8話 とっておきの秘策
その頃『あの二人』ことキーヴァとヴィンスは、追い詰められていた。
ディオが荒々しく剣を振るう中を、キーヴァは針に糸を通すようにすり抜けていく。
これも、キーヴァが先天的に有している風の魔法のおかげ。
しかし、余裕はない。
「はは!! 逃げる以外手がないか!!」
「そうそう、逃げる以外手はないよ!! だから、手加減してよ!!」
「嘘つけ、何か隠しているだろ?」
「あーら、バレちゃった? やっぱり隠し事って苦手だわー」
「一体何を狙っている? あの男が鍵ではあるまいな?」
ディオはちらりと、端で身を隠しているヴィンスを見た。
「魔力が無いただの人に何ができるの? 魔王様ったら、小心者ねー」
「私は用意周到なだけだ」
「だったら、私達の罠に気づいてたはずでしょ? バカなの認めなよー」
ディオの顔が引きつった。
ムカついたようだ。
「面白い!!」
ディオは手を突き出した。
光が掌に集まっている。
――あ、やば
「キララウス・イラプション!!」
赤い閃光がキーヴァを襲う。
即座に回避行動を取るが――
「誘導すんのかよ!!」
大聖堂に張られた魔法障壁のギリギリを走り抜ける。
一つ、二つと壁にぶつかり消滅するが――
残った一つがキーヴァの背中を抉った。
「キーヴァ!!」
ヴィンスは思わず叫んでしまった。
しかし、キーヴァはなんとか倒れず、踏みとどまった。
「やるではないか」
「あんたも……ね」
キーヴァは強がって見せるが、ダメージは甚大のようだ。
太ももから血が垂れてきている。
「諦めれば、楽に逝かせてやるぞ」
「まーさか、とっておきがあるんだから負けるわけないでしょ?」
「であれば早く使ったほうがいいぞ? 次でお前は死ぬのだからな」
「おっけーおっけー、そう焦らないでよ。次でとっておきを見せてあげる」
キーヴァが笑うと、ディオも笑った。
再び、死の追いかけっこが始まる。
しかし、キーヴァの動きは明らかに鈍い。
もう、長くは持ちそうにない。
――ちょっと……きついわ……
――あとどれくらい耐えればいいのさ……
――早くしてよ
――あの嘘つき魔族!!
限界の近いキーヴァの足元――
下の下に広がる大空洞――
アシュリンとマリスの戦いは、苛烈を極めていた。
「ウーイル!!」
「エクイバレント」
「ウィスカ!!」
「エクイバレント」
「ティーナ!!」
「エクイバレント」
魔法を放つたびに魔力を増やしていくマリス。
一方で、アシュリンは一つの魔法しか使わない。
エクイバレント。
相殺魔法。
放たれた魔法に対して、同量の魔法をぶつけ相殺する高度な魔法。
そんなものを使うのは、古の魔族しかいない。
そんな奴がまだ存在していたのか――
マリスはそう思った。
「カーリグ!!」
「エクイバレント」
「フアラ!!」
「エクイバレント」
「ソーラス!!」
「エクイバレント」
淡々とエクイバレントを放つアシュリンに、流石のマリスも違和感を覚え始めた。
――おいおい
――まだ相殺魔法だと?
――こっちはもう魔力の八割を使ってるんだぞ?
――エクイバレントは魔力コントロールが難しい魔法だ
――一度間違えれば無防備のまま相手の魔法を食らうんだぞ?
――そんなリスキーなことをやる奴なんて
――…………
――待て
――思い出した
――一人いたぞ
――確か、あいつの名前は……
「ようやく――思い出した見たいね」
アシュリンのその言葉に、マリスはハッとした。
「ま、まさか……」
「感謝しなさいよマリス。鳥頭のあんたに、思い出すってことを教えてあげたんだから」
「お前は……!!」
「私の名前はアシュリン・ディ・ベルベティカ……お前が殺したザリオン・ディ・ベルベティカの娘だ」
「あ――ああ――!! ブリオングロード!!」
マリスは自身が持てる最大限の魔力を放った。
白い閃光がアシュリンを襲う。
だが――アシュリンはこの時を待っていたのだ。
「――リフレクション」
アシュリンの眼の前に無数の鏡が現れる。
それが、マリスの放った白い閃光を反射し――
反射し――
反射し――
マリスに向かっていった――
「あ――」
そして、白い閃光はマリスを貫いた。
あっけない決着――
だが――これで終わりではない。
アシュリンは自身が持てる最大限の魔力を使って、ブリオングロードをコントロールし――
洞窟の天井にぶち当てた――
白い閃光は――
土を――
岩を抉りながら突き進み――
突き抜けた――
その先にいたのは――
魔王・ヤディオルシガ――
先に気づいたキーヴァは――笑った。
「まったく……遅いっての」
白い閃光は――ディオの身体を一直線に貫いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます