第25話 クレハ様の周りは有能

〈クレハ〉


 はっきり言ってしまえばほとんど役に立ってない気がする。

 ただ教皇を偽物扱いしただけでほとんどは勝手に戦闘して戦闘が終結していく。


「クレハは怪我してない?」

「このクレハは戦ってませんから、レオンの方が怪我をするでしょう?」


 レオンが参入してくれたことで基本このクレハが狙われたら全員倒してくれるので助かってるが、一番このクレハが大変なのは敵なのか味方なのか区別がつかないから手当たり次第に回復魔法をかけて恩を売って味方にすることだろうか。


「このクレハ様は真のパラシフィリア様から神託を受けし者!この場に置いて死者を出すことなど許されるはずがありません!」


 周囲の怒声や罵声に負けないように声を張るが多分、敵も回復しちゃって長引いちゃってるんだよなこの戦い…。


「レオン!さすがにこの場でこれ以上はきついです!教皇を追いましょう!」

「分かった!僕が先導する!」


 後ろからついて行くが、そんなに成長してただなんて本当に勇者なんだなこいつと思うと。元々は教皇の虚言で勇者扱いされたはずだから勇者とかじゃないのか…どうして強いんだ?


「レオンはいつの間に強くなったんですか?」

「そんなの決まってるよ。君を好きだと思ったときから強くなることで守りたいと思ったから!」


 聞くんじゃなかった!恥ずかしいことを言われるだけだ!レオンに話題を振ってはいけないかもしれない…まぁでもこのクレハのために強くなったというのならそれはそれでありかもしれないな!


 邸宅から外に出れば外でも乱戦が起こっていたがほぼ鎮圧されてると言っていいだろう。教皇も中には交じっていてこちらを恨みがましい目で見ている。


「貴様が…パラシフィリアが神託など…!貴様はなんのつもりで神託を騙る!?」


 そんなこと言われても、特に理由はない。

 元々アイドルみたいになりたいと思ったから?いや生きるため?贅沢な暮らしをしたいから?


 どれも正解と言えるし正解じゃない気もする。


「このクレハはただ、つまらないと思っただけです」

「所詮お前も同じではないか!私利私欲に満ちた人間の邪な気持ちが這い出た薄汚い人間が!」

「そうですよ、だからつまらないと思いました。みんな同じ顔をしてるんですよ、いつ死ぬか分からないのに子供だけは笑顔でその子供も自然によって死んでしまうんです。それなら笑顔が一番じゃないですか?」

「貴様のおかげで不幸になった者もいるだろうが!」

「それこそ貴方の方がなんのためにこんなことをしてるんですか?」


 14年と言えばこのクレハよりも…いや、この人の場合はそれよりも前から行動してたはずだ。明らかにこのクレハよりもパラシフィリア教会がやってることを掠め取ろうとしていた。


「平和にするために決まっているだろうが!」

「このクレハは知性あるもの全てが笑顔になってほしいです」

「魔物と手を組んだ時点で貴様は悪だ」


 まぁそれは否定できない。実際魔物は害獣としてもいるし、魔族となった人達は知性はあるが。それは人間にも言えるだろう。盗賊だって山賊だっているだろうし。


 悪い人間もいれば良い人間もいる。魔物にも言えることだろうに。


「きっとこのクレハと分かりあうことは出来ませんよ」

「当り前だ!人間すら騙る魔物の手先が!」

「だって貴方の世界はあまりにも狭すぎる。このクレハはパラシフィリア様のように世界を愛したいと思います」

「…狂人が」


 実際存在なんてしないと思うだろうけど、パラシフィリア教会を創立した人は恐らくこの世界を愛してたと思う。そうじゃなきゃ回復魔法なんて覚えようとしないだろう。


 見て覚えろというのも理不尽だと思うけど、創立した人は恐らく誰かの傷を治したいがために自分の腕を試しに切っていただろうし。そうでないと狂気的で誰かに倒されていただろう。


 ま、推測に過ぎないけどね。だからこれは推測の創立者の願いと思い。教皇に浄化をかけてその場を立ち去る。


「クレハは言われっぱなしで良かったの?」

「意見が合わないなんてよくあることでしょう?あの人にとって平和を取ろうとした結果が魔物を殺すことでこのクレハは知性のある者だった。近いようで遠い意見は教皇がこれまでそれを人生の糧にしてた時点で否定はできませんよ」

「それでもクレハだけ罵倒をされて、向こうも悪いことをしていたんじゃないの?実際お布施を独占していたりとか不正行為はあっただろうし」


 それに関してはこのクレハも身に覚えがあるから何とも言えないが…。


「言い返したらいくらでも言葉は思い浮かびます。でも魔王が言ってたじゃないですか。パラシフィリア教会が出てから戦争が大変になったって。多分ですけど教皇は親とか命の恩人とかから意思を受け継いでいますよ?人間はそこまで長生きできませんからね。なので教皇に言っても意味はないです」


 それこそヴォルグハイエンとか魔王より長生きしてそうだから聞いてみたら詳しい話が出るんじゃないだろうか?ドラゴンなんてどんな種類であれ畏怖される対象で教会も敵視しておかしくないだろうし。


 ワイバーンとかも亜竜とか言われるジャンルかもしれないけど魔物の専門家でもないし知性があるかは分からないけど、ぱっと見はドラゴンなわけで敵対視される理由は沢山あるだろう。


「ま!レオンは言っても分からない相手もいるというのを学ぶべきです!分からない相手の土俵に立って話してあげてもいいですけど、教皇の場合は人生の否定になってしまいますしね」

「クレハは優しいんだね」

「どっちの正義も結局、周りにどれだけ理解してもらえるかです」


 多数決みたいなのはあまり好きではないが、それでも多数決しないと決まらないこともある。

 理不尽は嫌いだが、結論が決まらないまま泥船に乗ったまま沈むのも嫌なのだ。


「さてこれから忙しくなりますよ」

「次は何をするのかな?」

「戦争を止めた後にサラザンドの国巡りです。癒しつくして見せると口約束をしたので。やることがいっぱいで終わったら絶対温泉でゆっくりしましょう」

「クレハはいつも忙しいね」


 そんなことはない。わりとだらけて暇にしてる時間もあるし…まぁでもそんなものだろう。

 パラシフィリア教会の謎は深まったけど、利用してる人物が目的は壮大なのに小物で助かった。


     ***


「クレハああああ!心配させるんじゃないわよお!」


 セナがここまで心配してるとは思わず熱い抱擁を交わされてしまった。


「レオンなんて今までに見たことない顔でいたわよ」


 それは見たいような見たくないような…


 セナ達とも合流したり、城に住んでるパラシフィリア教会の信徒達を説得する際に「ロザリー!?」と偽名を名乗っていたことを忘れていたから盛大に名乗りを上げたら元々教会にはクレハの名前が届いていたのか平伏されて良い気分になった。


 政治に関してはおばばがいるから安心だとは思うけど、北と西の戦争をこれから止めなきゃなと思い早速で悪いがヴォルグハイエン抜きで急いで北上を目指す。


     ***


〈セシリア〉


「魔王様は人間を恨んでると聞いていましたが?」

「恨んでいるとも、それ以上に自分以上に関係を良くしたいとかつての自分と同じことを思う聖女を見てしまえば応援もしたくなるだろう?」


 この見習いという身分で北と西の諸国にパラシフィリア様は戦争を望んでいないと言えば戦争の火種はなんとか抑えられました。


 クレハ様がこれを見越して魔王様にこの見習いを預けたのかと思うと身に余る光栄ではありますけど魔族の方々もクレハ様の見習いと言えば優しい人がいるにはいるが中には殺気も感じる方もおられる。


『オーファダインよ、クレハは成功すると思うか?』

「成功するだろう。とはいえ問題はいつ帰還するかかな。ヴォルグハイエンはもう寂しいのかな?」

『あの浄化は癖になる…見習いも悪くはないがもう少し強めにかけて欲しい』

「この見習いがクレハ様に敵うわけないでしょう!」


 これでも何度も何度も練習してるのです!文句を言われても改善するにはクレハ様から教えを乞わなければ無理と言うものです!


「なんにしてもグランディアはしばらく大丈夫だとは思うが…この国と他国が同盟を組む話はクレハ頼りにしかならないね」


 それじゃあいつクレハ様が帰ってくるか分からないではないですか…1年か2年か…いつになれば会えるのかと思い馳せることしかできないなんて…。


 帰ってきたら盛大に褒めてもらいましょう。見習いも役に立っていたのだとしればきっとクレハ様も新しい回復魔法の使い方も教えて下さるかもしれません。


     ***


〈クレハ〉


「みなさん!この光の大聖女クレハ様を応援してくださりありがとうございます!」


 さすがに長居はできないにしても通った町でコンサートを一日開いて広めておくけど、なかなかに大変だ。


 舞台が無いから大変というのもあるけど、暑い!まじで暑い!


「クレハ水どうぞ」

「レオンありがとうございます」


 一応演奏役でレオンが練習した成果で楽器を弾いてくれるのだけど、それにしたって大変だ。


「わ、私のも水を頂戴」

「セナ殿こちらに!」


 セナは約束通りダンサーとして沢山踊ってもらい、移動中も踊りを教えていたりする。

 ギンはここにいないでサクラとして観客の中に埋もれさせてるが、盛り上がるときに盛り上げるようにしてる。


 ある程度は上手くいってるとはいえやはり土地勘が違えば人気度合いも変わってきたりする。

 南では見習いがもう聖女として名を広めていたから聖女と言ってもあまりウケがよろしくなかったりとか。


 ま、いつか見習いの口からこのクレハ様の讃美歌が流れてあの時は本物がいたのかと驚かせるという意味でサプライズと言えるだろうし長期滞在はできないがやって損はないだろう。


「そういえばレオン、たまにギンと一緒に町に寄ると姿を見かけないときがあるんですが何かしてるんですか?」

「え?そうだね旅の準備とかかな」

「お金そんなに持ってましたっけ?」

「少しくらいなら持ってるよ大丈夫」


 何が大丈夫なのか、このクレハと比べたら雲泥の差ほどお金持ってないはずなのに買い物とは。はて?


「そういうクレハってあれよね、お金に困ってるところ見たことないわね」

「このクレハともなれば!人生というものを使ってコツコツ貯めてきた貯金というものがあるのですよ!セナだってそういう経験ありませんか!?使い道とかに困って貯まるとか!」

「そ、そうね。ほとんど今は残ってないけど…それにしたってこの旅の費用は全部クレハが出してるのよね?」


 まるで人がやましいお金を持ってるみたいな言い方をするじゃあないか!このクレハ!なんだかんだ色々役に立ってると思うしこれくらいお布施を貰ったっていいはずだ…!


 強制はしてないしね?


     ***


〈レオン〉


 迫りくる剣を弾いてこちらの剣で相手に致命傷を負わせ。この町での刺客はこれで全員かなとギンと確認する。


「それにしたって、もうグレファスは捕まったんだろ?なんでこんな輩がしつこく追いかけてくるんだ?」

「多分だけどクレハを消してまた玉座を取ろうとか考えてるんじゃないかな。町の様子はクレハを聖女としてというより物珍しさで集まってる感じだから信仰が根深いんだろうね」


 サラザンドから北上して町を巡ればクレハはコンサートを開いて、その夜には確実に何名かの暗殺を目論んだ刺客がやってくる。


 セナやジャルダンには話したけど、クレハに余計な心配をかけたくないのもあってクレハにだけは内緒でこうして仕留めているんだけど。


「こうも追いかけて来るんならサラザンドからすぐにグランディアに帰るようにしたのは正解だったかもしれねえな」

「あのまま国に滞在してればもっと多かったろうね。でもベルド国王は心配だけどね。大丈夫かな」

「噂より筋骨隆々とした戦士だったし大丈夫じゃね?」


 たしかに噂では城の隅に追いやられてろくな生活を出来てないと聞いていたのにやけに鍛えられていた人だったな。


 それにクレハがどんな風に説得したのかは分からないけど筋肉の素晴らしさについて語りあうほどに仲が良かった気がする…僕も少しは筋トレをするべきかな。


「それでレオンは最近どうよ?」

「どうって何が?」

「決まってるだろ?お姫さんと上手く言ってんのかって話だよ」

「少なくともこの旅は護衛を専念するくらいだよ。サラザンドでも活躍したわけじゃないしね」


 つまらなそうな顔をされるがクレハもそういう気はないのだろうし、今はまだやるべきことがある以上はそれに集中しなければ呆れられたりでもされたらショックで旅どころじゃなくなってしまう。


「ま、こんだけ刺客が来れば甘い生活も程遠いってもんか」

「グランディアに着くまでは続くと思うと先にヴォルグハイエンの迎えが来るかもしれないね」


 このペースで行けば二か月以上はかかるだろう道程を考えてどうにも間に合うとは思えない。


 セシリアさんやグランディア国王、もしくは魔王が手を打ってくれたらいいのだが。


「そういや、パラシフィリア教会自体はどうなるんだ?」

「元凶が捕まった以上はクレハがトップになるのかな。クレハがそのつもりかは分からないけど」


 多分クレハのことだから自由にしなさいとか言ってきそうだけど、それをしてしまうとグレファスの残党がずっと追いかけてくるかもしれないからなんとかしてあげたい気持ちもある。


 いっそ僕が全て斬り捨てるか…いや!クレハがそれで悲しむ姿を思うと簡単に決めちゃだめだ!


 僕はどうすればいいのか。


「なんか知らねえけどレオは色んな表情するようになったよな」

「え?僕はいつも真面目だよ?」

「真面目な奴が殺気に満ちた顔してたら余計こええよ!」


 そんなことを言われてもクレハのためにと考えていたら殺気も出てしまって仕方ないんだけどな。

 

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