第15話 栞ちゃんとショッピング!
待ち合わせの時間に少し遅れて到着する。そこにはすでに日傘をさした栞ちゃんが座って待っていた。待ち合わせ場所は、前にフリーマーケットが開かれていたミドリ公園。
ちなみに、遅れた理由は羅針盤さんが「連れて行ってえやぁ」と子供みたいにごねたから。羅針盤さんのことが栞ちゃんにバレるわけにはいかないから、やむなく家に置いてきた。
「おまたせー。ごめんね、ちょっと遅れちゃった」
「ぜーんぜん、大丈夫。っさ、いこっか」
もし相手が他の子だったら、実は内心怒っているかも……? なんて悪い想像をしちゃうけど、栞ちゃんならそんな心配はいらない。
栞ちゃんが「ぜーんぜん、大丈夫」って言うときは本当に「ぜーんぜん、大丈夫」なのだ。
「歩いて十分もないくらいだから、結構近いよ」
「へー、そうなんだ」
わたしたちの目的地は最近オープンしたばかりの雑貨屋さん「パレット」。
安くてかわいい雑貨がたくさん置いていて、栞ちゃんの新たなお気に入りになったらしい。
栞ちゃんと横に並んで、蝉の鳴き声が降り注ぐ歩道を歩いていく。
「その服初めてだよね? おしゃれー」
「えへへ、これ結構気に入ってるんだ」
今日わたしが着てきたのは、女の人の線画がプリントされたオレンジ色のシャツに、タータン柄のスカート。お母さんと一緒に選んだやつだ。
「栞ちゃんは、なんていうか大人って感じ」
「そう? たしかに、かわいい系のはあんまり着ないけど」
栞ちゃんは無地の白いシャツにデニムのパンツ、というシンプルな服装だった。栞ちゃんは清純な顔つきをしていて、スタイルもいいからどんな服でも似合ってしまうのだ。
「わたし、このもやっとした感じの色好きなんだよねー。なんていうんだっけ?」
わたしは自分の来ているシャツの裾をひらひらさせながら言う。
「パステルカラー?」
「そう、それ!」
思えば、わたしの持っている服はパステルカラーのものが多い。
「っていうか、日向。日傘は?」
「あー、いらないかなって。ほら、わたし日焼けとかあんまり気にしてないし」
「日焼けどころの話じゃないって、暑さで死ぬよ?」
「た、たしかに……」
まだ気温が上がりきっていない午前中でも、気温は既に30℃を超えている。ハンディタイプの扇風機を風量MAXにしてもちょっと厳しい。
「ほら、入りなよ」
そう言って、栞ちゃんが日傘をこちらの方へ傾けてくれる。
「いいの?」
「日向が熱中症で倒れた方が困る」
「そっか、そうだね」
お言葉に甘えて、傘に入れてもらうことにした。
「はぁ、クソ暑い。もう外で遊ぶ時代じゃないね」
栞ちゃんは「クソ」って言葉をよく使う。下品だからやめなさいって先生にいつも注意されているけど、やめるつもりはないらしい。
「時代って、栞ちゃん、お年寄りみたい」
「もう、やんなるね。清水さんを助けた時も、これくらい暑かったもん」
栞ちゃんは前に、道端で倒れていた人を助けて表彰されたことがある。その時に倒れていたのが清水さんだ。家が近所らしくて、清水さんとは今でもたまにおしゃべりするらしい。
「あっ、そうだ。前に言ってた肝試し。日向、来てくれる気になった?」
「だから、ぜっっったい行かないから!」
「えー、楽しいのに」
栞ちゃんはそう言うと、くちびるを尖らせる。以前、スーパーで栞ちゃんと会ったときに誘われた肝試し。しかも、場所はあの“裏鳥居”。何があっても参加するわけないのに、栞ちゃんは毎日のように誘ってくるのだ。
「来週の土曜だから、行きたくなったらいつでも言ってよ?」
「もぉー、何回も言ってるでしょ。行かない!」
参加を断られた栞ちゃんは、少し切なそうな表情をしていた。
*
二人で適当な会話をしながら歩いていると目的の雑貨屋さんにはあっという間に到着した。
雑貨屋さん「パレット」はコンビニと同じくらいの広さをしていて、店内にはKpopの音楽が流れていた。アンティーク、というよりは明るい感じの雰囲気。
「なんか色々あるね」
「でしょ? わたしたちのお小遣いで買えるのも結構あるよ」
二人で商品棚を眺めながら話し合う。
有名なキャラクターとコラボしたパスケースやメモ帳。首からかけるタイプの扇風機。かわいいとブサイクのちょうど中間みたいな見た目をしたキャラのアクリルスタンド(栞ちゃんが言うには最近流行っているらしい)。
「ねえ、これ」
栞ちゃんがニヤニヤしながら見せてきたのは小さい電卓のキーホルダー。淡い緑色をしている。
「かわいい……けどいつ使うの?」
「でも、ほらパステルカラーだよ?」
「いや、そこまでパステルカラー重視してないから!」
「あはは、そっかぁ」
栞ちゃんはこんな感じで、使いどころの分からない謎アイテムを持ってきては、わたしにおすすめしてくる。
「あっ」
わたしの視線の先にあったのは、いかにも探偵! っていう感じのあの帽子。ディアストーカーハット、という名前らしい。手に取って値札を見てみると3200円。
さすがに買えないか……。
と、内心がっかりしていると、その様子に気づいた栞ちゃんが声をかけてきた。
「おお、それ探偵のやつじゃん。好きなの?」
「あ、えーと」
今日の栞ちゃんとのショッピングには、息抜きの他にもう一つ大きな目標があった。それは、わたしが名探偵アカツキが好きだということを、栞ちゃんに告白することだ。
「じ、じつは結構好きなんだよねぇ……」
手に持った帽子を裏向けたり、もとに戻したりしながらちょっと震える声で言った。
「へぇー、じゃあさ、今やってるあのアニメも好きなの? なんだっけ?」
「名探偵アカツキ?」
「ああ、それそれ」
「う、うん。実は結構……というか、かなり好き」
「そうだったんだー、早く言ってくれれば良かったのに。あたしも見てみよーっと」
栞ちゃんのなんでもない反応に拍子抜けしてしまった。
「で、でも、あのアニメ男子しか見てないしさ」
「確かにそうだね。でも、日向がハマるくらいだから面白いんでしょ?」
「それはもちろん!」
「じゃあ、いいじゃん。それか今度一緒に見る?」
「う、うん! 一緒に見よう! サブスクで一話から見れるから」
「楽しみだなあ、ちなみに誰か好きなキャラとかいるの?」
「それを話すと長くなるよ?」
「ガチじゃん」
あっという間に、栞ちゃんとの視聴会が決まってしまった。こんなことなら、もっと早く言っておけばよかった。それなら、序盤からリアルタイムで盛り上がれたのに。
高ぶる気持ちのせいで、買うものを選ぶのに時間がかかってしまった。結局、栞ちゃんはブリキの小物入れを、わたしはアロマキャンドルを買うことにした。
「いいお店だね、また
「そうだね」
おしゃれな小さい紙袋を持って、来た時と同じく相合傘で帰り道を歩く。
「そういえば、自由研究はどんな感じ?」
栞ちゃんとは、ほとんど毎日電話していて、わたしの自由研究の話もしていた。
ちなみに、今使っているのはキッズケータイ。中学になったらスマホを買ってもらえるから、そのときが待ち遠しい。
「公民館へのインタビューまでは良かったんだけど、そこからがね……。ちょっと詰んでる、って感じ」
「言ってたやつ? 交流会だっけ?」
「そうそう、誰が参加したか結局よく分からないらしくて」
「それなんだけどね、清水さんが参加してたっぽいんだよね」
「え?」
栞ちゃんの口から思わぬ言葉が飛び出した。
「そ、それってどういうこと?」
「公民館で勾玉を見た、みたいなこと言ってたの」
まさか、栞ちゃんとのショッピングがこんな形で自由研究につながるとは。
「じゃあさ。清水さんに聞いたら何かわかるかな?」
「どうだろ? でも、詰んでるんだったら聞いてみてもいいかもね。今から行く?」
「うん!」
打つ手がなかった状況から一歩前進できたことのうれしさ。栞ちゃんともう少しの間一緒にいられるうれしさ。この二つが相まって、思わずスキップしてしまいそうになった。
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