第12話 公民館で聞き込み調査!

 さて、わたくし日向探偵と助手の学は、事件の現場である公民館を訪れています!


 ちなみに、場所は小学校と稲荷神社のちょうど中間あたり。自転車で移動できる距離でよかった。


 公民館は二階建てで、丸みを帯びた屋根が体育館みたい。何年か前に自治会のボランティアで一回だけ来たことがある。


 お気に入りのトートバッグには羅針盤とトランシーバーを入れてきている。羅針盤さんは物知りだから、何かひらめくかもしれない。


 羅針盤を首からさげるのは怪しまれると思って、今回は止めておいた。


「こんにちはー」


 重いガラスの扉を開けて、元気よく挨拶する。


 探偵は相手を安心させることが重要なのだ。そうすることで、口のかたい大人たちから情報を得られる可能性が上がる。


「こんにちは、何かごようですか?」


 受付の窓口に座る知らないおばあさんが柔らかい声で言う。わたしの後ろについてくる学は身をちぢめている。家を出る時も最後まで「行きたくない……」と不満をもらしていた。


「自由研究でキツネ様の調査をしていて、ここの人にインタビューをしたいのですが」


 なるべく緊張を表に出さないようにする。聞き込み調査というと怪しまれるかもしれないから、インタビューと言う。これは学のアイデアだ。


「あらあ、そう。ちょっと待っててね」


 しばらく待っていると、奥の方から灰色の口ひげをしたおじいさんがやってきた。


「こんにちは、お嬢さん。後ろにいるのは、ご兄弟かな?」


 上品な物腰に思わず、心がときめいてしまう。こういうのをジェントルマンって言うんだっけ?


「はい! 二人で自由研究の調べものをしているんです」


「そうかい、そうかい。立ち話もなんだから、どうぞこちらへ」


 そう言って、案内されたのは来賓室らいひんしつというプレートのかかった部屋だった。


 高級そうなソファに、つやつやと輝くローテーブル。入ったことはないけど、たぶん校長室もこんな感じなんだろうな。部屋の中は、ほんのりと線香のような匂いがする。


「町内会長の竹田です。あまり面白いことは言えないけど、聞きたいことがあれば何でも聞いて」


「はい、わたしは神崎日向で、こっちが神崎学と言います。今日はよろしくお願いします」


 家を出る前にお父さんに教えてもらったマナーを思い出す。ポイントは相手の目を見ながらはきはきとしゃべること!


 ……なんだけど隣に座るマナブはと言えば、テーブルをじっと見つめたまま固まっている。


「わたしたちは、キツネ様という都市伝説を調べているんですが、知っていますか?」


 全く頼りにならなさそうな学のことは放っておいて、インタビューを進める。手にはノートと鉛筆。まさに探偵って感じ!


「知らないなー。ごめんね」


 竹田さんは申し訳なさそうに眉を下げる。しかし、そんな顔もさまになっている。お父さんもこんな感じだったらみんなに自慢できるのに。


「キツネ様と稲荷神社に何か関係があるんじゃないかと思って、直接行って聞いてみたんです」

「ほうほう」

「そしたら、そこの宮司さんが先代の手帳に何かヒントがあるかもって言っていたんです。でも、その手帳を失くしてしまったらしくて」

「あぁー、そのことか」


 竹田さんは納得したようにうなずく。


「ここの人なら手帳の行き先が分かるかと思って……」


 ジリジリという蛍光灯の音すら聞こえるほどの静寂せいじゃく。そのせいで心臓の鼓動が速くなる。


「なるほどね。事情は分かった。ちょっと待ってて」


 竹田さんはそう言うと、部屋を出て行った。扉が閉まり、竹田さんの姿が見えなくなった瞬間、学を問い詰める。


「ちょっと! 学も手伝ってよ」


 手のひらにぐっと力を入れたままうつむいていた学がようやくこちらを向いた。


「なに?」


 ついさっきまでガチガチに緊張していたはずが、今はなんだか機嫌が悪い。


「なんで怒ってるの? 一緒にインタビューするって言ったじゃん」

「行きたくないって言ったでしょ。無理やり連れてこられたんだから、知らないよ」


 こ、こいつ!


「今になって、そんなのやめてよ。交流会でどんなことしてたのか、学が聞くって約束でしょ」

「そんなこと言ってたっけ?」


 竹田さんがいなくなった途端、ぺらぺらとしゃべり出す。最近はナマイキさが少し治ったかと思ったけど、そんなことはなかった。


「ねえ! いいかげんに……」


 と、我慢の限界がやってきたところに、竹田さんが年配の女の人を連れて戻ってきた。

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