10話 私が魔王を倒しました。
一方のディオは、何が起きたのか理解できていなかった。
この閃光は――マリスのもの?
それが下から――?
反射魔法か――
ああ、そうか――
マリス――
倒されたのか――
つまりこれは――
ハメられたのか――!
徐々に現状を理解して行くディオ。
閃光が収束していく中、自身へのダメージが甚大であることも理解した。
これは、まずい――
焦りが頭を過ぎると同時に、悪寒が走った。
それは、長年生きてきて何度も体験してきたこと。
命の危機――
すかさず振り向くと、そこにいたのは短刀を振り上げた人間――
先ほどまで物陰に隠れていた人間――
やはり、こいつが――!!
「これで、終わりだ!!」
ヴィンスは短刀を素早く振り下ろした。
が――
その刃は空を切っていた。
何が――
「やはり鍵は……お前だったか」
ヴィンスの後ろからその声は聞こえた。
振り返ると同時に、ヴィンスの身体はその巨大な手に拘束され、動くことができなくなった。
「魔力を持たない人間がわざわざ戦場に身を晒す理由……なにもない訳がなかろうが!!」
「あがっ……!!」」
太い枝が割れるような音が響いた。
それが、骨が砕ける音だということは、容易に想像できた。
「だが、よくぞここまで追い詰めたものだな、褒めてやろう」
「あまり……嬉しくないな」
また嫌な音が響いた。
「これだけ追い詰められたのは、この使えなくなった右腕ぶりか……やはり、人間は侮れないな……全て滅ぼさなければ……」
ヴィンスを拘束している手に、力が入っていく。
ヴィンスは、自身の死を悟り始めた。
短刀は――床に落ちている。
どうにもできない――か
終わりだな――
フッ……――
なぜか鼻を鳴らしてしまった。
ヴィンスは――それにふと疑問を持った。
――なぜ鼻を鳴らした?
――鼻がむず痒くなったからだ
――なぜ痒くなった?
――土煙が舞っているからだ
――なぜ土煙が舞っている?
――なぜ舞っている?
――なぜこんなにも長く、高く舞っている?
顔を上げた。
そこにはディオの顔――と、その後ろに小さな人影が見えた。
その影は徐々に近づいてくる。
それと共に――風は強くなっていく。
その人影に引き寄せられるように――
徐々に――
床に落ちていた短刀が空を舞った瞬間、ディオもその異常に気づいた。
振り返ると――
そこにいたのは――
キーヴァだった――
空を舞う短刀を掴み取り、キーヴァは一直線に落下して行く。
その目標は――
間違いない――
魔王ヤディオルシガ――
「お兄ちゃんから……離れろぉぉぉおおおお!!」
ディオは、手を突き出し、魔法を撃とうとした――のだろう。
だが、全て遅かった。
突き出し手を通り過ぎ、キーヴァが握ったその短刀は――
ディオの顔面に突き刺さった。
キーヴァが地面に降り立つと、短刀は割れた。
キーヴァもヴィンスも、『失敗』の二文字が頭を過ぎった。
だが、それは杞憂だった。
「あ……ああ……嘘だ……私が……死ぬ……のか……?」
そうディオが言うと、ディオの身体は崩壊していった。
短刀が刺さった場所から魔力が溢れ出し、身体を構成する組織が崩壊したのだと、ヴィンスは理解した。
魔族はその名の通り、魔力の生命体。
魔力を失えば当然――こうなる。
やっと拘束から解き放たれたヴィンスは、力なく地面に倒れ込んだ。
というよりも、足の骨が折れてしまって立てないのだ。
「お兄ちゃん!!」
今にも泣き出しそうな顔でキーヴァが近づいてくる。
嬉しいのか、悲しいのか――
その顔は、どっちの顔だ?
なぁ、キーヴァ――
「終わったよ……終わったんだよ!!」
本当に――
「ああ……」
やっと――
「私達が倒したんだよ!!」
全てが片付いた――
「ああ……」
魔王を倒したのは――
「魔王を倒したのは、私達なんだよ!!」
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