第1章 『オサナイワタシ』の在り方
「なぜこんな事もできないの?!」
母は自分が叶えられなかった音楽の道に少しでも私に進んで欲しかったのか、幼い頃の私はピアノ教室に通い、一日数時間は練習しなくてはならなかった。もしそれを拒むと母から叱責されていた。そして私は、叱責されるとよく泣いていた。泣くとすぐに父にうるさいと怒鳴られていた。
この頃の私は父がいかに卑劣な人かを知らなかった。父は、自分には甘く他人には厳しかった。
小学校の夏休みだった。長期休みに入る前に渡される通知表と計算ドリルを私にバレないように勝手に祖父母家に帰省した。帰省する時は必ず同じ歳の従兄弟、
「叔父さん見てみて!」満面笑みで私の父に通知表と百点テストを見せていた。
「おーすごいね!なら
「父さんやめてよ。嫌だよ。勝負なんてしたくない」と私は懇願した。
「ダメだ。やれ。内気な思のことを思ってのことだぞ。それにお前は習い事で算盤もやらせてんだ。もちろん出来るよな?」と私を脅すように言った。
私は泣く泣くドリルを解いた。採点は直志の姉が父監督の元行った。結果は、30問中私が一つ間違えてしまい、私の負けとなった。私は大泣きした。悔しく、やりたくも無いもので恥をかいた事もあった。何より父の反応が怖かった。泣く私を見るなり父は、怒りを押し殺すかのように「泣くな」と一言私にだけきこえられる声量で言い、直志を褒めちぎっていた。直志は勝ったことを姉、両親、祖父母に言いまわっていた。私はこれ以上声を出して泣かないように必死に唇を噛みながら母の手作りのぬいぐるみに顔を埋め布団を被り泣いていた。母は仕事でここには居なかった。私は孤独だった。
これが『ワタシ』の父方の家族への嫌悪の始まりだった。
幼い私がこの一件を通し物心つく前から私が直志を光らすための引き立て役として利用されていくことを歳を重ねていくごとに確信したのだ。
この帰省から帰りこの一件を話すと母は父にこんなことを二度とするなと注意した。私はこの頃から母に縋るようになり、父には父の監視ある時のみ父に忠実に過ごすようになった。実際ただ父はとても怖かったのだ。幼い私には父の行動や言動、声の低さ、身振りが本当に怖かった。
「稔。これまた作ってきたんだ。手の中に入れておくね。ペンペンとなら一人の夜でも少しは落ち着くだろう?」と旦那が手のひらサイズの小さなペンギンのぬいぐるみを私の手中に入れた。
「さっき稔のお父さんの墓参りに行ってきたんだ。でね、稔は良い子なんです。最高の妻なんです。だからお義父さん、稔さんを連れて行かないでくださいねって言って来たんだ。だから稔、家に帰れるよ。大丈夫、大丈夫、うう・・・」と、彼はまた泣き出し、しばらく私のベッド周りを整え帰っていった。整えてくれたおかげでとても温かい気持ちで眠れた。
『ワタシ』の在り方 サイデューカ・焔 @nekoha_deth
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