第18話 感心した幽霊とそうでない幽霊
これまで神事の合間に立ち寄った心霊スポット(本当に居るのか確認して歩く)に、思い出に残る場所があった。それはC県K市にあるK城址である。別名“U城”とも呼ばれた。お城が出来た後、三日に一度は降ったことが由来らしい。たまたまそれほど遠くない神社で神事があったので、帰り道に寄ってみることにしたのだ。向かったのが夕方であったので暗くなり始めていた…
山に囲まれた暗い道を進んで行ったのだが、お城の近くに着いた頃には辺りが真っ暗になっていた。裏道から入って来てしまったらしく、敷地への入口が見つからない…何処から入ればよいのか検討がつかなかったが、ありがたいことに夜間照明が天守閣を照らしているのが木の隙間から少しだけ見えた場所があり、そこにつながっているであろう細い砂利道の傍らに車をとめ、小さなポケットライトひとつを頼りに真っ暗な道をふたりで歩いて行った…
するとどうであろう、たくさんの白いオーブが飛んできて、ふたりの両側に整列するように並び、先頭のオーブが「こちらです」とでもいうように“案内”してくれたのだ。それはストロボ撮影したデジカメの画面にも写っていた。妻がいうには、年数が立ち過ぎて力もないので人間の姿を取れないらしく、城主の家来たちには間違いないという。親切なはからいのお陰で無事天守閣にたどり着いた…
天守閣は現代になって復元されたので真新しかったが、最上階から城主であろうオーブと側近らしいオーブが見下ろしていたのが確認出来た。ふたりでそちらを見上げてから深くお辞儀をして少し周囲を見渡してからその場を離れた。すると、なんと帰り道もオーブたちは車のある場所まで付き添ってくれたのだ。地縛霊はその土地近辺からは離れられない…今でも城主を守り続けているのだろう。とても礼儀正しいオーブたちに初めて出会った時の感動が今も忘れられない。
そちらに比べると(比較するものでもないのだが)、今思い出してもT都のH城址にはしてやられた…いまだ怨念が残っているのだろうか。あれは穏やかで暖かい休日に訪ねた時だ…山はそんなに高くないのだが観光地なので城跡めざして登る観光客がたくさんいた。そんな中、ほかのグループから少し離れて登り始めて間もない時、まるで観光客がいなくなったのを見計らったようにふたりの周囲に異様な霧がたち始たのだ。そんなに曇ってもいなかったのに何か変だ…“妖怪アンテナ”が働いた。妻が”出た!”と小さく叫ぶ。
その漂う“霧”はそこで戦って殺された家来たちだった。ふたりを囲み威嚇してきたのだ。ちなみに霊には昼も夜も関係ない(昼間寝ているわけではない)。すぐさま九字で跳ね返し、その隙をついて妻に先に車に戻るよう促した。ひやかしに来たわけでもないのに、いきなり威嚇してくるなどお話にならない…
見世物ではないし、他人に見られてもまずい。まわりに観光客が居ないのを確認した後、すぐさま霊を縛る呪文を唱えた。苦しみもがくのが分かる…その霧は“霊霧”と呼ぶものだが、その場で”霧”は薄くなっていく。
恐らく登ってくるふたりを見た時に常人のものではない”気”を感じ取ったのであろう、逆に“怪しい”と判断したのか、それともそんな輩が自分たちのテリトリーに勝手に入ってきたのが面白くなかったのか…どちらにしても単純に”敵”とみなしたのには間違いない。縛り上げた霊たちに向かって事情を説明した。その地で勝ち目のない悲惨な戦いがあり、城に住む女性が子供を道連れに自害し、おおぜいの死者を出し、川が何日も血で染まったと聞いていたこと。それが実際どんな場所で起きたのか自分の眼で確認するために来たことを。
一通り説明した後にその場で自分は帰ることと、生きている人間に危険なことはしないよう伝えた後で解縛して車に戻った。その後は訪ねていないが、悪さは別として、”見た”という者が後を絶たないのは、実際”居る”のだから仕方がない…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます