第10話 レッツ! たこ焼きパーティー
家に着くと、早速準備を始める。お母さんは台所へ行ってタコを一口サイズに切り分ける。わたしたちはたこ焼き器を物置から引っ張り出してくる。
このガスタイプのたこ焼き器はおばあちゃんの代から使っている旧型だけど、まだまだ現役。
電気タイプのたこ焼き器の方が扱いは楽だけど、ガスタイプの方が火力があって、おいしく焼くことができるのだ!
テーブルの近くに置きっぱなしになっていたわたしのトートバッグをテレビ台のあたりへ移動させる。
「あとで、ちゃんと片付けてよー」
というお母さんの声に適当に返事をする。
バッグの中にはトランシーバーが入ったままになっていたが、羅針盤は自室にあるので、突然話し始めることはない。
たこ焼き粉に水と卵を入れると、それをかき混ぜてタネをつくる。たこ焼き粉は絶対に出汁入りのやつね!
鉄板の丸いへこみにサラダ油をしみこませたキッチンペーパーでくるくると塗りこむ。我が家のたこ焼き職人としての腕前を見せる時だ!
タネにダマができていないか確認していると横から学が話しかけてきた。
「さっき、スーパーで何話してたの?」
「ん? ああ、栞ちゃんが裏鳥居へ肝試しに行くからって誘われたの」
「裏鳥居って何?」
「え? 知らないの? 学校の裏手に林があるでしょ。その奥の方に古い鳥居があるの」
「へー、鳥居か。キツネ様と何か関係があるかも……」
学は眼鏡をくっと上げると、何か考えこむような表情を見せた。
「裏鳥居はキツネ様よりも知名度が低いからね」
裏鳥居は一部の人にしか知られていないホラースポットで、それがより怖さを倍増させる。
「きっと、全ては繋がっているはずなんだ……」
腕を組んで
頭脳の学と行動力のわたし。タッグを組めば怖いものなしだ!
学には、もう少し社交的になってほしいけどね。
「タコが到着したぞ~」
特に何の準備もしていないお父さんがのんびりとした声で報告してくる。
いけない!
大事なたこ焼きパーティーの最中なんだった!
「今日はわたしが全部焼くからね!」
「頑張って」
ほほえむお母さんを見て、少し勇気づけられる。悲しい思い出を忘れちゃうくらい最高のたこ焼きをごちそうするのです!
「よーし、始めるよ~」
まずは、丸いへこみの半分より少し多いくらいの量のタネを流しこむ。じゅっと焼ける音が聞こえるとともに、なんとも言えないおいしそうな匂いがただよってくる。
そして、間髪を入れずにタコを一つ一つのへこみに落としていく(チーズは
次に、その上からタネをさらに流し入れる。今度はへこみから溢れるくらいの量。たこ焼き器一面が溢れたタネに覆われるけど気にしない。
最後に、紅しょうがと天かすをぱらぱらと散らしていく。
天かすは食感を残すために、一番最後。
ガスタイプは火力が強いのでのんびりしていられない。火の通りは案外早いから、あまり時間をおかずにたこ焼きを回転させていく。最大の見せ場だ。
へこみから溢れた生地は全てくっついているので、二本の竹串でそれらを切り離していく。そして、そのまま流れるようにたこ焼きを回転させていく。
一回目は半回転。それを全て終えると、二回目でもう半回転。くるくるっと特有のコツが必要なの!
『ずいぶんうまくなったねえ』
「えへへ、そうでしょ」
なんせ、お母さん
って、あれ?
顔を上げて、お母さんの方を見ると、ぽかんと不思議そうな顔をしていた。お父さんと学の顔も順番に見ると、みんな変な顔をしている。
いま、誰がしゃべった?
頭で考えながら、手は勝手にたこ焼きの回転をこなしている。体が覚えているのだ。
って、そんな場合じゃなくて。もしかして、幽霊?
一人で怖がっていると
『うんうん、いい感じね』
と、またどこかから声が聞こえた。具体的にはテレビのあたりから。だけど、テレビは点いていない。
テレビ……?
その足元に置かれたわたしのバッグが目に入る。
やばっ!!!
「か、完成したから、みんなで取り分けといて」
そう言うと、足早にバッグの中を覗きこむ。音量のつまみが最大になっている。
何回、同じミスを繰り返すんだ、私!
ささっと、音量を0にしてからテーブルに戻る。
「さっきの声なんだったの?」
お母さんがみんなのお皿にたこ焼きを取り分けながら聞いてきた。
「い、いやあ。あの、ラジオのやつがあれでして……」
「ラジオ? そんなの持ってたっけ?」
「う、うん。学校で作ってさ」
「へー、どんなの? 見せてよ」
「いやあ、不出来なもので……。それより、ほら! 冷めちゃうよ!」
「ああ、そうね」
な、なんとかごまかせた。
それにしても、羅針盤は部屋の引き出しに入れておいたのにどうしてだろう。トランシーバーと羅針盤の間に壁が一枚挟まるだけでも、雑音だらけになるはずなのに。
ひとまず、困難は過ぎ去ったのでたこ焼きを口に運ぶ。
お店だと外はカリっとしているけど、家で作ると外も中もトロっとなる。でも、これはこれでおいしい。
なんなら、外がカリっとしているのは〝揚げタコ〟というらしくて、外も中もトロトロのスタイルが本場流なのだ。
「ところで、ひなた。自由研究は何を調べてるの? ちゃんと聞いてなかったわね」
お母さんが「上手くできてるね」とわたしの腕前をひとしきりほめてくれた後に、ふと聞いてきた。
「キツネ様の都市伝説。お母さん知ってる?」
「ああ、懐かしいわね! わたしたちの頃にもあったわよ」
お母さんが通っていたのは一つとなりの小学校だけど、キツネの都市伝説は知っているらしい。この辺りの地域で代々伝わっているのかな?
「そんなに昔からあったんだ」
「そうそう。みんな怖がってたわね。それで、キツネ様の何を調べてるの?」
「正体を解き明かそうとしてるの。稲荷神社の宮司さんにも協力してもらってね」
「今朝のはそういうことだったのね」
お母さんは納得したようにうなずいた。
もう怒っている様子はなかったし、この調子なら自由研究を続けることも許してくれそうだ。そう思った直後、お母さんは衝撃的なことを口にした。
「でも、キツネ様の正体なら知ってるわよ?」
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