第三章 軽口のアイゼンハウアー

1話 キーヴァはブチギレた

 昼時前、北西部にあるトバカリー城塞に着いた。


 のだが―――


「あったまきた‼」


 キーヴァは飲んでいたグラスを勢いよくテーブルに叩きつけた。

 あれだけ楽しみにしていた朝食だというのに、まるで酒場で荒れる船乗りのようだ。


「静かに食べなさい」


 ヴィンスがハムエッグを口に入れたと同時にキーヴァが身を乗り出した。


「お兄ちゃんは悔しくないの⁉」


 キーヴァは、今にも掴みかかりそうな形相だった。

 だが、ヴィンスはハムエッグが気管に入り、激しく咳き込んでいた。



 ことの発端は1時間前、ヴィンスとキーヴァがトバカリー城塞に着いた直後に遡る。



「それじゃ、朝食の準備だけ頼みます」


 兵士達に朝食の依頼をしている間に、ヴィンスは聴取を終えておこうと考えていたのだ。

 相手の名前は、アイゼンハウアー。

 実を言うと、今回名乗りをあげた5人の中で一番信憑性が高い資料が揃っている。

 だが、それはあくまで提出してきた資料のみの話だ。

 実際に喋って見ればボロが出て、実は全ての資料が捏造だったという話は全く珍しくはない。

 だからこそ、資料が完璧な相手こそ慎重に裏取りをしなければならない。

 キーヴァの件があり、なんとも肩透かしなスタートだったが、やっと仕事らしくなってきた。

 ヴィンスはアイゼンハウアーが寝泊まりしている部屋へ向かうと、既にキーヴァが待っていた。


「まだ朝食じゃないぞ」

「分かってるよ‼」

「んじゃどうした」

「え、普通に仕事の手伝い」

「手伝い?」

「おにいちゃんが言ったんじゃん、仕事手伝えって‼」

「いや、お前に聞き取りの仕事は無理だから、護衛だけしててくれ」


 ヴィンスはそう言った後に、しまった。と思った。


「だったら護衛として一緒に入るね」


 キーヴァは得意気な顔をして、ヴィンスを見ていた。

 子供の時ならあーだこーだ言って話を無しに出来たが、ヴィンスは既に大人となり、副書記官長という役職まで得ている。

 話を無しにすることはできない。


「……分かったよ。とにかく、うるさくしないでくれ」

「はーい」


 キーヴァはご機嫌な様子で、ヴィンスの後ろへ回った。

 ヴィンスは、ため息を付きながらドアを開けた。

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