第26話 クレハ様はいつも通り

〈クレハ〉


 あーはっはっは!このクレハ!攫われました!


 いくら可愛いからってこんな扱いされるとは思わなかった。いつも通りコンサートを開いて串焼き美味そうとか思ってセナと離れたら急に腕を掴まれて口を塞がれ、痴漢だと言う前に連れて行かれて。


 正直最初は何をされるのか気が気じゃなかったが、周りで話してる内容を聞けば教皇の手先っぽい話をしてるっぽい?


「お前が偽聖女のクレハでいいんだよな?」

「いいえ!このロザリーはクレハではありません!」

「お前!さっき派手にクレハクレハって町中で喋ってたじゃねえか!」

「このロザリーはサラザンドで見たクレハ様に憧れたコスプレです!この髪も染めました!」


 多分全体にこのクレハの見た目がばれてるわけではないのだと思うけど、なんか偽名名乗ってればワンチャン乗り切れそうな雰囲気もあるんだよなぁ。


 特に手足を縛られた以外は何もされてないし、情報確認してるっぽくて「グレファス教皇の話しでは…」とか「間違いだったらパラシフィリア教会が…」とか。


 このクレハ目線からしたらこんな目立つ奴このクレハ以外いないだろって思うけど、他にも銀髪っているもんなのかな?


 見習いも見習いで綺麗な金髪をあまり見たことなかったし案外珍しい気もするけど、本当に髪を染めたりとかできるのかもしれない。染める気はないが今度セナに聞いてみよ。


「本当に偽聖女のクレハじゃないんだな…?」

「このロザリー生まれてこの方嘘をついたことがないんです!ロザリーと言う名前はかつて孤児だったロザリーはただ神の祝福を一手に受けてほしいとパラシフィリア教会のロザリオから名前を借りてロザリーという名前になりました。それを聞いたときロザリーは思いました。このロザリーはパラシフィリア教会で奉仕して少しでもパラシフィリア様のお役に立つべきなのだと!」


 一応最後まで聞いてくれるのでもっとパラシフィリア教会の素晴らしさを喋っていけば、なんかその誘拐犯の一人が涙を流してる。


「お、お前も…辛かったんだな…」

「ですがこのロザリーはあらゆる艱難辛苦を乗り越えた先にパラシフィリア様の導きがあると信じて今も尚聖女と聞いた上でそれを広めようとしただけなのです…皆様の話しを聞いて改心しました!クレハというのは悪者だったのですね!」


 いける!なんとか勢いでできそうだ!


「そうだな。クレハは国王を誑かし、国を崩壊させてドラゴンまで使役する魔王軍にとっての聖女…つまり魔女だ」

「だれが…コホン。魔女とは許せませんね!」


 誰が魔女だこのぼけなすが!こんな清い存在を目の前にして魔女だなんて…!いや意外とありかもしれん?


 別に魔女ってそんな悪い意味ではない気がする。回復魔法しか使えなくても魔女ってありかな?


―ドン


 ドアが蹴破られてそこには鬼の形相をしたレオンが瞬時に状況を見て刺客を斬り、致命傷だろうなぁと思ったので回復魔法をかけて助けておく。


「クレハ!大丈夫?怪我はしてない?」

「案外楽しかったですよ!最初は怖かったですけど意外と話が通じる相手でした」


 クレハとばれていたら死んでいたかもと思うが、話した感じそんな悪者そうな印象はなかったし。


「レオン縄を解いてくれませんか?そしてその者たちを縛ってくれませんか?」

「いいけど、なにかするの?」


 ロザリーと嘘をついたのがレオンが来たことでバレたのだろうしこのまま逃がせばまた襲ってくるのは分かるんだけど。どうせなら死んでほしくない。


「お、お前…やはりクレハだったのかロザリー」


 いやクレハとロザリー合体しちゃってるよその言い方。


「このクレハ!裏の顔を一つや二つ持ってるものです!ですが貴方達を見捨てるなという神託が!ああぁぁあ!神託が舞い降りました!教皇に騙された哀れな信徒を救えという声が!」

「どのような洗脳も我らには通じんぞ!」


 涙もろい方から攻めた方がいいかもしれないな。


「そっちの貴方…貴方は過去に大変辛い思いをされてますね。神託で聞きました」

「な、なぜそれを…」

「パラシフィリア様は全てを見ていてそして嘆いています!貴方が今まで頑張ってきたことも、しかし教皇は神託と言いながらも私利私欲に満ちた強欲という大罪を行ってしまったのです!詳しく話してあげましょう!」


     ***


 桃太郎の話しを主人公教皇にして鬼たちは魔物という風に話してあげた。


 最初は信徒だった彼も大量の金銀を見たら魔物を殺すことでより多くの金銀財宝を手に入れれると言った感じの変わり具合だ。


「そ、そんなことになっていたなんて…」

「俺たちは騙されていたのか…」


 なんだなんだこいつらピュアじゃん!いいやつじゃん!このクレハの話しを偽物扱いしておいてちゃんと聞いてくれてる辺り、そういうところを教皇に利用されていたんだろうな。


「このクレハは教皇も許しました。国の掟には従いますが。しかし!貴方達はまだ助けられる!パラシフィリア様も!あぁぁあぁ神託がまた来ました!今からでも遅くはないのだと!グランディアに行けばより多くの人々を救いの力になれます」


 レオンも後ろでうんうんと頷いてるけど、レオンは今の作り話って分かってるよね?


「さぁ!ヒール!ピュリフィケーション!この輝きと共にパラシフィリア様を信じて進むのです!」


 縄を解いてあげればどこかへ行ったので良しとしよう。


「どうなってるかと思えばいつものクレハで安心した」

「いえ。さすがに抜け出す方法は考えてなかったので助かりました。レオンありがとう」


 どうやってここまで探し当てれたのか謎だが必死に探してくれたのだろう。感謝感謝。


「他の皆とも合流しよう。セナはジャルダンの正体を明かして混乱させようともしていたし早く無事なことを教えないとね」

「そうですね。では行きましょうか!」


 行こうという話になったけど後ろから抱きしめられてしまった。なんだこいつ?情緒不安定か?


「心配した…」

「それは、ごめんなさい」

「見つかってよかったよ、少しでも遅れてごめんね。もっと注意深く見てなくてごめんね」

「いや、クレハは串肉を食べようと勝手に動いただけなので」

「今度から全部僕がするよ、少しでも困ったら言って」


 恥ずかしいだろうが!今も食い意地張ってると思われるかなと恥ずかしながら言ったのに毎回とかこのクレハがまるで子供みたいではないか。


 でもまぁ、そんなに心配をかけたのならもっとこき使ってやっていいのかもしれないな…。


 それからしばらく抱きしめられた後にようやく解放されて皆と合流した。


     ***


 短期間でさすがにグランディアに着くのは無理だったみたいで遠くでヴォルグハイエンが飛んでるのを見かけて。セナに花火を打ち上げてもらって気づいてもらって乗せてもらうと戦争はなんと見習いが止めたというではないか。


「セシリアが戦争止めれるとかすげえな」

「見習いとはいっても聖女だからねセシリアさんは」


 ギンとレオンが褒めているのが見習いと言うのは少し複雑な心境だが、よく止めてくれたものだ。

 正直見習いはこのクレハ様がいないと何もできない子だと思っていた。


『オーファダインがほとんど用意した台本を読んでいただけだがな』

「やはり!このクレハがいないと見習いはまだ何もできないということですね!まったく帰ったら褒めて書き途中の聖典でもプレゼントしてクレハ様をもっと敬ってもらわないといけません!」

「クレハ落ち着きなさい。あの子もあの子で頑張ったんだから」


 帰ったらどう褒めようか悩むけど今は魔王国にいるっぽいし先にグランディアに帰って休みたい。


「そういえばどんな風に戦争を止めたんですか?」

『勇者による説得と実力を認められ人間も対等な種族だと魔王が認めお互いに和平の道を探した…とかのはずだ』


 あれ?クレハ様の要素どこに入ってるの?クレハ様が頑張ったんじゃないの?


『聖女の言葉で説得できたと言えば見習いとクレハ、聖女が二人いることの説明が困難でな…背中で暴れるなよ?』

「ぐっ…たしかに聖女二人いるってややこしいのは分かりましたけど…分かりましたけどー?」

「クレハ拗ねないの。平和なんだからいいじゃない」


 それじゃあ実質レオンにすべて名声持っていかれたようなものじゃないか!まぁいいけどさ!それでもなんか納得いかない!


「僕もなんというか勇者だっていうことを忘れていたから複雑な気持ちだよ」

『グランディアに行けばサラザンドの抗争も止めたのは勇者と言うことになっておる』


 そこまでしなくても…このクレハが一切活躍してないなんて。みんな情報操作に弱いんじゃないだろうか!このクレハが人のこと言えたわけではないけどさ。


 でもま、負傷者がいないとも限らないし、そこでまた布教ついでに治してやるか。真実はクレハ様の大活躍で終わったとな。


     ***


〈レオン〉


 心配していたことは魔王とグランディア国王が対応してくれたおかげで助かったとはいえ。クレハがこの前みたいに攫われたらと思うと心配は尽きない。


 帰ったら僕が常に傍にいよう。そう思っていた。


「勇者様ー!聖女様ー!」

「勇者一行だー!」


 以前よりもクレハの呼び声が少なくなっていて僕やギンもセナも、クレハと同じくらい暖かい歓待がされて少し複雑な気持ちを抱えたままクレハはそのままコンサートと言って歌い始めてジャルダンがもう姿を隠さなくても良いということで護衛してくれるというので任せて城に向かう。


「なんというか私達もこんな風に扱われるとクレハが今までこういう立場にいたんだって実感するわね」

「セナはよく踊ってるから同じ目線で見られてたんじゃねえの?俺とレオの方が何とも言えない気分だろ」

「あはは。そうだね。もう最初どんな気持ちだったか思い出せなくなるくらいの扱いだね」


 その後も国王…代理に会って、威厳を取り戻していたので代理と言うべきなのか少し戸惑うが魔王との和平に戦争を止めたことを国全体で祝うと言われて困ってしまう。


「クレハのおかげでここまで来たから勇者より聖女一行の方が良いのではないですか?」

「この国では魔王との和平は聖女の…クレハ様のおかげと知っているが戦争を止めたのはセシリアである。建前上そこを勇者に変えなければクレハ様も祝えぬのだ…」


 国王もそれなりに考えてのことだったらしくクレハを祝うために勇者一行が奮戦したという風に書き換えたいらしい。


 それなら断ってもあれかと思い、好意を受ける。


 この場にクレハがいたらもしかしたら代案があったかもしれないが彼女は自由に過ごしてるからたまには僕たちでその負担を和らげてあげたい。


     ***


〈セナ〉


 まるで遠い国にまたやってきたかのような感覚だ。前回来た時もそれなりに言い寄ってくる輩はいたけど私というよりも、勇者一行の魔法使いの目線で近づいてくる輩というのがどうにも気に食わない。


 クレハと一緒にいる間はそれを忘れられて楽に過ごせるからクレハの傍にいるんだけどそれはそれで常に暖かい視線があったりもする。


「なんか落ち着ける空間が欲しいわね…」

「セナは嫌ですか?今までの頑張りが招いた結果なのだから喜んでいいと思いますけど」

「クレハは慣れてるからいいかもだけど、私はどっちかと言えば静かな方が好きなのよ」


 もちろん例外もある。クレハといれば楽しいと思えるし、知らない他人が騒いでるというのも別に良い。ここがグランディアということが、知り合いが少しでもいてその知り合いがまるで他人のように騒いでるのが違和感でしかない。


 それでもクレハ曰くこの騒ぎも一時の間だけでしばらくすれば落ち着くというので我慢はするけど。


「そういえばクレハはレオンの返事どうしたの?」

「え?あー?うん?放置してますね」

「そうなの?別にいいけどクレハは結局どうするのよ」

「どうって、このままでもいいのかなとか思ってますけど、駄目ですかね?」


 このままというと返事をしないままということかな?別にいいとは思うけどそれってレオンが勝手に好意を寄せるかはたまた離れて行くかもしれないということだけどこの子はそれでいいのかな?


「クレハがいいならいいけど、多分レオンもいつまでもクレハを好きなままとは限らないんじゃないかしら?」

「浮気ってやつですね!」

「付き合ってないんだから浮気も何もないじゃない…ギンの話しだとそこそこモテてるって聞いたわよ」

「え?モテるんですか!?なんで?」

「そりゃなんだかんだ言って勇者だし、あとは腕が立つっていうところとかもあるんじゃない?今じゃギンより強いらしいし前よりも人気出てるんじゃない?」


 ブツブツと何か喋っているけどそんなに気になるなら返事してあげたらいいのに。


 レオンが裏でクレハに対してスキンシップを取っても別に嫌そうにしてないのはギンもジャルダンも三人で何とも言えない空気を守りつつ見守ってきたし。案外クレハもレオンと良い感じになってるのかと思えばこれだ。


「クレハらしいけどさ、しばらく時間があるんだから話してあげたら?」

「え?このクレハはサラザンドに戻りますよ?」

「え?」

「約束してましたから、町を浄化してあげると」

「そう、なんだ?じゃあみんなでまた旅かな」

「さすがに浄化してくるだけなのでヴォルグハイエンと一緒にさっさと済ませてくるので今回は一人で行ってきますよ」


 そう言われると寂しいじゃないかと言いたいが、本人としては本当にさっさと帰ってくると思ってるからか気楽そうにしてる。


「じゃあクレハが行ってる間にレオンは他の子といちゃついてるわけね」

「このクレハを好きと言っておいてそんなことをするはずないじゃないですかー…この世界の人間はそうなんですか!?」


 勝手に一人で行こうとしていたことを少しでもやり返してやりたくなって意地悪すると面白い反応だ。

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