第8話

 広場で二人から事情を聞いた村長とアルバート侯爵は二人とも拳が震えており、相当の憤慨ぶりだった。


「我がセルヴァーン家の嫡子に手を出そうなど許すまじ行為であります…相応の対処をお願いしますよ村長殿」


「うむ…話を聞く限り頬に傷のある者はエイモス、図体のでかい者はラディー。二人を含めたその集団は村の外れの洞窟に引き篭もっているブルックリンという人物の根拠のないお告げを異常に信じているのです。ですが、ブルックリンの姿を見た者は誰もいないとか…それはそれは宗教のように…私はそんなものめっぽう嫌いですが」


 根拠もなく女王様のお告げを頼りに来ている二人は、ばつが悪く目をそらした。


「で、ですが何上アレンが…」

 アルバート侯爵が溜息をついた。


 アレンはあまりこの事を彼女の前で言いたくなかった。

「あの者たちは私がテリア嬢を村から連れ出そうとしていると誤解していて、聞く耳も持ってくれませんでした。それにテリア嬢に異常に執着していて村から出したくないようだった。あと、…エレノア?という人物がそれを言っていたと──」


 村長ははっとした表情になった。

「あ、そういえばエレノアは最近その宗教にのめり込んでいると親が相談にきていたなぁ。毎日洞窟へ行き、段々生気が奪われるように無気力な人間になってきているらしい。それに…その洞窟は由緒正しき岩戸なのだ。うんと前、まだ地上を神々が暮らしていた頃、日が登る国の王である太陽神が自我を失った白竜に追われていた。やっとの思いで洞窟に辿り着き、白竜をそこに閉じ込めた。だから洞窟には白竜の魂が宿っているのだ。太陽神は死を免れた。しかしその白竜のせいで太陽神様を含む八百萬の神々は天界に昇り、今の人類がある。だからこの洞窟は世界で唯一神様が降りている岩戸なのだよ」


 テリアは首を傾げた。

「お父さん、その話私知らないわよ?というかこんな辺鄙な村にそんな立派な経歴を持ったものがあるなんて…」


 アレンははぁとため息をついた。

「馬鹿らしい。僕はそんな辛気臭い話信じないね、そこにあるのは岩と草くらいだ」


 アルバート侯爵はアレンを横目で見て、咳払いをした。

「今の話をまとめると、私の息子を殺そうとした犯人はその宗教の信者達なのですね…そしてそのブルックリン殿達の公共の場に住み着く行動はこちらとしても無視できない。我国の軽犯罪第4条法に違反します。彼の人らを法で裁くことができます。実はこの法律私が定めたんです」


 父さんはすごい。最後のは余計だったけど自分が立案したものが国の法律になるなんて…僕も将来は政治に携わっていきたい。いちよう北の騎士団もあるが、僕の壊滅的身体能力じゃ無理だろう。


「洞窟で奴らを拘束し、その…犯罪第なんとか条で逮捕してやるわい。我が娘に執着していたならいつ娘に手を出されるか…テリア、この事件が片付くまで絶対に1人で外に出ては行かんぞ」


「え、でも──」

 テリアは納得いかないと言うような目を自身の父に向けた。


「明日、すぐにそのいんちき婆婆の洞窟に行きましょう。テリア嬢は家にいたほうがいいでしょう」

 その後テリアはむくれてそっぽ向き、アルバート侯爵と村長はブルックリンという人物を心いくまで罵っていた。

 村長が情緒的なのは最初の時に知ってたから分かるけどまさか父さんまで言うとは思わず驚いてしまった。自分の息子が危害を与えられそうになったことで怒って言ってるとは思えない。父さんは子供にそんな関心を持っていない。僕や妹達、母さんさえも家の手駒だと思っている。このカルロッタに僕を連れて来た理由も僕が次期セルヴァーン家の領主として力不足だと思ったからだろう。息子を鍛えたいという気持ちもあるだろうが、それも家のため。家族と会うのも一月にあるかどうかだ。武人として、上に立つ者としては相応しいと思うが、その家族からしたら理想のお父さん像とは程遠かった。

 

 今回もきっとそう。『全ては家のため』


 その夜、疲れすぎてアレンは自室に着き、そのまま寝てしまった。だが、早く寝たのは正解だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤髪のテリア つかさ @tsuki_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ