第4話 アリアナを歓迎していない魔王の側近たち

「魔王様。人間どもは、あの果物が大層気に入ったようです。食べるだけで外見上の美しさを手に入れることできるなんて素晴らしいと絶賛してきまして、友好国となり商品やサービスの交換を行う貿易協定を結びたいそうです」


「そうか。それなら、人間とは争わず上手に付き合っていけそうだな。早速、そのように話を進めよ」


「はい、もちろんなのですが、なぜか人間から「魔王様の花嫁」を献上するという知らせがありました。友好な関係を望む証だそうです。その花嫁というのはアリアナ・クレスウエル公爵令嬢だそうです」


「その女性をどうしても魔界に迎えなければいけないのか? 私は花嫁を募集してはおらんぞ」


「無下に突き返すのも角が立つかと思います」


 私は数日間悩んだ末に、とりあえず迎えの黒いペガサスを向かわせたが、ちょうど人間の王宮を見張らせていた使い魔の鳥が戻って来た。その鳥の目は特に優れており、遠くの建物の内部まで見通すことができる。


「これから私の花嫁が来るというのだが、お前はこの女性を見たことがあるか? アリアナ・クレスウエル公爵令嬢だそうだ」


 王家から送られてきた小さな肖像画を見せながら聞いた。首を傾げてその肖像画を見た鳥は頷きながら、思いがけない情報をしゃべり出した。アリアナ・クレスウエルは、ずっと王太子の執務室で仕事をしていたという。ところが、数日前に謁見の間で多くの人間に囲まれた後、平民用の牢獄に入れられたというのだ。 


「罪人を厄介払いにこちらに押しつけたのか! やはり人間は信用ならん! そんな人間と友好関係など結ぶ必要はないぞ」

 私の側近の一人である魔界の軍団長リオンが、顔を真っ赤にして怒りだした。 肩まで届く茶色の髪に緑色の瞳のリオンは筋肉質の体格で、常に前向きなオーラを放っており、勇敢で正義感が強く、仲間を鼓舞するリーダーシップを持つ。その真っ直ぐな性格ゆえに、どんな嘘も憎み曲がったことが大嫌いなのだ。


「まったくだな。魔族への宣戦布告だろうか? こんなことはすぐにばれることなのにな。罪人を魔王様の花嫁にと送ってくるなど、ばかにしているのか?」


 ゼインは私の参謀で短めの金髪に鋭い青い瞳を持つ。整った顔立ちで、いつも落ち着いた表情をしているのだが、この時ばかりは不快感をあらわにしていた。



☆彡 ★彡


 到着した花嫁は肖像画どおりで、金髪碧眼の美しい女性だった。侍女をひとりも伴っていないのは、罪人だからだろうか。馬車から降りるために手を差し出すと、青ざめた顔で震えるばかり。


「馬車から降りるのに手を貸したいのだが、ずっとそこにいるつもりか?」


「い、いいえ。馬車で暮らすつもりはないです。では、手を貸してください。ありがとうございます」


 丁寧にお礼を言いながら優雅な仕草で馬車から降り立った。すっと背筋を伸ばし、カーテシーをする姿は洗練されており、高位貴族の令嬢らしいものだった。


(これが罪人? 到底そんな風には見えないのだが)


 思わず不躾にじろじろと観察してしまった。


「とりあえず、君の部屋へ案内する。君の履歴書のようなものが、肖像画とともに王家から届いているが、王太子の婚約者エリナ・クレスウエル公爵令嬢の姉と書いてあった。エリナ嬢はずっと王太子を支え政務を手伝ってきた優秀な女性で次期王太子妃。その姉ならば私の花嫁に相応しい、と書いてあったが。本当に君はエリナ・クレスウエル公爵令嬢の姉なんだな? この履歴書に間違っているところがあったら言え」



「・・・・・・はい、姉です。履歴書で・・・・・・間違っているところはありません」


「ふん、嘘つきめ」


 リオンは吐き捨てるようにそう言うと、足早に魔界軍の要塞へと去って行った。リオンが率いる軍団が生活する拠点は魔王城を取り囲むような作りになっており『魔界軍の要塞』と呼ばれている。


「あなたを『魔王様の花嫁』にするつもりはないですよ。失礼」

 ゼインはそう言いながら参謀室に消えて行く。


「私も歓迎はできない。とんだ厄介者がきた気分だな」

 カイルは灰色の髪と瞳を持つ魔界警察の長だが、彼も私の側近だ。彼は魔界警察署長室に足をむけた。


 私の側近たちはアリアナ嬢に敵意むきだしだったが、使い魔の鳥の報告を聞いた後では、それも仕方ないことだった。私のほうはと言えば、この女性にかける優しい言葉が見つからない。王家から届いた履歴書の内容には嘘が多いのに、この女性は少しも否定しなかった。嘘を言う牢獄にいた人間に、どう接すればいいのかわからない。自然と彼女に話しかける言葉も冷たくなってしまうのだった。


 

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王太子に婚約破棄された私は魔族に嫁がされました。 青空一夏@書籍発売中 @sachimaru

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