第11話 お母さんが悲しむ理由
「えええええええっ!」
お、お母さんがキツネ様の正体を知ってる⁉
思わず大声を出してしまった。学もおどろきのあまりむせている。
「そ、それほんとに? なんなの? キツネ様の正体って」
「お母さん。それ、ぼくも聞きたい」
二人して、お母さんにせまる。
「それはね……」
ゴクリ。
「ずばり、コンコン丸よ!」
はい?
「なんて?」
「だから、コンコン丸。知らない?」
いたずらっぽく笑うお母さん。
そういえばおばあちゃんが生きていた頃はこんなだったなぁ。ってそうじゃなくて!
わたしたちは真剣に調べてるって言うのに!
お母さんが昔みたいにふざけてくれるのは嬉しいけど、ちょっと腹が立つ。
「懐かしいな、今もあるのかな?」
勝手に何かを思い出したらしいお父さん。スマホですらすら調べると、画面をわたしたちに見せてきた。
そこに映っていたのは、デフォルメされたキツネのキャラクター。手足が短くて、変なしましま模様の服を着ている。顔はキツネと言われてみんなが想像するやつそのまま。
「なに? どういうこと?」
「当時流行ってたのよ、そのキャラ。家じゅうにシールをぺたぺた貼りまくってたなあ」
お母さんは、昔話をしみじみと語り始めた。
「それでね、うんざりした母さんが言ったの。コンコン丸は実はキツネ様なんだよって。それ以来コンコン丸の顔を見るのも怖くなっちゃった」
お母さんにとってのお母さんだから、つまりおばあちゃんの話だ。お母さんにも、そんな時期があったんだ、と少しカンガイ深く思った。
で、でも。おばあちゃんの話なんてしちゃったら……。
「はぁー。懐かしいわねえ」
予想通り、なんとなくしんみりとした空気になってしまった。
興味シンシンだった学もおばあちゃんのことを思いだして涙目になっている。
これじゃ、たこ焼きパーティーで元気づけるどころか余計に悲しいことを思い出してしまう!
こうなったら作戦変更!
「お母さんはおばあちゃんのことが大好きだったんだね」
逆におばあちゃんのことを聞いて悲しさを乗り越えてもらう作戦。
「そうね……」
「おばあちゃんが死んじゃってから、お母さんずっと悲しそうでさ……」
お母さんはわずかに目を見開く。
「うん。ごめんね」
「いや、わたしだってお母さんとお父さんが死んじゃったらすごく悲しいと思う」
「実はね、母さんが倒れる前の日に電話をしてて」
初めて聞く話だ。お父さんと学も真面目な顔で話を聞いている。
「昔に約束したプレゼントをまた今度渡すわねって」
お母さんの声が少し震える。
「結局それがなんだったのかは分からないままなの……」
お母さんがずっと落ち込んでいた理由はこれだったんだ。死んじゃって悲しいのはもちろんだけど、絶対に果たされない約束が残ってしまうのはきっとものすごく辛い。
「そんなことがあったんだ……」
冷めたたこ焼きを口に運ぶ。
おばあちゃんの残した〝秘密のプレゼント〟。
それはおばあちゃんだけが知っていることで、わたしにはどうしようもない。
お母さんを元気づけることはできないのかも……。
そう思うとだんだん悲しくなってきて、たこ焼きの味がしなくなってくる。
「みんな! 暗いよ!」
雰囲気を変えようとしてくれたのは今回もやっぱりお父さんだ。
「まだぜんぜん食べたりないよ。ひなた職人! 第二
「う、うん」
空回りすることも多いお父さんだけど、こういう時は頼りになる。
どんよりとした空気の中で一人だけ、わざとらしく声を張り上げているお父さんを見ているとなんだか笑えてきた。
「まったく、しょうがないな~。まだまだ焼いていくからね!」
わたしは腕まくりをして、タネの入ったボウルを持ち上げる。
「そういえば、日向。公民館へインタビューに行くんだろ?」
お玉で生地をすくっているとお父さんが聞いてきた。
「うん。そうだよ」
「パパかママが付いていこうか?」
お父さんがお母さんの方をちらりと見ながら言う。
「いや、一人で……じゃなくて学と二人で行きたい」
こんどははっきりと自分の気持ちを伝える。
何事にもチャレンジする!
これはお母さんの教えなのだ。
「そうか。頑張れよ!」
お父さんはそう言って、にっと笑う。同時にお母さんも静かにうなずいてくれた。学はわたしのことを睨んでいたけど……。
とにかく、今できるのはわたしたちだけでも大丈夫だと、お母さんに安心してもらうこと。
それに、キツネ様は願いを叶えてくれるのだ。もしかしたら、秘密のプレゼントが何なのか教えてくれるかもしれない。
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