第28話 クレハ様は翻弄される
〈クレハ〉
唐突にされたことの理解が追い付かずになにを言うのかも忘れてしまう。
困ってしまえばレオンはそのまま強く抱擁をしてきて、このクレハが何を言ってるわけでもないのに愛を囁いてくれる。
「寂しかったよ、僕がいなくてもクレハはいいかもしれないけど僕にはクレハがいないといつでも狂ってしまいそうなんだ。もちろん今こうしている間は幸せそのものだよ、クレハ愛してる」
「な、なななな」
どうしてしまったんだこいつは!たしかに黙って行ったのは悪かったと少しは思わなくはないがセナにはちゃんと伝えたはずだ!というかそれにしたって変わりすぎだろ!誰だよお前は!
「クレハはその可愛らしい唇で僕のことを求めてくれないのかな」
「なにを言ってるんですか!?」
「僕はただクレハの正直な気持ちを知りたいだけだよ、僕のことを好きと言葉にしてほしくてね」
顔を見れば大真面目な顔をしているしいつものレオンの顔に違いはない、違いはないが中身が違いすぎないだろうか!いつもの草食系男子みたいな感じの雰囲気はどこにいったのか。
というかこのクレハがレオンを好きと!確かに答え保留にしても別にいっかなーとか適当にしていたけど、それでもこんな風に人間は変わってしまうのか!?
ストーカーみたいなことは放置したらやばくなるみたいな話は聞いたことはあるが元々そう言う気質みたいなものはレオンにはなかったんだけど…。
「レオン!ステイです、待ちなさい落ち着きなさい深呼吸もしておきなさい。まずこのクレハは色々突っ込みどころがあるのを分かりなさい」
「それよりもギン達に帰ったことを伝えなくていいのかな?」
「いや、え?ここで?確かに正論ですけど?」
さっき思いっきりとんでもキスをされた気がするのだけどそことかは触れない方向?
ま、まぁ確かに帰ったことを伝えないといけないと思うけどなんか振り回されてる感が否めないが言うことも一理あるのでクレハ的にはそうなのだけど…だけど!?
なにから言うべきか迷っているとお姫様だっこをされて城をレオンが恥ずかし気もなく堂々と自然に歩いて行くものだから更に困惑してしまう。
「レオン?一体どうしたんですか?悩みがあるなら少しは聞きますよ」
「僕の今までの悩みは全てクレハが解決してくれたからね。今は幸せそのものだよ」
「話聞いてますか?今現在進行形なうで色々人間性というか性格?え?これはこのクレハがおかしいんですか?」
「クレハはいつも可愛くて僕には常に夢中だよ」
「やっぱりおかしいですよ!?」
もしかして遠回しに怒ってることを伝えたいのか…?こんな積極性はレオンにはなかったはずだし。というかすれ違う兵士の目線が驚きに満ちてることを気付いてないのかレオン!
「その、えぇ?レオン?異世界的アプローチってこうなるんですか?」
「クレハは相変わらずたまに何言ってるかわからないね、そんなところも好きだよ」
「やっぱりおかしいですよね?ギンもセナもこうなってるんですか?だとしたら途端に会うのが怖くなるんですが!?」
ファンが暴走して刃傷沙汰になるとかは聞いたこともあるし、過度なストーカー事件も聞いたことはあるがレオンの場合は一応告白の件を保留してたことで情状酌量の余地はあるだろう…。
それでもここまでされたらさすがに何か言わなきゃいけないし。そう困ってるとセナがいてこちらを見て目を丸くしているのが見えた。
「え…?そういう?クレハが帰ってきたと思ったらレオンなにしてんのよ?」
「セナは正常です!良し!レオン見ましたか?普通はこうなるんですよ、分かったら一旦降ろしなさい!」
「大丈夫だよクレハ。セナ、クレハが帰ってきたんだけど疲れてるみたいなんだ。ギンにも伝えるけど部屋まで連れて行こうと思うんだけど大丈夫かな?」
疲れてるなんて一言も言ってないのだけど!これはあれか回復魔法で治るものだろうか…それとも毒とかそういう分類だったりしちゃうのだろうか。
「えと、クレハおかえり?」
「セナただいまこのクレハ帰還しました、そして帰還したばかりですが一体何があったんですか?」
「私が聞きたいわよ、最近ギンと一緒に何かしてるとは思ってたけどレオンどうしたの?」
「僕はちゃんとクレハと向き合うことにしただけだよ。セナまでどうしたのさ?僕が何か変かな?」
セナを見れば思案気な顔をするがこちらを見て何か聞きたそうな顔をしてる。
「クレハ…断ったの?」
「…断ってはいません…無害だからいいかなと思っただけです…」
「じゃあ私からは特に何も言えないわよ?」
「そんな!ここまで変貌したレオンを置いてこのクレハを見捨てる気ですか!?」
「本人は変わってないって言ってるんだし、とりあえず話してみたら?」
それは確かにそうだけど、いきなりキスしてきて愛を囁いてくる人間にどう話せと!?このクレハもさすがに会話が通じるか通じないかは判断しているつもりだ!
それからレオンは話が終わったと思ったのかセナを通り過ぎて、さっき言ってたようにクレハの使ってる部屋まで連れて行かれる。
「レオンはどうしてこうなってしまったのかは…まぁ百歩譲ってこのクレハが悪いとします」
「クレハに悪いことは何一つないに決まってるよ」
「良いから話を聞きなさい。まずこのクレハがいない間に何があったんですか?」
「僕はもっとクレハと向き合いたいと思っただけだよ」
向き合う。たしかに付き合ってると誤解したままだとそうなるのか?そうなるのかもしれない?そうなのか?
いやそれにしても手を繋いだりとかもっと手順があるだろ!すっ飛ばして行動しすぎじゃないのか。
考えても答えが出ないまま部屋の中に入って、ベッドに寝かしつけられてしまう。
一応浄化はしてるけど、いきなりベッドに置かれても…とりあえず起き上がってレオンを見るが相変わらずの顔つきだし。
セナも言ってたから話をしないとな…何から話そうか。
「レオンは――」
「クレハ愛してる」
喋ろうとした瞬間に再度口を塞がれてしまう。
さすがに平手打ちの一つでもしなければと頭を叩いてもこのクレハの抵抗がそんなに痛くないのかそのまま深くキスをされてされるがままになってしまう。
「ぷはっ!レオン!ステイです!愚か者ですか。話をしようとした相手に対しての所業ではないですよ!」
「クレハは嫌だったかな?」
「嫌?いや?嫌かと聞かれたら困ってはいます。原因はこのクレハだと分かってるので情状酌量があるとはいえ度が過ぎてるというやつです」
やっぱり言うべきことは言った方がいいよなぁ…帰って早々胃が痛い…回復魔法で治らないから精神的なものなんだろうけど困るのだ。恋愛関係に疎いのにここでレオンを振ったらまたやさぐれてしまうかもしれないし。
そもそもレオンとどうなりたいとか深いことまで考えてない。
「それじゃ今日はここまでにしておくね」
「今日は!?明日も何かするつもりですか!」
「クレハのことだからきっと城中に帰還したことを伝えたいだろうからちゃんと準備しておくよ」
「あ、そういう…そこはまともなんですね」
このクレハの普段の行動をちゃんとわかってるっぽいし冷静?いや冷静ではないだろう。
魔力欠乏症ならぬクレハ欠乏症がレオンには出ているとかそういう感じだったのか?
優しく頭を撫でられて、言うことを言ったからなのか笑顔を向けてきて、颯爽と部屋から出て行った…。
やっぱりこのクレハがおかしいだけでこの世界だと普通なの?そういう関係にすっとぶ感じなの?
レオンがいなくなったことで脱力してベッドで寝転がるがさっきまでのことを思い出せば何とも言えない気持ちともどかしさが今になって出てきてどうすればいいのか悩む。
このクレハ…よくよく考えたら、保留にしてたとはいえ一応付き合ってる?ことになるのか。
城の兵士にも色々見られていたから話題になってるかもしれないし…えぇ?そうなの?そういう感じに進んじゃってる系?
見習いにちょっと不純な気持ちを抱いたこともあるけど、それは興味本位だし恋愛的なものではないしな…そもそもこのクレハが恋とかあんまり考えてないのにアイドルのはずだし…。
駄目だ考えてもモヤモヤする気持ちが湧いてしまう!あー!
***
〈レオン〉
凄く…緊張した。正直クレハが何言ってるか頭に入ってきてなかったし、セナと会って会話した内容もほとんど覚えてない。
それでもちゃんと師匠に言われた通り、好きだということを伝えた上で行動にも示せたと思う。
ギンのところに行ってクレハが帰ってきたことを告げるとギンはちょっと複雑そうに笑いながら喜んでいる。
「なんというか…その現場を見れなくて残念な気もするし見なくて正解だった気もするから俺としてはなんとも言えねえな…」
「僕はうろ覚えで行動してたから客観的にどう見えていたか気になるよ…」
「それなら途中でセナに会ったんだろ?聞けばいいんじゃね?」
「そうか…」
それもそうかと思うが、セナもセナで何かクレハに任せるとか言ってたし。こういうことは当人同士の問題なのかもしれない。
クレハが戻ってきたことを今更になって感じるが、僕としてはもっとゆっくり話したかった気持ちもある。
きっと明日からはクレハはまた城や町を動き回って皆を癒していくんだろうし。二人の時間があるときに出来ることをやっておきたい。
「とりあえず、俺も後で行ってみるし。寝てたら明日にはクレハに挨拶しとくからよ。ジャルダンやフェルメルにも俺から伝えておく」
「ありがとうギン、僕はこれからまた師匠にアドバイスを貰いに行ってくるよ」
「そ、そうか…俺から言えることはあいつらにあまり感化されすぎるなよ?あくまで参考にする程度にしとけよ?」
そうは言うが、実際に今日行動してみて思ったこともある。クレハが困惑してはいたがそれでも頬を赤らめている仕草とかを思い返せば…すごく可愛かった。
それを見るためなら僕はもっと師匠たちの話しを実践してみたくもなる。
***
〈クレハ〉
一睡もできなかった。考え込んでいれば気づけば朝になってるし。
食事も済ませてセナにどうしようか相談しようと思ったら、レオンがやってきて準備が済んでると言ってきてからコンサートを開くことになって皆に帰還したことを告げて精一杯の笑顔を向けるが昨日のこともあってあまり集中できてなかった気もする。
終わった後は今度こそセナに会おうと思ってレオンがまた何かしてくるかもと思うと速やかに城まで走って逃げるようにおさらばしてセナの部屋に一直線に向かう。
「セナ!いますか!」
「あぁ…来たのね」
ちょっと気だるげな様子のセナがいたので回復魔法をかけてあげて気持ちよさそうにするので、何から話そうかと考えていたら旅路のことを聞かれた。
「サラザンドの方はもういいの?」
「ほとんど解決しました。伝染病みたいなものとかはおそらく不衛生が招いた結果だと思うので普段から身を清めれば問題ないと思います」
「そういうのも治せちゃうのね…次はどこに行くとか決めてるの?」
「次は霊峰ですね。とはいえヴォルグハイエンが育児で忙しいそうなので国王代理が使ってる通信機で魔王と連絡を取って様子を見るつもりです」
最初は旅館みたいなものを想定しているけど、規模が大きくなれば神殿も作るだろうし。
そのことに関してセナと話していると楽しく光の大聖女クレハ様とは本来こうあるべきなのだと再度自信も取り戻せてくる。
「セナといると落ち着きます」
「なによ急に。まぁ昨日のレオンを見たらそう言いたくなる気持ちもわかるけど」
「今日も朝からスタンバイしてましたよ、このクレハのやりたいことを手伝ってくれるのはいいですけどここまでアプローチされるとどうしたらいいのか困ります」
「そもそもクレハはレオンとどうなりたいのよ?あのまま放置してると多分もっと過激になっていくわよ」
今でさえ過激だと思うのにさらに過激になられたらどうしようもなくなる。
しかしどうなりたいかぁ…あんまり深く考えたことはないけど友達というものをどう扱っていいのか分からないんだよな。
セナはクレハを気遣って話してくれるし。ギンは一緒に馬鹿をしてくれる感覚で話しやすいし。レオンはなんというか元々そんなに意識してなかった。
ヴォルグハイエンはそもそも妻帯者だし、魔王も種族的になんか違うだろうとも思う。そもそもそんなに関わってないしね。
んー…。
「一番早い解決はちゃんと向き合うか、好きじゃなかったとかクレハならいくらでも言い様はあるでしょ?」
「そうですけども…そういえばギンと最近遊んでてあんな性格になったんですよね?」
「そうね。ギンに聞いてみる?」
「クレハ的に今のレオンに何を言えばいいのか分からないのでそうしましょう」
セナも一緒に悩んでくれるのをありがたく感じ、そのまま二人でギンを探していればジャルダンが中庭で稽古をしていて、先ほどレオンと一緒に町まで行ったと聞けた。
「町の方まで行ってたら探せなくない?」
「それなら問題ないかと、ギン殿は花街によく行くそうなのでそのあたりを探せば見つかると思いますぞ?」
花街か、あまり一応病気とかしてるかなとちょこちょこ顔を出しに行ってるけどやっぱりギンもそういう性欲的な物を持ってるんだな。
「それって…いえ、ジャルダンありがとう。クレハは行くの?」
「見つかるならそれに越したことはないのでとりあえず行ってみましょう。ついでに浄化もかけてあげれば花街なら喜ばれるので都合も良いです」
***
花街で綺麗にしていきながら進んでいき、ついでにギンの話しも聞いて回っていたらレオンの話しもちらほら出てきたりする。
あそこの店に行ったとか、こっちの店に行ったとか。
「セナ…この世界は好きな人がいても花街に行くのが普通なんですか!?淫らです!」
「んー…そんな予感はしてたけど…普通かと聞かれたら人によるとしか…」
あいつはこのクレハの体目当てだったのか…!?だからかスキンシップが帰ってきたら激しかったんだ。
TS聖女はほくそ笑む『TS物語』 空海加奈 @soramikana
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小説を書く君に/空海加奈
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 7話
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