5話 兄妹は次の勇者の元へ
夜を過ごし、日が昇ると同時に2人は城塞を後にする。
次の城塞は歩いて1時間ほどの距離なので、護衛をつけず徒歩で向かうことにした。
なのだが、キーヴァは不機嫌な様子でヴィンスを無視してズンズンと先へ進んで行く。
「まだ怒ってんのか」
「怒ってるよ‼ ご飯抜きなんだもん‼」
というのも、ディアミド男爵は、朝食でもと誘ってくれたのだが、ヴィンスが丁寧に断ったのだ。
それをがキーヴァを不機嫌にした原因である。
「何回も言ってるだろ。お前が『勇者』だと信じてる連中と食事なんてしたら、お前がボロ出して大騒ぎだっつーの」
「そこまで馬鹿じゃないって‼」
「昨日の尋問すらかわせない奴には無理だ」
キーヴァはますます不機嫌になり、ズンスンと先へ進んでいった。
その光景を見てヴィンスは、孤児院時代のことを思い出し、口元が緩んだ。
「分かった分かった、あっちついたら朝食をお願いしてやるから」
「やったー‼」
キーヴァは振り返り、嬉しそうにジャンプした。
そして、子供のようにはしゃいだ。。
本当に昔と変わらない表情をする―――
だからこそ、気になることがあった。
確かめなければならないことがあった。
「なぁキーヴァ」
「うん?」
キーヴァは足を止め、真っ直ぐな眼差しでヴィンスを見つめた。
昔と変わらない純粋な目で。
「正直に話して欲しいんだが、どうして盗賊なんてやってたんだ」
「あー……いやー……」
キーヴァはまた目を泳がせ、唇をしきりに触った。
「別に怒らないから、正直に言ってくれ」
キーヴァは苦々しい顔をしながら話し始めた。
「最初に南部についた時は、私もちゃんとした仕事をしてお金を稼ごうと思てたよ。
でも、子供だったし、それに南部はあんまり治安も良くなくて……」
「仕事が貰えず、盗みに走ったのか?」
「最初は盗むつもりはなかったんだよ……喧嘩売られてさ……」
「買ったのか?」
「私のそばかすを馬鹿にしてきたからさ、殴り倒してやったんだ」
ああ……。
キーヴァの顔には、そばかすがある。
そのことを、孤児院にいた時から酷くからかわれ、泣いていた。
その度にヴィンスはからかった子供を捕まえて、殴っていたのである。
親の行動を見て子供は動きを学ぶとは言うが、まさか殴るところまで真似るとは、ヴィンスも思っていなかったようだ。
「……ん? 待て、今の話ぶりからどう盗賊に繋がるんだ?」
「いやー……ざまーみろと思ってさ。
そいつの持ってる金品奪って逃げたんだよねー……」
呆れた。
ここまで短絡的だったとは……。
ヴィンスは、冷めた目でキーヴァを見つめると、慌てた様子で反論してきた。
「だって、あっちが悪いじゃん‼」
「盗む必要ないだろ」
「そうだけど、ムカつくじゃん‼」
こうなったキーヴァは、もう何も耳に入ってこないことは知っている。
ヴィンスは、キーヴァに近づき、頭を撫でた。
「そばかすのことは気にするな」
「でもさ……なんでいっつも皆……」
「何度も言っただろ、それはそばかすじゃなくて―――」
「星屑、でしょ?」
「……覚えてたんだな」
「覚えてるよ。
一杯の星空が広がる夜に教えてくれたこと。
この沢山の星屑が私の顔に宿っているって。
これと合わせてね」
キーヴァは胸元からおもちゃのペンダントを取り出した。
見た目はボロボロで紐は今にも切れそうだ。
「それもまだ持ってたのか」
「これからもずっと持ち続けるよ、あの夜の記憶と一緒にね」
キーヴァはにこりと笑った。
ヴィンスもその笑顔に釣られ、少し顔をほころばせた。
「ま、でも窃盗と暴行の件は報告するけどな」
「なんでー‼」
「俺は副書記官長だからだ」
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