5話 氷心のエーデルと無敵のギアロイド

 ヴィンス達がキングスロード城塞を後にして一日後――


『魔王を倒した勇者が凱旋するぞ!!』


 王都ではその話題で持ち切りだった。

 勇者を迎えるために、王都は飾り付けられ、住民たちは夜通し大騒ぎをしていた。


 できうる限り盛大に――


 溢れんばかりの感謝を伝えるために――


 彼らは勇者を称え、喜びを声にし、到着を今か今かと待っていた――




 そうして、一台の馬車が聖都に到着した。

 人々は歓声を上げ、大いに喜んだ。

 

 中から出てきたのは――



 エーデル・クラーク――


 ギアロイド・サリバン――



 その二人だった。

 つまり、この二人は――


「長旅お疲れ様でした、『勇者』様」


 そう言って二人を出迎えたのは――ヴィンスだった。


「今回案内をさせて頂きます副書記官長、ヴィンス・バーンです。

 よろしくお願いします」


 丁寧に頭を下げたヴィンスだったが、エーデルとギアロイドは無反応だった。


「式典の準備はできております。中まで案内させて頂きます」


 こうして三人は大聖堂へと続く階段を登って行ったのであった。


「小さいな、王都は」


 そう言ったのはギアロイドだった。

 確かに、『勇者』を称えるにしてはこの大聖堂は小さい。

 誰の目にも明らかだし、不満に思うのは正しい。


 だがヴィンスは、何も返答しなかった。


 本来であれば、雰囲気を盛り上げるために、返答をするだろう。


『ここは由緒正しき場所ですから』


 とか。


『特別な催し物を考えております』


 とか、なんでもいい。

 機嫌を取るのが第一だ。

 なぜなら相手は、やっとの思いで見つけた『勇者』なのだから。


 しかしヴィンスは、それをあえてしなかったのである。

 それは、この時点である確定的な証拠を握ってしまったからである。

 

 確かな真実――


 隠された事実――


 それを、理解してしまったのであった。


「そういえばエーデル様――」


 歩きながらヴィンスがそう切り出した。


「貴方の古いご友人が、式典の前にお会いしたいそうなのですが、お時間よろしいでしょうか?」


 エーデルは抵抗すること無く、別の兵士に連れられて行った。


「こちらが、式典の会場になります」


 ヴィンスはギアロイドを連れて、大聖堂に入った。

 がらんとした内部は、『勇者』達を向いれるために、華やかに飾りつけられていた。


「では、しばらくお待ちください」


 ヴィンスが大聖堂を出ようとすると――


「待て」


 ギアロイドがそう言って呼び止めた。


「なにか?」

「……うまくやったつもりか?」

「…………」

「この大聖堂には魔法障壁が張られているな。まるで、牢屋のようだ」

「……だとしたら?」

「魔力のない人間だからと油断したが、どうやらお前が仕掛け人のようだな……

 確か名前は……」



「副書記官長、ヴィンス・バーンだ。よく覚えておくといい、魔王ヤディオルシガ」

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