僕は桃組」

黙れ

ではなく、なんで私のナレーションに反応できるんだ!

「僕は名探偵だからね。そんなことより、もうこのシリーズも3話目。オープニングがあってもいいんじゃないかと思ってね。」

オープニングって?

「つまり、本編とは関係ないようなちょっとした小話を初めに入れるんだよ。」

なるほど。それでその小話をするのは?

「もちろん、君だ。僕は名探偵、君は小説家。どう考えても君が書くだろう。適材適所なのだよ!」

ふざけるな!と言いたいのをぐっと堪え、それならなんか話題をくれよ。と話を振ってみる。

「なんか、いつものナレーション気分なのかもしれないけど、全部聞こえるからね。」

そんなことより、話を振ってくれないか。ぜろからつくるのは、いくらなんでも無理だ。「ふむ、今のところは『うるさい名探偵のことは無視して、』とナレーションが入るところだが、学習してるね。」

もうこのノリはいいだろ!こんなことしてると、オープニングで読者に飽きられて本を閉じられるぞ。

「わかったわかった。話題ね。う〜ん。」「名探偵はしばらく悩んでいたが、突然立ち上がって作者を指さす。」

自分でナレーションを入れるな!読者が混乱するだろ。

「うるさい作者のことは無視して、名探偵は続ける。」

「お題はズバリ、『耳』だ。」

……お前本編知ってるだろ。

「いや、僕はただ3話目だから『33』で耳としただけだけど?」

本当か?

「まあ、いいじゃないか。本編と関係があるなら、もう始めてしまおう。そもそも、このオープニングの時間軸はいつなのかとか決めずに始めたのだろう?だから、こんなに話がまとまっていないんだ。」

ギクッ(=◇=;)

「それでは、本編をどうぞ!読者の皆さん、しばし『耳』を拝借いたします。」

読むんだから目だろ。と突っ込みたいところだが優しい私は黙っておく。

「だから聞こえてるって。」

……。



本編



その日、探偵はいつも通り朝のコーヒーを嗜んでいた。

──バタン

部屋のドアが開く音がした。

「はーい。どうぞ入ってきてください。」

探偵はそう言ったが、何の反応もない。

「あれ?」

探偵は玄関の方へ行った。

「あっ、うっ…。」

そこには1人の子どもが申し訳なさそうに立っていた。

「どうしたんだい?」

探偵が聞くが、子どもはしきりに手を動かしている。

それを見て、探偵は気づいた。

この子は耳が聞こえない。しきりに手を動かしているのは、手話をしていたのだ。

探偵はある機会に耳の聞こえない人と会話することがあったため手話はできる。

『ここは精神探偵の事務所だよ。何を相談しに来たんだい?』

探偵が優しい顔をして語りかける。

『ぼ、僕は小学生で、えっ、えと、学校で、虐められて。』

手は終始震えていた。

『ここは安全だよ。さあ、中に入って。オレンジジュース飲む?』

『うん。』

探偵はその子を居間へ通し、ジュースを用意した。

そのジュースを1口飲んだあと、やっと手の震えが止んだようだった。

『さて、早速だけど、何があったか教えてくれないか?』

ゆっくり手を動かす。

『ええと、僕は、いじめられて苦しくなったから、ここにきたの。』

『どうゆういじめにあったんだい?』

探偵自身はコーヒーを飲んでいる。

『えっと、いちばん多いのは無視されること。殴られたりは全然ない。けど、近づいたら逃げて行ったり、されて…。』

『君の名前と、学校名学年を教えてくれる?』

名前はSさん。公立小学校の2年生だった。

生まれつき耳がほとんど聞こえず、仲良し学級で、普段は普通の学級で一緒に授業を受けているらしい。

探偵は、しばらく悩んでいたが、やがて顔を上げると

『3日待ってくれないか?』

考える時間を設けるのは、精神探偵史上初の出来事だった。

『それまで、耐えられるかい?』

『う、うん』

『よし、強いね。』

そうしてSさんはオレンジジュースを飲み干した。

『じゃ。』


Sさんが帰ったあと、探偵は悩み続けた。

そして、約束の日の前日、何やら準備を始めた。


──バタン。

ドアが開いた。

約束の3日後

『朝早く呼び出してしまって悪かった。さあ、''一緒に''学校へ行こうか。』

『え?いきなり…ですか?』

少しこわがって言った。

『ああ。大丈夫、この名探偵がついてるよ。』

そういうと、少し緊張がほぐれていたようだった。


──小学校

2人で一緒にクラスに入って行った。

その様子を周りの子ども達が不思議そうに見ている。先生は、驚かずに座っていた。


チャイムが鳴った。

探偵が教卓に立ち、話始める。

「1時間目」

「皆さんどうも、初めまして。精神探偵という生業をしているものです。」

探偵はぺこりとお辞儀をした。

いつもと違う人が教卓にたっていて生徒たちはキョトンとしている。

「今日は手話の授業をしようと思う。そしてなんと、Sさんが先生をしてくれる。」

探偵の隣にはSさんがいる。生徒たちは、はあ、という顔をしている。別にいやという訳では無さそうだ。

『よろしく』Sさんが手話をすると、

「よろしく、って言ったんだ」

「こういう風に僕が言うからSさんに続いてやって見てね。」

続けて基本的な挨拶などを教えた。


「じゃあ、歩き回って周りの人と会話してみようか。Sさんもまじるからね。僕とも会話してね。」


みんなが散らばってワイワイし出す。

Sさんが探偵をちらっと見る。探偵はにこっとして、Sさんの背中を押した。

Sさんがみんなの中に入っていく。

『こんにちは。』

『こんにちは。』

みんながSさんと話したがった。Sさんの顔がほころぶ。

探偵はその様子を優しそうな目で見ている。

探偵は小学二年生で本当に良かったと思った。周りのみんなが純粋なうちに救えて良かったと。


帰りも探偵はSさんと一緒に帰った。

『学校、楽しかったかい?』

『うん。楽しかった!』

笑顔で言ったSさんを見て、探偵も微笑む。

『良かった。』


しかし、探偵はまだ悩んでいた。

もし、これが中学生くらいだったら同じように上手く解決できていただろうか

クラスメイトもあんなに恵まれたクラスばかりではないだろう。

きっと、状況に応じて対処が変わっていたに違いない。

「まあ、いっか。今回解決できたし。」

そう言って探偵は事務所の椅子にもたれ掛かり、気づくと居眠りしていた。



          ──精神探偵③終──

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