第24話 クレハ様は演説をする
〈クレハ〉
レオンたちに説明が行き届いたのか離れの小屋でサラザンド国王とおばばに回復魔法を教えていたら手紙が届いた。
『クレハが無事だったことが分かって良かった。その集会に全員向かうことにする』
とかいった内容で、少しはこのクレハの安全面が保障されたのではないかと思う。
そして問題だった回復魔法と言う名の疲労回復の魔法はわりと上手くいってるようで、このクレハが腕を切られまくった過去を思うとこいつらの方が才能すごいかもと思ってしまい少し自信を無くす。
「クレハあんた聖女なんか辞めてサラザンドに残ったらどうだい?」
「嫌ですよ。このクレハは現在魔王に頼んでこのクレハのためだけの聖地を作ってるんですから」
「しかしこれだけのことが出来たらもう不死身みたいなもんだろ?」
「そうとも限りません、そこまで授業が進んでなかったのでこのクレハがやってるのは一時しのぎです。このやり方だと筋肉が超回復を起こす前にやったら運動の無駄になっちゃいますし逆に弱くなると思いますよ」
レオンたちにもぶっ放していたけどそれだって稽古終わりのタイミングでやるか、戦闘中命のやり取りをしてる時くらいで。元々成長しきってる人だけに留めていたつもりだ。
まぁ別にこのクレハからしたら子供に回復魔法をかけるときだけが唯一の気掛かりくらいで大人にはバシバシ回復魔法投げてはいるけど。
「若返りすらさせる回復なんて初めてみたけどねえ」
「それもおばばの細胞だから出来たことです。人の細胞を移植するのはDNAだったか血液型とか相性があるはずなので下手したら死にますよ」
「攻撃魔法にもなるってことじゃないのかい?」
「それはおばばの方が詳しいでしょう?攻撃魔法を相手の体内に発現できたら便利ですけど相手の魔力が防衛反応を持っているのかできないでしょう?」
クレハ様直伝セナ専用聖典にも相手の頭にファイヤーボールを出現させて即死魔法を書いたりもしてたけどセナにそんなことはできないと言われたのだ。
理由は魔力反発という現象らしいのと、魔力射程というものがあって自身の魔力を一定距離まで伸ばしたところまでしか魔法は具現化しないのだとか。
それを超える魔法も出来ないことはないけど複数人全員で魔法を使う大規模魔法になるそうだ。
このクレハが普通の魔法を使えたら無双できたかもしれないという野望があるけど…才能の一言で終わらされるし悔しい!
「それでもあんたマナヒールとか言って魔力譲渡してみせたじゃないかい?」
サラザンド国王が疲れてるときに一回マナヒールしたのを見てたのかな?
「それについてはこのクレハも悔しいですが仮説しかないです」
「試しに聞いてみたいね」
「魔法の才能がない者しかマナヒールできない説ですね。実証実験してみないと分かりませんけど、セナが…別の魔法使いに頼んでこのクレハにやらせてみても反発されたそうです」
その代わり見習いにやらせてみたら成功はした。だから仮説でしかないけど多分そうなのだと思う。
でもまぁ、怪しい聖水を飲んだり変なことをしなくても回復魔法は使えるっぽいしやっぱりパラシフィリア教会そのものが元凶なのかもしれない。
いや…もしくは攻撃魔法を使えるものが回復魔法も使えたら、教会としての立場を守るためにやっていたことなのかもしれないにしても。攻撃魔法も多分それなりの手順を踏めば出来ると思うんだよな。
マナヒールが才能の何かで引っかかってる要因だとすれば魔力そのものが多分性質が違うって感じなんだと思う…多分!
「それよりもクレハ、あんた覚悟はいいんだろうね?」
「覚悟ですか?」
「教皇に殴りこむってことは下手したら死ぬかもしれないってことだよ」
「このクレハが死ぬ!冗談は寝てから言ってください!このクレハがいる限りたとえ首を斬られても再生してみせます!」
「…それもそうか。あんたを殺せるやつなんかいないんだろうね」
若干引き気味に言われるとさすがに傷付くぞ。さすがのクレハとて内臓が消し飛んでいたら治し方が分からないから代わりの物を代用するしかなくなるから死ぬと思う。
まぁ潰されない限りは死なないから大丈夫か。
***
なんか知らないけどサラザンド国王のテンションがハイになってるのか筋トレしまくって疲労回復をして筋肉を作り始めてる。一応汚いので浄化をかけるのだがそれでも楽しくてやめれないのか魔力欠乏症になりかけながらも笑顔でやってるそれは狂気だろう。
「お、おばばこいつ怖いんですが…」
「坊ちゃんすっかりたくましくなって…!」
「チガウ、違いますおばば。あれはランナーズハイみたいなあれも原因があるのです」
「悪いものなのかい?」
「んー…回復魔法を使ってるからそこが心配ですけど…まぁ実験と思えば観察してみますか?」
「坊ちゃん!聖女があんたをネズミかなんかだと思う前にやめな!」
そこまで思ってないが、超回復を起こしまくってるから筋肉も発達してるっぽいし、多分栄養不足で倒れるんじゃないかと思う。一応このクレハがいれば治せるだろうから心配しなくても大丈夫だろう。
***
時間もあれよあれよと過ぎて行きどのようになってるかと言えば。
貴族の集会自体はできるが、やはり辺境に住んでる人達は不参加とのことだ。それでも負傷兵をある程度送ってくるそうで、別の貴族もそれを手伝いながらこちらに向かって今夜には着くそうだ。
教皇がなにかしら言ってくるかと思ったが負傷兵がくることをお布施と言う名の金銭を持参すれば問題ないと判断したらしいので精一杯後悔してもらおう。
「集会は今夜だけどクレハの方は大丈夫だろうね?」
「聖女様のおかげでこんの!筋肉!皆にみせつけてやるぜ!」
「このクレハに心配など不要というものです!こっちには即戦力マッスルもいるのですから!」
痩せてもやしっ子だったサラザンド国王はもういない!ここにいるのはもはや歴戦の戦士だ!
「それはそうと、本来の教徒たちはどう扱うのですか?」
「反抗すれば拘束はするけど…そっちの心配よりも私兵や傭兵の方が心配さね」
「それも負傷兵の持参金として持ってきた金をちらつかせれば寝返るのではないですか?」
「中にはパラシフィリアを敬う真の信徒も交じってるだろうから下手したら乱戦かねえ」
さすがに国民的宗教だと神託の力が物を言うのか。まぁそれも含めてこのクレハが演説すれば良いという気もするが。さすがに長年信じてた方にも情がいってるかもか。
クレハ率いる即席国王パーティで今夜の集会の場所に向かうが、場所も場所だ。
教皇から甘い蜜を啜ってると言われる大臣の所有地で集会が行われる。
もちろん集まってもらうときに中立の者たちに反乱するから来てとは言えず、神託があるとかぼかして伝えているからそれがいち早く教皇の耳に入ればこのクレハよりも素早く全員に説法でもするだろう。
というのを見越して、負傷兵の元へ先にクレハ達は向かう。
負傷兵が集まる予定地に先に来ており、来た者から高らかに宣言してみせるのだ!
「真の光の大聖女クレハ様よりパラシフィリア様から神託がありました!妄言を吐く悪しき教皇を真の聖女であるこのクレハに打倒せよと!しかしパラシフィリア様は嘆いておられました…すべからくは無辜の民を救うために神託はあるのに今ここにいる人たちは救われない罪深い人なのでしょうか!否!ここにいる全ての英雄達に告げます!パラシフィリア様は貴方達を見捨てなどしない!生まれてきたことを生きて行く者たちに祝福と幸福を与えんとしているのです!」
ざわめく兵の声の中にぼそっと聖女様と零れた声に思わず笑顔になるが、それもそうだろう。
腕の欠損して絶望してた者ならなおさら感動を隠せないだろう。
「教皇はパラシフィリア様を騙る邪神に操られてます!邪神の名はレスザンインセク!かの者は邪神の遣いなのです!」
「皆よ!サラザンドが14代国王ベルド・サラザンドだ!聖女により呪いを解いてもらうことが出来て本来の力を取り戻した!オレたちが今動かなければ邪神の思いのままにこの国は滅ぶ!今一度オレと共に立ち上がって欲しい!」
台本通りに事を進めつつ、今頃集会の場では教皇が適当なことを抜かしているに違いないだろうからこれからカチコミだ。即席クレハ軍団と共に集会場に全員で突っ込む。
「安心しなさい!貴方達には今この光の大聖女クレハ様の加護が付いてます!一騎当千の英雄達よ!今こそ悪しきを討つのです!」
―オオオオオオオオオオォ
城下町は何事かと驚きながらもおばばが手筈通りにこの道を通らないようにと集会場まで一直線に進むが、たまに子供とかが通ってるとちゃんと、今は危ないからねとどかしてから進む。
「な、なんだお前らは!?」
「「「オオオオォオオ!」」」
轢き殺しては…ないけど一応回復魔法を投げておこう。
それなりの大きさがある邸宅は全員が入れるわけではないのである程度人数を絞って連れて行き、他は周囲を囲むようにして教皇の逃げ場を無くす。
あとは教皇とアイドル勝負といくか!
***
〈グレファス〉
ここ最近で何が起こっているのか訳が分からない。ドラゴンが襲ってきてからかサラザンド城下町は異変が起こっているではないか。
あともう少しすればようやく大陸中央を取り平穏が約束されていたというのに今まで大人しくしていた貴族共がこれから戦争だというのに負傷兵を癒して欲しいと今まで渋っていた金銭まで出して急に。
そう急になのだ。急に態度が一変してやってきた。
理由を聞けば神託がどうのと言うので仕方なく神託で人々を助けるようにとか言って説明をして落ち着かせたらまた外から騒音が聞こえ始めて今度は何事かと思いそちらに目を向ければ矮小な、それでいて淫乱な恰好をしている修道服に身を包んだ女が中央を我が物顔で進んでいる。
「これはこれは何事か…どこからか来たパラシフィリア教会の修道女かな?教えてもらい――」
「この!光の大聖女クレハ様が来たからにはもう安心です!パラシフィリア様の神託より悪事を働いた不届き者を取り押さえにきました!」
「…何を言ってるのかは分からないがパラシフィリア様の神託は教皇である私が担当しているのだが」
「貴方が偽物でしたか!パラシフィリア様の神託を騙る者は!」
クレハ…聞いたことあるぞ。商人から聞き伝手にパラシフィリアの神託で愛されし聖女を騙る者…セシリアはどうした?わざわざ聖女を用意してグランディアへと飛ばしたはずなのにまさかこいつが始末したのか?
「貴殿の方が偽物なのではないか?パラシフィリア様の言葉にクレハという言葉は一度も聞いたことはないが?」
「それもそうでしょう!なぜなら貴方にパラシフィリア様は一度たりとも信託など行ったことなんてないのですから!」
「たしかに神託は受けているとも、それ故にサラザンドのあらゆる災害は全てパラシフィリア様の神託で看破されてきたのだから」
「サラザンドに起きた台風は熱帯地方である海が近いことが原因でおきます!そんなこと長くサラザンドに住み着いていれば不自然なことではありません!」
それはそうだ。何故かこの国は台風が起こることがある。それをもうすぐ不吉な予感がすると神託でそう言えば信じられやすい…だがこのクレハは別にサラザンド出身ではないはずだ。
「では飢饉も起きた年があったが、それにも神託ではないというつもりか?」
「作物とは土地によって育つ作物と育たない作物があります!おばば飢饉が起きたのはいつでしたか?」
「たしか…10年前のときだったかね?」
そこにいるのは別人だと思っていたが声を聞けばベルドの子守り役でずっと居残っていた女だったのか。
「10年前に一度作物の整備として行われたことは新たな品種の作物を一定数育てることです!またそもそもこれも熱帯地帯では上手く作物を育てることも困難であって、新しいことをしようとすれば失敗する確率の方が高いのだから適当に悪いことが起きると言えば大体虚言は真言に変わります!」
いつからこの国に潜伏してたのか…そうか。そうなのだ、明らかに不自然なドラゴンの襲来から…いや待てよ、そうだとしたらこいつはいつの間にそこまで調べ上げたというんだ。
子守り役から聞いたのか?今までの災害をすべて。
「たしかに歴史を記した書物を見ればなにかしらの原因はあるやもしれぬな。それで?パラシフィリア様の神託が届いたからこそ知っているが、そちらの申し出は学者としての見聞に聞こえるが?」
***
〈クレハ〉
痛いところを突いてくるな。まぁそれを言われるのもすでに予想済みだ。
「先日ドラゴンが城を襲いましたね?」
「そうだな。あれは魔王軍の差し金に他ならないであろうな」
「何故神託で予見されなかったのですか?民に甚大な被害が出るかもしれないというのに」
「パラシフィリア様とて万能ではない…パラシフィリア様を愚弄するつもりか?」
「この光の大聖女クレハ様にはグランディアを救い、魔王軍との和平!そしてドラゴンの和平が神託として来ました!皆さん!何故教会の者は回復魔法が使えるかご存じですか!?それは争いなど好まないからです。それをパラシフィリア様が望んで争いに加担するようなことをするでしょうか!悲しみ嘆くでしょう!そしてこのクレハに神託を授けた時にかの女神は涙を零して伝えてくれたのです。諸悪の根源である教皇の暴虐を許してはならないと!」
はっきり言ってどっちの言い分も結局神託なんて来てないんだろうからどっちつかずだ。それでも勝てる見込みがあるのは善良をどれだけやってきたかという一点に尽きる。
「もう良い。その聖女を騙る者を排除せよ」
「え?」
もう少し何か話し合うと思っていたら教皇は身を翻して傭兵と共にどこかへ去ろうとする。
そしてこのクレハに剣を向ける兵がいてクレハ軍団が防いで一瞬で乱戦の場になってしまった。
少しいい負けそうだからって逃げやがって許せねえ!
だがまぁ、どうせ逃げ場所などないことに後から気づいて絶望してみせろとほくそ笑むが、周りの人間が必ずしもこのクレハを常に守れる状態じゃないから気づかなかったけど敵の剣が今まさに振りかぶってクレハを斬ろうとしてるのを見た。
これ痛いやつだろうな、なんて思っていれば。
「どけ!僕のクレハに近づくな!」
レオンがいつからいたのかタイミング計っていたのかと文句を言いたくなったけどそれ以上に。助けてくれてありがとうと言うべき…なのだけどどさくさに紛れてなに僕のとか言ってくれてるんだ!
「助かりました!レオン、他の皆さんは?」
「ギンとジャルダンは外の包囲網に混ざってる!セナは危ないから少し離れた位置で待機しているよ」
「それならとりあえずこの場を鎮静化させましょう!できますか?」
「それがクレハの望みならいくらでも叶えよう」
なんでこいつは発言がいちいち恥ずかしいんだ!もっとオブラートに包めよ!
ただ後ろから見るレオンの戦いを見れば以前よりも、ギンのように人を蹴散らし、ジャルダンのような技量でやってるのを少し。
ほんの少しだが格好いいと思ってしまう。
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