17話 地図の盲点
アイゼンハウアーの首元にナイフが突きつけられる。
ナイフを握っていたのは、キーヴァだった。
――さっきまでドアの前にいたじゃねーか‼️
きっとアイゼンハウアーはそう思っているだろう。
これが、キーヴァの使う『魔法』である。
「おいおい、『勇者』様にこんなことしていいと思ってるのか……?」
「安心しろ、お前は『勇者』ではない」
対面に座るヴィンスは姿勢を崩し、足を組んだ。
先程までの改まった様子はどこかへ消えていた。
「……さっきまでと随分態度が違うじゃねーか、副書記官」
「ただのゴロツキ相手に態度もクソもないだろ?」
「へぇ、そこまで言うのか。まさか『勇者』ではない証拠でも手に入れたのか?」
「そうだ」
アイゼンハウアーが大声で笑った。
その声はきっと、トバカリー城塞の外まで聞こえただろう。
キーヴァが握ったナイフに力を入れようとするが、ヴィンスが手で制止した。
「すまんすまん。あまりにもおかしくてな。それじゃ見せてくれよ、その証拠ってやつを」
「お前の主張を確認する」
ヴィンスはテーブルの上に置かれた資料を指差し説明を始めた。
「バリーナ城塞から魔族領に入り、コロ平原、タウラ丘を抜け、魔王城のあるスイゴに着いた。
コロ平原からタウラ丘は三〇キロ、タウラ丘からスイゴまでは二七キロ、おおよそ二週間の旅程……そうだな?」
「まさか、数字が違うとか言うんじゃないだろうな?」
「ああ、その通りだ」
再び、アイゼンハウアーは笑い、丁寧な口調で言った。
「残念ですが副書記官、それは正確な数字なんですよ。もしも、どこかの魔族に聞いているのならば、完全に騙されていますよ? 私が提出した数字は完全に、完璧で、正しい数字です」
自信満々。余裕たっぷり。
餌に釣られ、まんまと引っかかった獲物に、真実を伝えてやろうという最大級の上から目線だった。
完全に、出し抜いてやった。
そう、アイゼンハウアーは思っただろう。
だが、ヴィンスはそれを鼻で笑った。
「残念なのはお前の頭だな、アイゼンハウアー」
「安い挑発ですねぇ」
「俺はまだ数字が間違っているとしか言ってないぞ」
ヴィンスは、一枚の紙をテーブルの上に置いた。
それは、アイゼンハウアーの証言を元に作成した地図だった。
「コロ平原からタウラ丘は三〇キロ、タウラ丘からスイゴまでは二七キロ。
これが間違った数字ではないことは、俺も確認済みだ」
「じゃぁ、私の証言も説明も正しいということですよね?」
「証言は正しかったが、説明は間違っていたな」
「は?」
「コロ平原からタウラ丘は三〇キロ、タウラ丘からスイゴまでは二七キロ。
これは直線上の数字だろ?」
「……何言ってんだお前」
「お前は地図の盲点に陥ったんだよ」
その意味の分からない指摘にアイゼンハウアーは顔を歪めた。
イラついているようだ。
ヴィンスは地図のある場所を指さした。
それは、タウラ丘。
「タウラ丘からスイゴへ、お前はどうやって向かったんだ?」
「そりゃ当然歩いてだよ」
「ギル山脈って知っているか?」
「しらねーよ」
「タウラ丘とスイゴの間を横切る六〇〇〇メートル級の山脈だよ」
アイゼンハウアーの顔色は明らかに変わった。
ヴィンスは姿勢を前傾姿勢に直し、アイゼンハウアーに問うた。
「なぁ、お前は二週間で魔族領から帰って来たんだよな?
登るのに一〇日もかかる山道を、どうやって二週間内で行き来したんだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます