第14話 羅針盤さんの人生指南
おばあちゃんの〝秘密のプレゼント〟と「キツネ」というワードが関係しているかも。遠藤さんはそんなことを言っていた。
そこで帰宅したわたしは早速、そのことをお母さんに伝えてみた。しかし、
「心当たりがないなあ……」
としょんぼりしてしまっただけで、秘密のプレゼントの正体にはつながらなかった。
自由研究もお母さんを元気づける作戦も、どちらも手詰まり。一言で言えば、ヒジョウにまずい状況なのだ。
こんなとき、わたしは何をするべきか。
そう! 気分転換だ!
え? もっとまじめにしろって?
だって、しょうがないじゃん。何もできないなら、その時間をユーコー活用しなきゃね。
そんなわけで、明日は栞ちゃんとショッピングです。
羅針盤さんにそのことを話すと、
『おお、ええやないか。勉強なんかほどほどでええんや。小学生なんか楽しんだもん勝ちなんやから』
とノリノリで答えてくれた。こうやって勢いのある関西弁で認めてくれると、心がじんわりと温かくなる。
「だよね! ほんと、夏休みの宿題も全部ほったらかして、毎日遊びたい!」
『よっしゃ、その調子や』
「羅針盤さん、お姉ちゃんのこと甘やかさないでよ」
横から学が水を差してくる。
「ちょっと、学。邪魔しないでよ。今、羅針盤さんと盛り上がってるんだから」
「いやだって、宿題しなかったら怒られるのはお姉ちゃんなんだから」
相変わらず姉であるわたしに向けてくる冷ややかな視線は腹立たしい。
「まったく、学は真面目くさって。ねえ、羅針盤さん?」
『そうやで、学くん。君もちゃんとサボらないと』
「ぼくはイ・イ・コだから、サボらないの!」
学はイ・イ・コのところを嫌味に強調して言う。
「あっそ」
本当に学は家の中でだけ調子がいい。
『そういえば、明日遊ぶ栞ちゃんって子はこの前会った子か?』
「うん、そうだよ」
稲荷神社へ行くとき、偶然栞ちゃんと出くわして、危うく羅針盤さんのことがバレそうになったのだ。
『その子とは仲ええんか?』
「うん、幼稚園の頃から友達」
『そうか、そうか。友達は大事にせなあかんで』
「うん……」
うなずきながらも、終業式の日に栞ちゃんに
駄菓子屋に置かれた探偵セットのカプセルトイを「外れ」だと言った栞ちゃん。
本当は名探偵アカツキというアニメにハマっていて、そのカプセルトイもすごく欲しいのだと正直に言いだせなかった。
「実は、ちょっともやもやしていることがあってね」
わたしは、羅針盤さんにあの日あったこととわたしの気持ちを話してみた。羅針盤さんなら、何か魔法のような解決方法を提案してくれるかもしれないと期待したのだ。
しかし、羅針盤さんの答えは期待外れだった。
『単純・明快! 勇気を出して言ったらええんや』
「アカツキの決め台詞ここで使わないでよ! 勇気を出して、ってそんなの言われなくても分かってるんだから」
決めゼリフまで放ったわりに、羅針盤さんの解決策はすごくタンジュン。もっと、思いもよらない発想を期待したのに……。
『ええか? 人生っちゅうのは……』
「羅針盤さんは羅針盤なんだから、〝人〟生じゃないでしょ?」
思わず、言葉をさえぎってつっこんでしまった。
『そない悲しいこと言わんで。……ほら、羅針盤には羅針盤なりの歴史があるんや』
「そ、そうなんだ」
羅針盤なりの歴史ってなんだろう?
『ええか? 生活の中で変えられへんもんは山ほどある。生まれとか、環境とか、それはもう数えきれんほど』
「うん」
『でも、自分は変えられるわけや。その中でも一番シンプルで一番難しいのが勇気や』
「はぁ」
『これまでいろんなことがあったけど、結局大事なんは勇気や。後から考えた時に、あの時勇気出しとって良かったなぁ、ってそんなことばっかりやからな』
分かるような分からないような。でも、なんというか、すごく説得力を感じる……!
どうしておばあちゃんの家で眠っていた羅針盤がこんなにも重みのあるアドバイスをできるんだろう。
『もし、栞ちゃんにほんまの気持ちを言ったら絶交されると思うか?』
栞ちゃんから絶交を言いわたされる場面を想像した。
「ううん、栞ちゃんはそんないじわるじゃないもん」
『だったら、ええやないか』
ええやないか、って言われても……。
「で、でもクラスの他の子にからかわれるかもしれないし」
栞ちゃんとはもう長い付き合いだし、急に絶交されるなんてことありえない。
でも、そこまで仲良くないクラスメイトに馬鹿にされる可能性はある。もし、いじめられるなんてことになったら……。
『クラスの子と栞ちゃん、どっちが大事なんや?』
「そりゃ、栞ちゃんだよ」
『じゃあ、問題なしや。えいや! で言ってみたらええ。案外大したことにはならん』
「うぅ」
確かに羅針盤さんの言う通りかもしれない。頭の中であれやこれやと悪いことばかり考えていても、もやもやが溜まるばかりだ。
「よし! 分かった! 明日、思いきって言ってみるね!」
『そうや、その心意気や!』
今から、ちょっと緊張する。急にかしこまった感じで言うのも栞ちゃんがびっくりするかな?
栞ちゃんとの色々な場面を想像する。そうしているだけで、わたしの中にあったもやもやはどこかへと消え去っていた。
もしかして、羅針盤さんはここまで想定して、あのアドバイスをくれたのかな?
だとすると、やっぱり羅針盤さんはすごい人……じゃなくてすごい羅針盤なんだなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます