16話 点と点で結んだ距離
「嘘だね!」
キーヴァの大きな声が峡谷に響いた。
「そんなわけ絶対に無い‼️」
「私は頼まれたことをそのまま答えただけなのだけど……」
「あんたが嘘ついてるかもしんないでしょ‼️」
「あなたがそう思うのは自由じゃない? でも、あなたのお兄さんはどうかしらね」
キーヴァは、ヴィンスも同じ意見だろうと思っていた。
アイゼンハウアーの証言に疑問を持っていたのは同じだからだ。
しかし、キーヴァが見たヴィンスの顔には――笑顔が浮かんでいた。
「なるほど、点と点か」
「ええ、点と点よ」
ヴィンスとアシュリンはお互いを見てニヤニヤと笑っていた。
「……なにこれ」
キーヴァだけが、状況を理解できなかった。
「つまりな――」
ヴィンスはキーヴァに耳打ちした。
そして再び、キーヴァの大きな声が峡谷に響いた。
その声を最後に、峡谷は静寂に包まれた。
再びヴィンスとキーヴァの姿が目撃されたのは、翌日だった。
トバカリー城塞のアイゼンハウアーが留置されている部屋を訪ねていた。
「随分と待たせてしまいまして、すみません」
ヴィンスは笑顔でアイゼンハウアーの対面に座った。
「本当、随分と待たせたねぇ。嫌がらせでもしているのかと思ったよ」
ドア付近に立っていたキーヴァが強く舌打ちをした。
アイゼンハウアーの態度は、ヴィンスが最後に会った時と変わっていなかった。
大柄で、無礼で、相手を小馬鹿にした態度。
だが、ヴィンスは笑顔を崩さなかった。
「貴方を歓迎する準備に時間が掛かりまして。でも、やっと整いました」
「そりゃよかった。それじゃすぐに行こうか」
「の、前に確認をさせてください」
と、ヴィンスは一枚の資料をアイゼンハウアーの前に差し出した。
その資料は、アイゼンハウアーが以前証言していた魔族領内での道のり。
『バリーナ城塞から魔族領に入り、コロ平原とタウラ丘を抜け、魔王城のあるスイゴへ到達。おおよそ二週間の旅程』
「この証言と数字、間違いありませんね?」
「はは、やっぱりまだ疑ってるんだ」
「最後の確認ですよ」
「本当にこれが最後の確認なの?」
「もちろんです。この確認が終わりましたら王都まで送りますよ」
アイゼンハウアーはその言葉を信用していなかった。
最後の最後になってこんなことを言い出すなんて、完全に疑っていなければありえない。
そして、ヴィンスの言葉には覚悟が読み取れる。
――何かを掴んだ?
――いやいや、多分これは……
――ハッタリだ。
アイゼンハウアーの中で、考えが固まる。
そして、はっきりとした言葉と余裕の笑みを浮かべて答えた。
「伝えた通りだよ。その旅程に間違いはない」
確固たる自信があった。
なぜなら、あの数字には根拠が存在するからだ。
それは、王都側に保管されている資料だけではない、魔族が作った地図も参照している。
王都側の知らない資料を使い、たとえ彼らが魔族側の地図を手に入れたとしても、数字は絶対に合っている。
二段構えの完璧な証拠。
事実は絶対に崩せない。
その言葉を聞いたヴィンスの顔は――穏やかだった。
「そうですか。ありがとうございました」
「……終わり?」
「はい、これで終わりです」
アイゼンハウアーは少しばかり拍子抜けした。
ここから追求を行うものだと思ったからだ。
――思い違いか
そう思い、席を立つと――
「動くなよ嘘つき野郎」
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