エピソード2 第十六話
ミニスが自前で強化魔法が使えるというのは計算外だった。
だがしかし、
何より、体力も魔力もそろそろ限界だ。デオを探してさっさと退散しよう。
そう思って動こうとした時、
「まさか、今ならとんずらこけるなんて思っちゃいねえだろうな?」
ミニスはこちらの考えを見透かしているかのように告げる。
「……
動き出すのが一瞬だけ遅かった。
彼女が呪文を唱えると、四方と頭上に金色の壁が出現する。
金色の立方体はアステルとミニスの二人を仕舞う箱のようであった。
「しまった……!」
この魔法は知っている。昔彼女がよく使っていた防御魔法だ。
外からの攻撃や魔法を完全に遮断し、中にいる人物を守る防御結界。その強固な守りで幾度ものピンチを乗り越えてきた。
ただ一つだけ欠点があり、それは外から内への攻撃だけでなく、内から外への攻撃も通さないということ。
しかしその欠点は今、二人を閉じ込める檻として機能してしまっている。
「ようやくここまで追い詰めたんだ。そうやすやすと逃がすか……よ!」
ミニスが槍を振りかぶり、投げる。僅かに身を捻り避ける。槍は金色の壁にぶつかり、粉々に砕け散った。ミニスの手にはすぐさま新しい槍が現出する。そして、次の投擲が来る。
この金色の箱はさっきまでの戦場に比べると非常に狭い20歩も歩けば反対側の壁に到達してしまう。
そんな中で彼女の全力の投擲を避け続けるのは至難の業だ。
自分が取れる道は一つだけ。
ミニスを倒すこと。
「チクショウ……!ミニス!もうやめろ!昔の仲間まで殴りたくねえ!」
槍の勢いは決して緩むことはない。
彼女の無感情な声が、金色の箱の中でこだまする。
「都合の良い時だけ仲間面か。そんな風に思っていなかったくせによ」
「そんなことねえ!俺は今だって皆のことを……!」
弁明は、槍が空を裂く音で遮られた。
左肩の肉が削がれて血が飛び散る。
「痛っ……!」
肉を削がれた痛みを、再生の痛みが覆い隠していく。だが、その痛みが今までより遥かに弱い。魔力が枯渇し始めて再生が遅くなっていた。
それを好機と見たミニスは、一本の槍を両手で持ち突撃を掛けてくる。
猛烈な突きが、脇腹を貫いた。
身体の動きも遅くなっている。
「があ……!?」
「こんなのも避けれねえとは、腕が落ちたな、クソ勇者。今のお前じゃ
ミニスは片手を槍から離す。その手にさらなる槍が現れ、アステルの脚を貫いて地面に縫い付けた。
「ぐう!?」
「あの女に何を吹き込まれたか知らねえが、これ以上邪魔すんな。迷惑なだけだ」
次の槍が右手を貫き、地面に突き立つ。ミニスは次々に槍を作り出し、アステルの体を貫いていった。
アステルは昆虫の標本のの様に地面へと縫い付けられ、完全に動きを封殺された。
十数本の槍が全身の至る所を貫かれ、地面には血溜まりが出来ていた。
かろうじて生きているのは自動回復魔法のお陰だ。だが、槍で貫かれている部分は再生しない。
筋肉が損傷と魔力の枯渇で力が出ない。今はもう顔を上げる力すら残っていなかった。
しゃがみこんだミニスの、無情な仮面がこちらの顔を覗き込む。
「てめえは殺さねえ。総帥との約束だからな。無力化したまま帝都に連行する」
「……その後、俺は、どうなる?」
アステルの喉から掠れた声が漏れ出る。
何か考えがあって出た言葉ではない。失血で朦朧とする意識の中で、零れた言葉だった。
「さあな、お前がどうなろうが知ったこっちゃねえよ」
「なあ、ミニス……ゲホッ!お前はなんで、アイナに、協力してるんだ……?お前は、元老院の、子飼いだったんじゃ……?」
「あんなジジイ共、はなっから守る気なんざ無かったわ。お前と旅をしてた時からずっと、どうすれば連中と手を切れるかばっかり考えてたよ」
「それで、アイナに、手を貸しているのか……?」
「……どうでもいいだろ、そんなこと」
ミニスは立ち上がり、結界を解除した。
実の所、彼女も限界寸前だった。勇者は仕留めたものの、それを運ぶ力が今の自分にはない。
縫い付けた勇者をそのままにして、ラボリオ達を呼びに行ってしまった。
彼女は知らなかった。その光景を、陰から見ている者がいたことを。
その者は、ミニスが立ち去ったのを確認すると物陰から飛び出し、勇者の元へと駆け寄って行った。
「……無様だな。勇者よ」
丸い瞳が、こちらを見上げてくる。
それはボコの見た目をした、魔王デオ・ゾーラであった。
魔王を倒して15年!幼馴染が独裁者になってしまった……。 江戸野 大卜 @edyforest
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