エピソード2 第十五話
ミニスの攻撃はそこからさらに苛烈になった。
こちらは武器を持っていない上に四対一で、攻撃を捌き切るだけでも精一杯だったのに、彼女は一切手を緩めることなく、逆に攻勢を強めてくる。
「ぐ……っ!」
瓦礫の街を駆けながら、追撃を躱しつつ反撃のチャンスを窺う。しかし、そのような隙は何処にも見当たらない。
ミニスに隙が出来れば他の3人がすぐさまカバーに入り、他の3人に意識を割くとミニスが攻撃してくる。お陰で銃士と
体力には自信があったが、それにも限界を感じ始めてきた。
「はっはー!息が上がってきてるぜ、勇者様よお!」
「こ、の……!」
ラボリオの拳をいなし、投擲された槍を避け、致命傷にならない場所に受けるよう体を反らす。
ほんの1秒にも満たない時間の中で、同時にいくつもの攻撃を捌き切る。
それを幾度となく繰り返してきた。
その間に分かったことといえば、
そして、そちらに意識を割くとすぐさま幾重にも重なった連撃が襲いかかってくる。
(クソっ!このままじゃジリ貧だ……!まず
槍の突きと銃弾を同時に躱す。だが今度は三つ目の、ラボリオの一撃を避けることが出来なかった。
鎖の硬さを伴った一撃が背中に直撃し、瓦礫と化した家屋に回転しながら突っ込む。
「ゲ、ゲホッ……!」
血の塊を吐き出す。これで何度目だろうか?
肉体はすぐさま再生するが、ダメージは着実に蓄積していた。
痛みと、魔力消費から来る疲労。瓦礫の中に横たわった体が、その態勢のままでいて欲しいと懇願している。
もう立ち上るな。このまま寝ていたい。そういった悲鳴を無視し、体に鞭を入れて立ち上がる。
「……?」
ふと、その手の中にある物を見た。
なんてことはない瓦礫の一部だった。立ち上がる時に無意識に掴んでいたのだろう。
そして、あることを閃いた。
「……こんなこと、やりたくねえんだがな」
身体がさらなる悲鳴を上げるが、今更どうってことない。
そして、手に持っていた瓦礫を投げた。
瓦礫はラボリオとミニスの間を通り抜け、背後にあった別の瓦礫の山に直撃して砕けた。
二人は避ける素振りも見せなかったが、これでよい。別に二人を狙ったわけではない。
アステルは、そこら中に散らばった瓦礫を手当たり次第に拾っては、四方八方へと投げまくった。
ぶつかった瓦礫が、破壊された街をさらに破壊していく。
「うお!?」
「アイツ……!」
突然のことでラボリオは面を喰らった。自分の方に飛んでくる
「チッ!」
ミニスがあらぬ方向へと槍を投げた。槍に激突した礫が砕け散る。
「……!そこか!」
再び、同じ方向へと、今度は複数の礫を投げた。
ミニスが飛ぶが間に合わない。再び槍を投擲し、幾つかの礫を粉砕した。残るいくつかの礫が瓦礫の山に当たり砕ける。
ほんの一瞬の防戦。だが、そこに含まれた時間と情報はあまりにも膨大。
ミニスが叩き落した礫が向かっていた先は、何もないはずの空間だった。だが、彼女はわざわざ礫を落とした。恐らくそこに、何か守らなくてはならないものがあったのだろう。
そして二度目の礫で、砕けた礫の破片が不自然な飛び散り方をした。まるで、空中で何かにぶつかったかのように。
アステルはその方向へ一直線に飛んだ。間にミニスが入り、槍を突き出す。
アステルは飛び上がり、その穂先と、彼女の肩を足場にしさらに加速した。
「ひぃ!?」
何もない空間から悲鳴だけが聞こえた。その悲鳴の元に向かって脚を薙ぐ。
「ぼへえ!!!?」
何かが脚に当たった。すると、何もなかったはずの空間が揺れて、黒いローブ姿が現れる。確か、クロープとかいう
クロープは蹴りを受けて瓦礫へと激突した。
姿隠しの魔法。道理で見つからないわけだ。
「クロープ!!」
ラボリオはクロープに駆け寄ろうとするが、さっきまでに比べて明らかに動きが鈍い。
そのラボリオへ向かって瓦礫を投げる。
「撃つな!ジャッカス!」
ミニスが声を張り上げのと同時に、銃声が響いた。瓦礫がラボリオに命中する前に空中で砕け散る。
アステルは銃声の元へと飛ぶ。そして、家屋の壁へと体当たりをかました。
壁をぶち破ると、帽子を被った男がいた。
「な……!?」
帽子の銃士、ジャッカスは咄嗟にアステルへと銃を向けるが、その銃が手の中で砕け散った。
呆然とするジャッカスは、後頭部を殴られ気を失う。
「よし、これでなんとか……!?」
悪寒がして、咄嗟にその場を飛び退いた。
すると轟音と共に、何かが壁を突き破ってきた。さっきまでいた場所に巨大なクレーターが出来ている。その中心には、ミニス。
「おいおい、
ミニスはゆっくりと立ち上り、こちらを睨みながら答えた。
「これは自前だよ、クソ勇者」
「マジかよ……」
どうやら、まだ安心はできないらしい。
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