第7話
アレンは今まで来た道を自分の記憶を頼りに戻って行っていった。
しかしその道中、村のある自分と同じくらいの年であろう若者が現れ、ロジャーを見て「いたぞ!」と叫んた。
そして5、6人の若者達がそれを聞いて一斉に近づいてきた。
うぉぉぉぉ!!!
怒号なのか何なのか…?若者達は叫びながらこちらへ来ると一番早く辿り着いた頬に傷のある若者が口を開いた。
「お前!テリアのこと全くと言うほど知らないくせにのこのこと踊りやがって!」
やはりさっきのは怒号であった。
違う若者が近づいてきて言った。
「俺達何年も前から抜け駆けなしだと約束をして今日という日を待ち望んでいたというのに。
ふざけんな!」
僕は父上の言う通りにしただけなのに…
「何か思い違いをしているらしい。私は父上が踊れと言ったからセルヴァーン家の名誉にかけて踊っただけで色恋など何だの興味はない」
1番図体の良い若者が薄気味悪い顔で得意げに言った。
「俺たちは知ってるんだ!お前人気のないところでクレアといたんだろ!」
「え、まあ川で蛍を見てきて帰ってきただけだけど?」
「とぼけんな!俺たちはずっと一緒にいたんだ!よそ者に簡単に渡すかよ!」
何故僕が彼女の事が好きだという前提で話してるんだ。
この人達意味がわからない…
「君達は色々と勘違いしているようだ。まず根本的に好きな人とは選ぶものではなく選ばれるものなのだぞ。だから──私に選ぶ権利はない」
若者達はしばらく口をぽかーんと開けたまま僕を見ていたがお互いに顔を見あわせて言った。
「エレノアが言ってたんだ。お前なんかに取られてたまるかよ。テリアは一生この村で過ごすんだ。この村で生きるんだ。そしてこの村で命尽きるるまでここにいるんだ」
流石にテリアに依存しすぎて背筋がゾッとした。
「エレノア?それは誰だ。それに君達──大丈夫かい?」
「うっせぇ!」
最初の若者が懐にあった剣を抜き出して近づいてきた。
どうしよう…
アレンも懐剣は持っていたが体格も実力も圧倒的に相手が上回っているだろう。
剣術が絶望的なアレンは初めて自分の運動神経の悪さと練習を避け、怠っていた事を後悔した。しかしもう後戻りできなかった。皆が集まっている広場までまだ相当距離感ある。助けを求めようにもこの静寂さを聞けば誰もいないのは分かりきっている。
戦う以外の手段は残されていなかった。
「死ねぇぇぇぇ!」
襲いかかってきた相手に対して小柄なアレンはひょいっとよけた、たまたまだが。
「くそぉっ!」
殺意を向けられ身がたじろいだ。
相手はもう次の攻撃を仕掛けようとしており、よけるにも剣でかわすにももう時間が足りなかった。死んでしまうのか─やだ…まだ、まだしないといけないことがあるのに…
意識が遠のいていった。
「やめなさい!その人は侯爵家の息子よ?傷つけることは勿論、殺すなんてしたらあなたたちなんて死刑よ!その人に何かしたらお父さんと侯爵様に言いつけるんだから!」
テリアの声だった。
そのテリアに依存している若者達は罰が悪そうに引き上げていった。
「危なかったわね。ほんともう少し長く河原にいたらと思うとゾッとするわ」
まだ呆然としていた。ただ、僕は生きていた。そして無傷なことにほっとしてその場にしゃがんでしまった。
「ありがとう…死ぬかも思った」
彼女は僕に手を差し伸べながら言った。
「もう、ほんとに。ひやひやしたわ。あ、…あと見えちゃったんだけど、あなたって剣術がてんで駄目なのね」
テリアのお陰で怪我一つしなかった。
しかし逆にその事実がアレンの心をズキズキと容赦なく突き刺した。
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