(下書き)倫毅 独白
超常的な能力を一つ貰えるとしたら、一体何を望むだろう。
小学生の時は街中を自由に駆け抜けたいとか、空を飛びたいとか、火を出したいとか、そんなヒーローみたいな能力を望んでいた。
中学生の時は透明人間だの、最高の記憶力だの。現実味を帯びるというか、現実に対して反発するような思考に変わったりもした。
でもやっぱり当時の僕が一番欲しいなと思ったのは「何処にでもいける能力」だった。テレビや写真で見る外国の観光名所や、自然の神秘。
もし未来のひみつ道具みたく、一瞬でその場所に行き、一瞬で帰れたら。きっと楽しいに違いないと。
「倫毅。そうやって取り皿を使わずに食べるのはやめなさい」
もしやと思って下を見たら目玉焼きの黄身が白いシャツの上にネトーッと落ちていた。洗い物が目の前で増えてため息を吐く母さん。世の中のヒーローにはこういう所が無いのだろうか、超常的な能力があれば、主人公補正が加わってこういった情けない所は生まれなくなるのだろうか。そんな事をボンヤリ考えていた。
ーー結論から言うと僕の予想は半分当たって、半分外れた。
きっかけは中学二年生の頃。ある日僕は一人で外に出かけ、中古のゲームや漫画を品定めしていた時に声を掛けられた。
「それ面白いよね」
今となってはすっかり顔を忘れてしまったけれど、でも少し年上の中学三年生に見えたような気がする。
会話の内容はあまり覚えていない。多分棚に並んだものを一つ一つ取り上げては、思い出を語っていくような感じだった。
「NPCがさ、槍とか槌とかの特性を話すんだけど主人公は剣以外使えないの。絶対納期に間に合わなかったんだぜ、本当は他の武器も使える筈だったんだろうなあ」
「これグラフィック的には一世代前のハードなのに、ちょっと綺麗にして複数ハードで展開してるんだ、アコギだよ。携帯ゲーム機だとしても出来が良いって言えないし」
新しい友達が出来たと思った。学校ではなく、外の環境で出来たという事が何よりも嬉しかった。2時間はあっという間に過ぎて、午前中までに家に帰るつもりが間に合わなくなるまで話しまくった。
「連絡先交換しよう」
僕は一も二もなく応じた。
スマホには既に1件のメッセージが来ていて、出かけているのかと僕の外出を不思議がるような連絡だった。
父さん母さんは基本、週末に一気に食料品を買い溜める。だから僕は家でずっとゲームをして過ごすのだが、二人はそのつもりでいたんだろう。
「親御さん?」
「うん。もう帰れって、だから来週遊ぼう」
その日は何も買わずに帰ったけれど充足感に満ちていた。家に着いた時には、両親が昼ご飯として買ってきてくれたハンバーガーがめっきり冷えてテーブルの上に置かれていた。
「遅かったわね倫毅。コーラはもう氷溶けちゃったわ」
「聞いてよ母さん、友達が出来たんだ」
「あら。友達に会ったんじゃなくて?」
「うん。来週遊ぶことにしたんだ」
一緒に昼ご飯を食べちゃうかもなんて言ったら、1000円のお駄賃を貰った。休日の昼に流れるテレビ番組をニュースだのぶらりバス旅だのに切り替えながら、本当に話がよくあったんだと自慢気に話した。
「この人は僕の叔父なんだ。叔父さんもゲームが上手くてさ」
友達は叔父さんに車で送って貰ったらしく、そのまま僕たちは三人で街へ出かけた。
「今日はお邪魔しちゃって申し訳ないけど、この子が帰るまでいてもいいかな?」
「は、はい。勿論」
叔父さんは柔らかな笑みを浮かべ、友達は僕と肩を組んだ。
「じゃあ、思いっきり遊ぼうぜ!」
先週と同じように売れ筋のゲームでめぼしいものを見つけたり、友達と二人でゲームセンターに行ったりした。叔父さんは缶コーヒーを買って遠巻きに見ていたりあくまで付き添いといった風に僕たちを見守ってくれた。
またしても2時間はあっという間に過ぎて、
「折角だしお昼ご飯を奢るよ」
「え!?いいですよ、そんなーー」
「心配しないで、大した額じゃないんだから」
叔父さんはカウンターの左側に陣取り、何が良い?だなんてメニューを指していった。適当なバーガーセット、飲み物はコーラ。叔父さんだけはポテト小だけを頼み2500円程度の支払い。
財布から千円札を取り出そうとしたが、叔父さんが僕の手をそっと制する。
「二人は席取ってくれないか?」
「了解」
そこのバーガーチェーン店は二階建てで、少し縦に細長い形状をしている。一階に食べるスペースは無いが、二階に上がって友達は一番奥まった四人家族の席に座った。
ーーー
「ーーところでさ、広束君は」
麻薬?
「最近悩みはないかい?」
「俺と一緒に遊ぼうよ。日曜は決まって集まる場所があるんだ」
「今日は一日中予定を開けてくれたんじゃなかったのかい?」
「・・・・・・ごめんなさい。やっぱり駄目です」
「いや、手違いがあったらそれで良いよ?」
「今日は」
「ごめんなさい、ちょっとトイレに」
ーーー
「」
母さんは買い物袋を懸命に両腕で、一人で家まで運んできたようだった。
「もう帰ってたの!?お父さん車で迎えに行っちゃったのに」
「・・・・・・」
「お父さんに連絡するから、そこ座ってなさい」
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