第27話 レオンは愛し方の鍛錬

〈ギン〉


 祝いの場を設けられて騒いでるグランディア城下町ではいつも騒いでたあの名乗りが無くそれぞれがクレハが用意した舞台で子供たちが演劇をしたり、知らない誰かが歌ったりとしている。


 後からセナに聞いた話ではヴォルグハイエンに乗ってサラザンドを浄化しに行ったとか言うので帰ってきたら怒らないといけないだろうなんて思う程度には寂しい思いをさせられた。


 俺よりもショックを受けてるのはレオだろうが、それでも何も告げずに行くとは思ってなかったから驚いた。


 セナには伝えていて俺たちに伝わってないというのも納得がいかん…まぁクレハだからで済ませられるのだが。


「僕たちは頼りなかったのかな」


 久しぶりにレオが後ろ暗い気持ちになってるようでそれを慰めるのも俺の役割かと思って大丈夫と言っても前みたいに酒を飲ませてせっかく祝いの場なんだから主役がもう少し目立った方が良い。


「レオはあんま気にすんなよ、クレハのことだからすぐに帰るつもりで行ったんだろ」

「一言も無く行くなんて信用されてないんじゃないのかな」


 俺も言いたいことはあるのだからそう言われると困るんだがなぁ…。


 気にしすぎたらそれこそ終わりだろ。そう思って酒を一気に飲み干してレオを連れて町を歩く。


「たまにはレオも何かしてみたらどうだ?」

「なにかって?」

「楽器弾けたろ?クレハがいなくても演奏してやってみりゃ気分も紛れるかもしれねえ」


 思い付きで言っただけだが。真に受けて演奏しに行けば、以前よりも上手くなってる演奏は客受けも良いみたいでそれも勇者が弾いてるとなれば人だまりも出来て行った。


 随分と遠くに来ちまった。俺の周りにも勇者一行ですよねとか言いながら近づいてくるやつもいて。


 クレハがいなくても俺たちは十分に目立って町の話題は勇者一行の話しで持ち切りだったりとする。


 誰が予想できたよって話だ。クレハがいるから楽しいと思えたこともクレハがいなくても周りは楽しくしていて、もちろんクレハのおかげって思うこともあるけど俺やレオが何かをすれば周りは楽しそうにしてくれる。


 これがクレハの見ていた風景なのかと思えば悪い気分はしないが、何か足りないなと思って仕方ない。


「ギン、そろそろ行こうか」

「もういいのか?それじゃあどこに良い酒があるか探しに行くか」


 いつ戻ってくるか分からないお姫さんがいなくても良い風景を見ると寂しい気持ちと本来クレハがいないのが普通だった生活を懐かしみながら俺たちは騒ぎの中心となる。


     ***


〈セナ〉


 まさかあの子レオンにもギンにも伝えずに行くとは思ってなくて、困ったときはギンに酒を飲ませてこいと追い払ったけど。


 そしたらそしたで私が暇なのよね。城下町まで行けばクレハがいつもは対応してくれてたけど私一人だとなんて言えばいいのか困るし。


 どうせなら無理言ってクレハについて行けば良かったかなと思うけど、それも「すぐ帰ってきますから」と言って飛び立ったのだからどうしようもない。


 早く帰ってこないかなと思いつつ城のテラスでお茶を飲むけど、セシリアもいないならいないで寂しいものだ。あの狂信者も普通にしてくれれば話し相手くらいにはなるのに。


 聖典を開いてもう何度も読んだそれを見ながらふと思うのは私は元々一人でいることが多かったことで、あの子と出会ってから一人でいることがなくなった。


 レオンともギンとも仲良くなれたと思うし、向こうから話しかけてくることも増えたし今みたいに一人の時間が寂しいとか、心細いみたいに思うようになったのはクレハのせいだと思い帰ってきたら文句を言ってやろう。


 ヴォルグハイエンがいるとはいえ一人で行くのはやっぱり危なかったとか…。


「あー…クレハと一緒にいたら楽しいと思わせてくれるんじゃなかったっけ」


 そのクレハが離れたらそれもなくなる。仕方ないからたまには教育施設にでも行って交流してみようかな。いやそれよりはフェルメルと話した方がいいか。


 探して適当に話題を出せばあの魔族は知性溢れていて魔法の話しに困ることは無いし。


「聖典の続き…早く書いてよね」


     ***


〈レオン〉


 数日経っても彼女が帰ってくることはないから、多分毎日忙しくも沢山の人を笑顔にするために奔走してるんだろうなと思うと誇らしい気持ちもあれば寂しい気持ちもあって。


 彼女にどれだけ依存しているのか自己嫌悪してしまいそうにもなる。


 不安な時は彼女に話せばいいというのも、クレハそのものがいないときはどうすればいいのか。

 やることと言ったら稽古かギンとジャルダンも混ざって飲み歩きしたりとするけど。


 セナも寂しそうにしてるから何かしてあげたいけど「辛気臭い顔してこっちにこないでギンの所に行けば?」と言われたのでそんなに僕は酷い顔をしているのだろうか。


「レオンさんはもう落ち着いて過ごすの?」


 ギンと一緒に来た飲み屋で女性がそう聞いてきて、考える。

 もう戦わなくてもいいのかとも思えば、まだグレファスの残党が残っているからそれが何をするかも分からないというのもある。


「レオはまた難しく考えてるだろうけど、俺たちはもう数年くらいは戦わねえんじゃねえの?」

「そう、かな?」

「じゃあレオンさんもギンさんももう落ち着いて身を固める時期ということなんですね!もうお相手は決まってるんですか?」


 身を固める。結婚して一緒に居を構えてゆっくりと過ごすのは考えてもあまり思いつかない。

 クレハがどうしたいんだろう?と思うのがある。


「どうだろうな?うちのお姫さんがまた何か企んでるそうだからグランディアには残らないかもしれねえけどな」

「あら?そうなんです?」

「なんでも霊峰とか神殿とかがどうだの言ってたな」


 温泉がどうだのと魔王とグランディア国王に言って作らせてる山のことだろうけど果たしてそれもどうなることか。


「色恋沙汰もそろそろ決めておかないとみんな勇者様や戦士様と変な目で見られちゃいますよ?」


 そう教えてくれるのは嬉しいけど、実際にギンはそこそこに遊んでるらしいが。僕はそういうのを基本的には断ってる。


 こうして酒の席を一緒にすることはあっても僕にはクレハがいるから。


「たまには息抜きも必要だと思いますよ」

「レオはいつも真面目に考えてるからな。まぁ息抜きも必要だとは思うぞ?無理は言わないがそれでも女がどう思ってるのか聞くだけも出来るしな」


 たしかにそう言われれば僕はセナにも邪険に扱われるし、クレハに少しでも近くにいたいと思っていると素っ気ない態度しか取られてない。


 少し強引に迫ろうとすれば恥ずかしがってるのか罵倒されてどこかへ走って行かれてるし…そうか僕は女心が分かっていなかったのか。だから何度も失敗していたんだ。


「どうすれば女心というのが分かるのかな?」

「あらあら…そういう話を聞いたことなかったのにレオンさんも気になる方がいらっしゃるの?」

「レオの場合は難易度が桁違いだとは思うけどな」

「話だけでも聞けるなら少しでも参考にしたいと思ったんだ。僕は今まで自分のことしか考えれてなかったから」


 言えばお店のことを色々教えてもらうが、あまりよく分からないのでギンが後で選んでくれるというので大人しく話を聞いて今日は城に帰ることにした。


「明日以降は詳しいやつらに当たってみるか?」

「ギンはよく行くの?」

「そりゃまぁ行くだろ?女心を聞いたりはしないが、まぁ俺も身を固めるってことは少しは考えたいしな」


 ギンが誰かに惚れたとか恋愛話しみたいなことは聞いたことはないけど。一緒に勉強するという意味では少し嬉しい。


「ギンはどんな人が好きなの?」

「俺は包容力があって…そうだなあ。胸がでかいといいな」

「よかった…ギンと争うことはなさそうだね」


 クレハはお世辞にも胸が大きいとは言えないから安心すると、ギンから白い目で見られる。


「お前それを本人の前で言ったら多分怒られるからやめとけよ?」

「僕はクレハの全てが好きだから、怒ってくれてもこの気持ちは変わらないよ」

「セシリアみたいなことを言われるとお前のそれが恋なのか狂信なのか分からなくなるからもうちょっと落ち着いたらどうだ?」


 僕がセシリアさんと同じ?不思議に思うがそれでもクレハにもそういう風に思われているのだとしたらそれは不味いと気づく。


「まあ、詳しいことは明日だ。安心しろ?あわよくば狙おうってやつがいないところ選ぶから」

「そうだね。迫られたら剣を抜くか少し迷うから助かるよ」

「お前本当に狂信してねえか?」


     ***


 それから毎日飲み屋を行っていた生活とは一変して、ギンと一緒に花街を進んで行けば色々なことを聞けたが、主に話してくれるのは喜ばせる方法だったりでどうしたものか悩んでしまう。


「ギン、僕はまだそこまでの関係じゃないと思うんだ」

「そりゃまぁそうだろうが知っておいて損はないんじゃねえの?」

「そうだとしてもそれ以前に僕を意識してほしいんだよ」

「それじゃちょっと難しいかもしれねえけどあそこの店行くか」


 花街から少し離れた位置にあるところに行けば、店というよりは民家で誰かが家として使ってるところまで来た。


「ギン?ここは?」

「熱愛夫婦の住んでるところだな。ここなら多少は分かるだろう」


 ノックをすれば中から半裸の男性と薄着の女性がいて、もしかしたら気まずいところに来てしまったんじゃないかと思えば。はっはっはと明るい笑いで気まずさがなくなった。


「はっはー!ギンじゃないか!珍しいじゃないか」

「俺も来たいと思ったわけじゃねえんだがちょっと力借りたくてよ」

「あたい達に頼りたいってことはそれは恋の悩み…ってことね!」


 ど、どうしてそのことを知ってるんだと驚く、まるですべて分かってると言わんばかりに男性に肩をガシッと掴まれて中に入れられる。


「君が噂の勇者君だね!大丈夫さ、ここに来るのは大抵恋の悩みを抱える若人と決まっているからね!」

「もしくはあたい達の育みを鑑賞したい変人くらいだけど…ギンが来たなら恋の悩み一つってことね」


そうか、元々知り合いみたいな話をしていたからそれもあって僕たちの意図を分かってくれたのか…。


「さて、それでどんな話を聞きたいのかな?いや!その顔…好きな相手に振り向いてもらいたいそんな顔をしているね」

「それにあたいの感じゃ普段からどうしていいか悩んで何も出来てないとみたわ!」

「なんで全部…!僕の心が読めるの!?」

「レオ落ち着けよ、大抵そういう奴が多いから言ってるだけで悩んでなかったらそもそも来ないだろ」


 ギンの言うことも分かるけどここまで分かるなんて凄い!ここなら解決できるかもしれない。


 僕はギンが随所に補足説明をしてくれつつ困ってることを話して二人は親身になって聞いてくれる。


「つまり…君は彼女に頼られてないと不安なんだね?」

「端的に言うとそうかもしれない…」

「それならもっと大胆に行くしかないんじゃないかい?君は受け身すぎるし、なにより彼女にすべての行動を合わせてしまってるじゃないか」

「あたいからも言うなら女の子は嫌がってないし、もっと言葉にしてあげると安心もすると思う」


 大胆かぁ…僕にできるかな?告白の時でさえ一生懸命であまり上手くいってなかったように思って反省してしまってた。


 それでもあの告白から少しは距離が近づいた気がするから、いろいろ誤解もあったけどそれも上手く行ってると考えたら確かにあの時だけ大胆で今は消極的かもしれない。


「僕に色々教えてください…!師匠!」

「はっはー!任せたまえよ!」

「ギンにはそろそろ相手を選ぶことを教えてあげるわ!」

「いや…まぁいいか、レオの話しを聞いてるだけで十分面白いから良かったんだけどな」


 師匠たちは沢山のことを僕に教えてくれる。それを忘れないようにしつつもメモを取り、僕はクレハが帰ってきたときのために準備するべきことをまとめる。


     ***


〈クレハ〉


 ヴォルグハイエンとぶらりサラザンド巡りをして、なんだかんだコンサートは上手く行ったんだけど、ヴォルグハイエンの食事量が意外と苦難してしまい結構な日数をかけてしまった。


 このクレハ的には一週間足らずで終わると思ったんだけど予想外だ。いつもレオン達が少しは手伝ってくれるからそれも癖になってしまっていたのかもしれない。


 最後にサラザンドで国王とおばばに見逃しがないか確認をとって全部巡れたかなと思い帰路に着く。


「ヴォルグハイエンもお疲れ様です。このクレハが癒してるとはいえ疲れたでしょう?」

『疲れは無いがそろそろ卵が孵るはずだから我はしばらく巣に戻るつもりだ』

「それは…悪いことをしましたね心配だったでしょう?」

『気にするな。友二人が築いたことを応援もしたくなる』


 せめてこのクレハ様の神殿が出来たらドラゴンでも入れる温泉でも考えてあげるかな。子供ドラゴンが入れるかは分からないけど親ドラゴンが休めれるような施設を作ってあげたら喜ぶかもしれない。


「霊峰に神殿が出来たら報告をしますからいつでも遊びに来てくださいね」

『その話はいまいち分からぬが、今度は妻も子も一緒に遊びに行けるようにしておこう』


 ここまで律儀に付き合ってくれたんだ。正直言ってヴォルグハイエン抜きだとこんなに電光石火のようなスピードで物事が解決してなかったことを考えるとこのクレハもさすがに申し訳ないと思う。


 なにかドラゴンのオシャレグッズとかそういうのも考えていいかもしれないな。


 そうしてちゃんとグランディアまで送ってくれて城下町を歩けばこのクレハが戻ってきたことで活気を出して歓迎してくれるのでそれを感じつつファンサービスしながら城に帰るとレオンが門の近くでわざわざ待ってくれていた。


「クレハ、おかえり」


 そう言って近づいてきたので、ただいまと言おうと思ったら身体を掴まれてキスをされてしまう。

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