(下書き)「新見 広束 食堂」

  凸新見さんと愉奥に連れられて、新しい「友達」が増える事になった翌日。愉奥にも詳しい事情を聞きたかったがなんとなくそれが躊躇われた、金曜日。凹

 凸新見さんは今朝のHRの間にひょこっと現れた。凹

 凸「広束君、一緒に昼ご飯食べよう」の一言を添えて。凹

 凸いわゆる「グループ」の呼び出しだと思ったが、愉奥には声を掛けず線を送る事もしない。聞こえていなかったらアレだなと思って机の下でこっそり愉奥のSNSに連絡を入れる。凹

 凸女子と一緒にご飯を食うという事が希少だが、隣で聞いていた鴨居の反応は冷ややかで。凹

 「呼び出しか?」

 「・・・・・・鴨もそう思う?」

 「気を付けろ、あいつ情報屋だから」

 凸鴨居が言うには学内の事情通と呼べる人で、鞄の中身を荒らしたイタズラの犯人から放課後の誰が誰に告白したかまで、色んな事がいつの間にか彼女に知られているのだという。それが新見さんの「観察」の賜物であると知らなければ、彼女が学内情勢の影の支配者のように扱われても仕方のない所だ凹

 凸片手に握っていたスマホが震える。着信は一件、「私は行かない」と過不足無い拒絶のメッセージ。凹

 ※とはいえ結局は自分の地元で起きた事件が発端なのだから無視は出来ない。倫毅は昼食時を迎えるとちゃんと学食へと向かった。※

 ○図書館へと向かう道中に見える大階段を下り、一階に降りる。一階にあるのは購買と自動販売機、使われている形跡の無い空き教室と裏口のみで、休み時間にしか利用しない。その分学食はとても広く、有名なカラオケチェーン店が運営しているらしく、唐揚げとポテトがまさにソレ。ドリンクも水とお茶だけならよく見かけるサーバーで提供されている。後は大画面のディスプレイとカラオケセットがあれば完璧なのだが当然そんな物は無い○

 ※学食へと続く大階段は凄い行列が出来ていた。横一列に何人なんて行儀の良い並び方をする訳もなく、中には男女グループがバリケードの如く手を広げたと思えば末端の男子生徒が「自分はここの一員だ」と無言で主張しつつ、壁際の自販機でパック牛乳を買う者までいる※

 凸それに比べ、一人で並んでいるのを後ろから見れば思った以上に目立つもの。案の定後ろにいたグループから横に並んできた所だった凹

 「こーんちはっ」

 凸声のした方を向くと新見さんが横入りも気にせず、グッと肩を差し込むようにやってきた。凹

 ※さっきまで隣に並ぼうとしていた一団が下がった。不意をつかれたかの如く後ずさる※

 「今日はアジフライと豚のしょうが焼きだったよ」

 ※学食メニューのアラカルトAとBの事を言っているのだと倫毅は思った。※

 凸先に確認してたのか・・・・・・なんて口に出す前に新見さんが何でもない場所を指さしている。食堂の斜向かい、真っ暗な空き教室の上の細長い窓、欄間の部分を。凹

 「まさか、あそこから見えるの?食堂のメニュー」

 「昔あそこ空いてた事があってさ、よじ登って設置しちゃった」

 「よじ登って!?」

 凸つまりはあの窓に新見さんの能力の媒介、観察の為のビー玉が設置されているのだろう。ただでさえ部屋の中が暗い上にあんな場所は普段掃除されないのでバレる訳がない凹

 凸新見さんはその視界を通して食堂入り口のメニュー看板を見ているのだ凹

 凸倫毅にはどうしても気になった事があった。凹

 「・・・・・・その、いったい何個設置してるの?」

 「え、何個かな。でも満遍なく蒔いてるよ。同時に見るのは無理だけど、設定するのは簡単だから」

 凸まさかトイレに設置してないよなとか下世話な事を考えたけれど、まだそんな事を軽々しく言える間柄じゃないし、仮に本当だった場合がやるせない。凹

 新見さんは辺りを見回すとひっそりとため息をついた。

 「甘木さんは来ないって?」

 「私は行かないってハッキリと」

 「・・・・・・う~む」

 ※新見さんはなんだがアメリカンドラマのキャリアウーマンのような仕草で、倫毅に質問した。※

 「私さ、嫌われてるよね。甘木さんに」

 ※それは余りにも明白なもので、否定も相づちも虚しいだけ。倫毅はただ黙々と同意してしまった※

 凸なんなら鴨の評価も含めると、新見さんの評価はツーアウトだ。凹


 「それで、進展は?」

 凸回転率重視のかけうどん。新見さんは三色丼。つい癖で食堂の端、奥まった方に行こうとして、でも真後ろという訳にもいかず、真ん中より少し後ろに付いた凹

 「進展?」

 「いや、昨日の事件」

 「全く?別に私たち刑事じゃないもん。それに基本は解決したって事後報告だけだよ」

 凸確かに備海さんが「巻き込まない」と言った以上、進捗を新見さんに伝える方がおかしいのか。聞くならあそこで聞かないと凹

ーーー

 凸ダボッとしたカーディガンの袖を捲り、レンゲを使って口に運ぶ凹

 凸喋る事が浮かばず、沈黙を埋めるようにかけうどんを食べる凹

 凸やっぱり中々普段の立ち振る舞いは変えられない。威圧するつもりは無いのだがわかめとねぎだけのうどんなんてせいぜい二分だ。凹

 「本当ですか?」

 ※ごちそうさまでしただの、手を合わせるだの殊勝な事もせず、手持ち無沙汰で辺りを見回す※

 ○食堂の左右には自販機が並び、紙コップで提供されるコーヒーの奴とかパンやおにぎりの入った購買らしい自販機やらが並ぶ○

 「なんでそんな怪しむの」

 ※新見さんはペースを速めているが口が膨らむばかり。なんだかリスみたいだ※

 「いやまあ・・・・・・超能力に目覚めた者同士集まろうって、傍から見たらねえ」

 ※その言葉が余計に闘志に火をつけてしまったらしい※

 「それに愉奥の事が心配です。まさか人知れず・・・・・・」

 凸そりゃ自分の知らない友達が出来るのは当然だけど凹

 「甘木さんなら分かるよ。人の意識が読めるんだから」

 「え?」

 太ってないだろ、と思ったが喜ばれても何か言われても困る

 「あれ、聞かされてない?」

 「全く」

 「・・・・・・そうだったんだ」

 ※辺りを見回す。愉奥が知ったら怒りそう※

 「まあいいや。そうなんだよ。人の意識が見える能力」

 「知らなかった」

 「まあ打ち明けないと分かるわけないよね」

 ※唇を尖らせる。言ったかと思ってたと呟いている※

 「じゃあなんで甘木さんは君の事だけ一方的に知ってたの?」

 「え・・・・・・笑いません?」

 「わかんない。なにを?」

 「きっかけです」

 ※小学五年生の時迷子になった※

 ※その時、甘木のご両親と会ってなんとか再会したのだ※

 「うちの両親とあちらのご両親が保護者会で仲良かったらしくて、連絡を取り次いでくれました」

 「ああ、それで」

 「・・・・・・でも冷静に考えたらおかしくて、なんですれ違ったんだとか言ってたら俺が打ち明けました」

 「何言ってるんだって思われたんじゃない?」

 「いや、そんなに」

 「意外だな。冗談が通じるように見えないから」

 「確かにやけに物わかりが良かったですね。まあ涙目だったし」

 「案外その頃から見えてたんじゃない?」

 「そうなんですかね」

 「私は小学二年生だもん」

 「マジすか」

 ※※

 「新見さんはどうして」

 「学校の自由工作でお父さん人形を作ったの。その時に目玉代わりだったビー玉だったの。なんていうの・・・・・・ランドセルを入れる棚の上に並べてさ」

 ※だからビー玉が目なのか※

 「授業中に居眠りしてたら、居眠りしてる自分の背中が見えて驚いて声上げちゃったの」

 「それはびっくりするね」

 「それが自分だけの能力だって気づくのに凄い時間掛かったよ。昔は少年マンガ雑誌読まなかったし、少女漫画にそういう題材は無いからさ」

 「ああ、なるほど」

 俺はワクワクしながらもしょんぼりしたけど、そのワクワクは少年漫画があったからだ

 「結局地元じゃ不思議ちゃん扱いになっちゃった」

 ※なんとなく天井に向かってぼやいた※

 「だから私は、正直ありがたいよ。重心の事が話せて」

 「・・・・・・なるほど」


・新見という人の考え方

 「新見さんが最初だったんじゃないの?怖くなかった?」

 「全然。むしろ重心の話が出来てホッとしたよ。小学生の頃はまだ分かってなくて、先生とか昔の友達に話しちゃったからすっかり不思議ちゃん扱いだもん」

 「どうやって気づいたの」

 「寝てる時。自由工作で作ったお父さん人形が教室の棚の上に並べられて、その人形に使った目がビー玉だったの。夢を見たときすごくリアルな教室を見たなって思って。小学二年生だったな」

 まあビー玉を通して別の視界を得られるなんて言っても信じられないだろうな。俺の場合は瞬間移動だから異変だってすぐに自覚したけど、小学二年生ならまだ応援してくれるだろうが、段々心配される

 「広束君はどうして能力を自覚したの」

 「単純に迷子になったんだ。小学五年生の時地元の祭りで迷子になった。人に聞くのも恥ずかしかったからさ、手を合わせてゆっくり歩いてたらいつの間にか家に帰っちゃってて。驚いたのもそうだけど、親に連絡入れるのも」



・愉奥の能力を新見がバラす

 「納得行かない?」

 「正直、あんまり」

 

 「でもそれに関しては甘木さんは人の意識が読める」

 「え」

 「言ってなかった?」「私が悪い?」



・自分と同じようなタイプに会ったらどうするか

 「そんな事より甘木さんの話をしようよ」

 「・・・・・・愉奥の?」

 「それっ!」

 ビシッ、といきなり指をさされた。

 「な、何だよ急に」

 「甘木さんとは親しそうじゃん。名前呼びなんてさ」

 「そりゃまあ、幼なじみだから」

 「でも甘木さんだって倫毅呼びだったよ。私なんて声かけられた記憶すら無いのに羨ましいな」

 「新見さんは愉奥と仲良くなりたいの?」

 口には出せないが、あれほど強烈に近寄るなオーラを出しているものだから新見さんが仲良くしようとしているとは思わなかった。愉奥の方はそれで構わないのだろうが、俺はかなり気を揉んでいた所だ。

 「勿論。絶対面白い話が聞けるはずだもん」

 「う~ん?そうかな、しょうじきあんまり娯楽のイメージが・・・・・・」

 「あ、違う違う。趣味の話じゃなくて重心のこと」

 「重心?」

 新見さんがウン、と頷き話題を変えた。

 「広束君はさ、自分と同じタイプの重心の人と出会ったらどうする?」

 同じタイプの重心。備海さん曰く、重心とはその人の本質。性格の表裏や直感的な好みなども反映された物だと言う。

 「俺ぇ?」

 倫毅は微妙な表情をした。自分と同じ能力・・・・・・手を合わせればすぐに家に帰れる能力の使い手。

 例えば定期券を買うとき「帰りは能力で良いんだから半分小遣いにしたい」とか、「家以外にも店や空き地にワープ出来るか試そうとしたけど不法侵入扱いになりそうで止めた」とか、そんなあるあるを話すんだろうか。

 「確かに興味があるかも」

 「でしょ!?」

 新見さんはまるで30年の研究が実を結んだかの如く喜んだ。 

 「私なら今までどんな物を見てきたか、品評会を開くよ。何時間でも話せる自身がある。風船にビー玉を張り付けて空に飛ばしたり、色んな事をしたんだ。甘木さんだってきっと普通じゃ見えない景色を見たはずだし」

 「でも・・・・・・」

 首を傾げてうーんと唸る。話が弾むかもしれない。考え方で自分の重心が強化、更に良い方向に向かうかもという考えも新見さんらしい考え方だ

 けれど。

 「なんか、上手くいかないような気がする」

 「え?」

 「上手くいったら楽しいだろうけど、確証が持てない」

 同じような能力、似たような本質。「気が合うかもよ」と言われて引き合わされて、本当に合った事なんてあるのだろうか。

 もし本当にそんな人と出会ったなら、「自分の重心をどう思っているか」という所が個人的には気になって仕方がない。

 似ているからこそ、もし何かが違った時は徹底的に幻滅してしまうかもしれないからだ。

 「俺、自分の能力が好きじゃないから」

 便利だとは思ってるし、割と使う能力ではある。そういう意味では「悪くない」と思えている。でも重心がその人の本質であると言われたときは正直恥ずかしくてたまらなかった。

 「そうなの?」

 「家に帰る能力って、出不精って事じゃん。実際そうなんだけどさ、ヒーローっぽくない」

 ※※

 「広束君、結構ヒーロー願望強いね、生粋の帰宅部なのに」

 「もし俺が愉奥と逆の立場だったら言わないよ。恥ずかしいし」

 「・・・・・・じゃあなんで甘木さんは広束君の能力を知ってるの」

 

・愉奥と倫毅の距離感

 「同じような人に話したくないって事はそもそも誰にも打ち明けないんでしょ」

 「・・・・・・ゴメン、それは言えない。キツい」

 「そう」


 「そんなに気にしてるのに、なんで距離が離れてるの?」

 「見てて歯がゆくてさ」



・実は新見と愉奥は似てる

 「・・・・・・本当は愉奥に了解を取らなきゃいけないと思うんだけど、新見さん相手じゃ絶対降りないだろうから省略する」

 「お、話が分かるね広束君」

 「その代わり愉奥にも誰にも言いふらさないでよ、俺嫌われるから」

 「そんな良い情報があるの?」

 ワクワクを隠せないと言ったばかりの表情だ。

 俺が新見さんに抱いている懐かしさ、それは別に昔あった事があるとかではなく。

 「昔の愉奥はもっと、新見さんみたいな性格だった」

 「・・・・・・私に?」

 今までに見たことないくらい新見さんの右頬が皮肉げにグニャリと、鼻で嘲笑うような表情になった。よっぽど信じられないんだろう。

 「嘘ぉ、またまた」

 「本当だよ。愉奥も過去の自分を重ねてるはず。人の事情にすぐ首突っ込む所とか」

 「・・・・・・それ、褒めてる?」

 「少し違うのは愉奥は冗談半分じゃなくて真剣だった事かな」

 「ねえ、褒めてる?」

 「でも真剣過ぎてさ、ちょっと仕切り屋な面があった」

 「ねえってば」

 肩をぐらぐら揺らされる

 「褒めてるって」

 やっぱり心の内を見透かされたりなんなりという能力は侵入者に近いんだろう。俺だって新見さんとはまだちょっと距離を離してる部分がある。家が見張られてるかもしれないし。

 「人の心が読めるかあ。考えてみればそうだよね、何で俺ピンと来なかったんだろ」

 「・・・・・・でもそれは向こうが打ち明けないと分かりようがないんじゃないの?」



 「じゃあなんでああなっちゃったの?」

 ちょっとチクッとする言葉だが、まあ他人から視ればそんな感じだとは思う。実際、人の心が見える能力ってのは打ち明けてもいい事が無い。気兼ねなく話そうにもふとした瞬間に気まずい事が起こりそうだし、黙ったら黙ったでじっとり観察されてるような気分になるだろう。

 言いたくなかったのも頷ける。 

 「・・・・・・新見さん。スリーアウトチェンジ」

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