12話 失意の目覚め

ヴィンスはテントの中で目を覚ました。


「……ここは?」

「野営用のテント。兵士が貸してくれたの」

 

 顔を横に向けると、布の隙間から外が見えた。

 空は暗く、人気も少ない。

 真夜中だということに気づいた。

 身体を起こそうとすると、胸と足に激痛が走った。


「まだ寝てたほうが良いよ‼️」


 慌てた様子でキーヴァが言う。

 あまりの激痛に、無理が出来ないことを悟り、ヴィンスは再び横になった。


「……どうなったんだ?」

「え?」

「あの後……何がどうなった?」

「……」


 ヴィンスの言う『あの後』とはノアが爆発してからのこと。

 キーヴァもそれは分かっていた。

 だが、重傷の兄に伝えるべきがどうか……

 それを悩んでいるようだった。


「言ってくれ」

「……分かった」


 少し躊躇いながらも、キーヴァはその重々しい口を開いた。

 結論――


 ――大惨事


 部屋は跡形もなく吹き飛び、衝撃により城塞の壁はいくつも崩れてしまったという。

 多くの兵士が負傷し、死者も出た。

 キーヴァは、軽い切り傷で済んだ。

 閃光が見えた瞬間、『魔法』を使ったからだ。


 しかし、ヴィンスは違かった。


 ヴィンスは塔があった場所から3メートルも吹き飛ばされたという。

 意識を失い、足の骨も折れていたそうだ。

 だが、幸いそれ以外の外傷は見られなかった。

 

 その話を聞いて、ヴィンスは痛みの正体を理解し、外が暗い理由も理解した。


「だから、しばらくは『勇者探し』はお休みだね。身体を休めないと」


 キーヴァはそう言って立ち上がろうとすると、ヴィンスはポツリと聞いた。


「……ノアは?」


 キーヴァは、動きが止まった。

 ヴィンスの質問に答えようとはしなかった。

 だがヴィンスは、答えの予想は出来ていた。

 そして、キーヴァの様子を見て、確信した。


「……死んだのか」


 キーヴァは沈黙で答えた。

 ヴィンスは、思い出していた。


 あの光景を――

 ボロボロと涙を流すノア――


 あのセリフを――

 『すまない、私は勇者ではないんだ』――

 

 ――全てが現実だった


 ――自分が憧れ、勇気をもらっていた男


 ――それが目の前で弾け飛び、死んだ


 ――死んだのだ

 

「俺が悪かったのかな……」


 ヴィンスはポツリと言った。

 疲弊のあまりの自己否定。

 精神が消耗している証拠だった。

 キーヴァはすぐさま否定した。


「そんなわけ無いじゃん‼️ お兄ちゃんが悪いわけないでしょ‼️」



「そう、貴方が悪いわけじゃないわ」



 キーヴァの声の後に、すぐさまもう一つの声が否定した。

 一瞬誰の声か分からなかった。

 気絶していた後遺症だろうか。

 しかし、影から現れたその姿を見て、すぐさま思い出した。

 大きな帽子と青みがかった肌。背丈よりも高く、腕よりも太い杖を携えた魔族の女。

 アシュリンだった。


「これは全て、マリスの策略だったのよ」

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