10話 涙の告白
静かに――
声を押し殺し――
ボロボロと両目から涙を流すノア。
その異様な光景に、部屋にいた全員が息を呑んだ。
「……大丈夫ですか?」
恐る恐る聞くヴィンスだが、ノアは小さく首を横に振った。
「ダメだ……こんなんじゃ……」
「もし、不快な気持ちにさせたのであれば……」
「違う、違う……悪いのは……全部……」
支離滅裂。
ノアは取り乱し、正気を失っていると、ヴィンスは思った。
「少し時間を置きましょうか……?」
とても話ができる状況ではないとヴィンスは思った。
だがノアは、再び首を横に振った。
「大丈夫だ……全部……覚悟を決めた」
ノアは、顔を拭き、赤くなった目でヴィンスを見つめた。
その眼差しは、今までのノアとはまるで別人に思えるほど、強い意志を感じた。
「……覚悟ですか?」
「ああ、思い出したんだ……全部」
「全部というのは……?」
「冒険者としの矜持、勇者としての誇り……そして、大いなる責任をだ」
「……えっと?」
雄弁になったノアに、ヴィンスは困惑していた。
さっきまで、まるで覇気の無い一般人のようなノアとは別物。
今眼の前にいる人物は、確実にノア・ウィリアムズだと言える。
覇気を感じる。
ハッキリと。
「君が思い出させてくれたんだ。私という存在がどんなものかを――」
あまりの変わりように、ヴィンスはまだ困惑していた。
ノアは、話を続けた。
「私は――挑むことが好きだった。
それが困難なことであればあるほど心が躍り、力が湧いて出る人間だった。
そんな自分が冒険者になったのは、自分でも当然だと思っていた……」
ヴィンスはただ静かに聞くべきだと思い、言葉を挟まないようにしていた。
今のノアは、憑き物が落ちたような状況であり、何か大事な事を喋りそうな雰囲気があった。
ノアは、話を続ける。
「しかし、探検しているうちに、私は魔族という存在と、魔王という存在を知るようになった。
彼らが執拗に人間と、王都を攻撃することに興味を持ち、気がつくと挑みたいという気持ちが湧いてきた……そうして、私は冒険者から勇者になっていった……」
これは初めて明かされることだった。
ノアの著書は多くあるが、自分のことを語った自伝は存在しない。
初めて語られることの数々。
聞いているヴィンスは話に付いていくのと、理解するので手一杯になっていた。
ノアの話はまだ続く。
「そうして、ついに魔王と戦い、右腕に致命傷を与えた。
倒すことはできなかったが、一度王都に戻り、再度荷物を整えた、次が最後の戦いになると思ったからだ」
ここまでは、嘘を言っている雰囲気はない。
主観的ではあるが、他の資料や書籍で確認されている行動と合致している。
ヴィンスはノアの発言の整理をしながら、根本的な疑問に辿り着いた。
――なぜノアはこんなにも饒舌になっている?
――さっきと、今で何が違う?
――ノアの覚悟……?
――ノアは一体何を覚悟したんだ……?
まだ答えは出ない。
だが、形は見え始めている。
あとは、何か新しい情報があれば――
捏造はより綿密にできる。
それだけじゃない。
もしかしたら、本当にノアが魔王を倒した勇者の証拠が……。
ヴィンスには、一筋の光明が見えたように感じた。
そして再び、ノアは話を続けた。
「そして、再び魔王城に入った。そして、魔王と戦い……」
長い沈黙。
誰もが次の言葉に耳を傾けた。
「戦い……どうしたんですか?」
しびれを切らし、ヴィンスが聞いた。
ノアは口を開き――言った。
「負けた」
――え?
ノアは再び、目に涙を浮かべた。
「すまない、私は勇者ではないんだ」
ハッキリと聞こえた。
ヴィンスは固まってしまった。
キーヴァもだ。
そのため――気づくのが遅れた。
魔力の膨らみを。
ノアの異変を。
気づいたのは、アシュリンだけ。
影から飛びだし、大声を上げた。
「離れて‼️」
瞬間、閃光が部屋の中を満たし――
炸裂音と衝撃波が遅れて届いた――
ヴィンスには全てがゆっくりと見えていた。
凄まじい衝撃――
後ろに引っ張られていく身体――
そんな中、ヴィンスはふと、昔を思い出していた。
全てを奪われ、全てに絶望していた。
あの昔のことを――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます