9話  <回想> 最後のピース

 大聖堂が光に包まれる中、キーヴァとヴィンスは、数時間前の事を思い出していた。


 それは、聖都ウィーンに入る前の道中の出来事――


「……いやいや、無理でしょこの作戦」


 キーヴァはヴィンスから聞かされた作戦に異を唱えた。

 だが、アシュリンは違った。


「そう? 私は無茶ってほどではないと思うわ」


「それは、あんたが宿敵を殺せるからでしょ!? 私は逃げて逃げて時間を稼いであんたが敵から魔法を引き出すまで生き延びなきゃいけないわけ!! 分かる!? 釣り合ってないの、命の比重が!!」


「別に私も死ぬかもしれないでしょ?」


「あんたが死ぬわけないでしょ? 根性腐ってんだから」


「貴方も腐ってるのに死ぬのね、この違いって何かしら? 力の差? 頭の差?」


「はぁ!?」


「時間がないから喧嘩は後にしてくれ」


 二人を仲裁し、改めてヴィンスは説明した。


「確かにこの作戦は難しい、半分無茶とも言える……だが、『魔王を倒す』を念頭に置いたら、これが一番確実なんだ」


 キーヴァはなにか言いたげな様子だったが、飲み込んでくれたようだった。


「……まぁ、私達の誰かが突然魔王を倒せる力に覚醒する可能性に賭けるよりは確実ね。でも……」


 そう言って、アシュリンは少し考え込み、再び口を開いた。


「多分、これでは死なないわね」


 ――マジか……


「ディオは無駄に硬いのよ。マリスの最大魔法程度じゃ大怪我するくらいかしら」


 ヴィンスも、その可能性は頭にあった。

 だが、その不安材料は考えないようにしていた。


 それを考えだしたら、作戦は成り立たないと思ったから――


「別の作戦を考える……少し待ってくれ」


 流石に倒せない可能性が増してしまうならば、難しいではなく、無茶な作戦になってしまう。


 ――だが、今から考え直してなんとかなるだろうか……


 ――時間がなさ過ぎる……


 ――クソ……


「これを使いなさい」


 アシュリンがヴィンスに何かを投げた。


 慌てて掴むと、それは――


「……短刀?」


「ただの短刀ではないわ。刺した相手の魔力を奪い取る、特殊な短刀よ」


「どうしてこんなものが……?」


「うるさくて、むさ苦しくて、戦うことがこの世の全てだと思ってるちょっと頭が足りない、過保護な奴の形見よ」


 そう言うアシュリンの目は遠くを見つめているようだった。

 ヴィンスは、その短刀を握りしめ、アシュリンに誓った。


「ありがとう。これできっと作戦は成功する」


「……頑張ってみるといいわ」




 ――そうして今


 ――白い閃光が眼の前を覆い尽くしていた。



 その閃光の中心にいるのは――ディオ。


 作戦通りだ。

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