6話 ヤディオルシガ 対 ヴィンスとキーヴァ

 ヴィンスは眼の前にいるギアロイドに向けてそう言った。


「中々面白い、私が人間ではないとどうやって見破った?」


 ――否定はしない、か

 ――だとすると、相当余裕があるというわけだな……


 ヴィンスは警戒を保ちつつ、口を開いた。

 答えは簡単だ。


「ここは王都じゃないからだよ」

「それはハッタリだな」

「果たしてそうかな?」

「案内された時に、王都だと言われたぞ」

「それが嘘だからだよ」


 ディオの顔から笑みが消えた。



「ここは、王都アズリンではない――聖都ウィーンだ」



 王都アズリンと聖都ウィーンは似て非なるものである。

 場所も違うし、町の作りも違う。

 この違いに気づかない人間は世界のどこにも存在しない。

 ましてや、この国で五回も犯罪を犯したギアロイド・サイバンが、こんな単純な違いを知らないわけが無い。


 それを知らないということは――


 彼が、ギアロイドサリバンで無く――人間でもないからだ。


「魔族相手に嘘でハメるか……益々面白い」

「褒めて頂き光栄だよ、魔王様」

「だが、私が魔王とまで見破ったのはどうしてだ?」

「質問が多いな」

「殺してからでは聞けないだろ?」


 ギロリとこちらを睨むギアロイド――いや、魔王ヤディオルシガ。


 魔力を持たないヴィンスにも、それは感じた――


 とてつもない圧――


 流石、魔王を名乗るだけはある。


「もし、あんたがただの魔族だとしたら、そもそも一撃講和なんて無茶な考えは生まれない。それは、力を誇示するのが大好きなバカで、大陸制覇を夢見るようなアホじゃないとやらないこと――だから、自分が赴き式典をめちゃくちゃにする。そして、力を見せつけてから講和に入る。それをするのは誰か……魔王本人だからだ」

「……お前の言葉ではなさそうだな」

「ああ、親切な奴から助言をたくさん頂いたよ」

「はは……面白い……面白いな……!!」


 ディオは笑いを堪えるように、顔を隠していた。


 ――やるなら今だな


 ヴィンスは、手で合図を送った。


 瞬間、激しい金属音が大聖堂内に響いた。


 その音の正体は、隠れていたキーヴァによる鋭い斬撃。


 ヴィンスの目にも、確実に首を捉えたように見えた。


 はずだった――


 だが、その刃は首元でピタリと止まっていた。


「……嘘でしょ?」


 キーヴァは驚き、困惑していた。

 ヴィンスも同じだった。


 と――ギアロイドに扮するディオの周りを強い風圧が取り囲んだ。


 堪らず、キーヴァは吹き飛ばされた。


 すかさず態勢を立て直すと、そこにはギアロイドの姿は無くなっていた。


 そこには、大きな巨体に、大きな角――そして、だらりとぶら下がった右腕。


 ヴィンスは理解した。


 これが、魔王ヤディオルシガの真の姿。


「計画通りに進みすぎて退屈していたところだ……少しは楽しめそうだな」


 ヴィンスとキーヴァを見下ろしながら、ディオは言った。

 そして、ヴィンスは思った。


 ――なるほど


 ――これも、アシュリンの言う通りだ

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