3話 偽物の顛末
外はすっかり夕方になっていた。
キーヴァはげっそりとした顔で、ベッドに横になっている。
ヴィンスは紙に走らせていたペンを止めた。
聴取の結果をまとめると、こうだ。
キーヴァは『勇者』ではない、当然ながら。
キーヴァは孤児院から抜け出したあと、南部で盗賊として日銭を稼いでいたが、南部の深刻な塩害により、王都からの派兵が増え、治安が向上したため活動の場を北部へ変更。
魔族領付近でまた盗賊をしていたところ、魔王が倒されたという噂を耳にし、報酬目当てで『勇者』を自称したという。
「……バカなのかお前?」
「いいでしょ別に‼」
よくねーよ……
思わずそう口にしたくなったが、言い訳が長引きそうなので、言葉を飲み込んだ。
そんなことをしていると、1つ言っておくことを思い出した。
「そういえばお前、魔法を見せたそうだな」
「え、えへへ……」
「本当に大事な時以外絶対に使うなって言ったと思うんだが」
ヴィンスは叱るようにキーヴァに言った。
魔法とは、人間にとっては特別な力である――
軍や政界、そして『勇者』となって多くの人々を助けているのが一般的だ――
と、先程は述べたが、実はこれには負の面が存在する。
それは、『強制的に』という面だ。
想像に難くないだろう。
特別な力を持ったものは、力が働きやすい場所に集められる。
現に、枢密院だけでも総勢10名中9名――ヴィンス以外の全員が、魔法を有している。
議会だけでも7割、勇者に至っては9割魔法を使うことができる。
魔法を使える人間は、『王都の全人口の1割にも満たない』のに、だ。
魔法を有しているキーヴァも、当然この『強制的に』に入る可能性があった。
それが、ヴィンスの懸念していた魔法の『負の面』。
キーヴァには、『強制的に』未来を選択して欲しくなかった。
もっと自由に、好きなように、この世界で生きて欲しかった。
でも、だからと言って、盗賊や詐欺師になれとは言ってない。
「いや、大事だったんだって。
『勇者』だって信じ込ませるには一番手っ取り早いし、説得力あるし‼」
必死に弁解するキーヴァではあるが、その短絡過ぎる思考にヴィンスは頭が痛くなっていた。
「なんでそう思い切りがすごいんだよお前は……なんでもかんでも気合とパッションで乗り切るのはやめてくれ」
「だ、だって……」
「あの時もそうだったな。
試験の時、合格しないと学校を追い出されるからって、24時間ずっと勉強して、
試験当日に鼻血を出してぶっ倒れて、先生達ドン引きさせて試験合格してたよな」
「なんで覚えてんの!?」
「人がぶっ倒れた記憶をそう簡単に忘れられるわけねーだろ」
「あ、あの時は必死でさ……あはは」
「今回と同じじゃねーか」
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