第16話 能力はあっても無責任な祈祷師

 神様とお付き合いするようになってから身の回りで不思議でありえない現象が数多く起こるようになっただけでなく、神事も増えていった。振り返ればいろいろ有り過ぎて何から説明すればよいものか、こうして書いていても迷ってしまうのだが、理解しがたいだろうことはもちろん、信じろというのがそもそも無理な話を書いているので、真実として読むか、作り話として読むかはおまかせするしかない。こうしていざ文章にまとめようとすると、個々に詳細を書くことがこんなにも難しいものなのか改めて思い知らされる。

 神事を続けてきて、これまでたくさんの神々、精霊、白狐、黒狐、魔物、幽霊、蟲、聖獣、神獣、瑞獣に出会ってきたお陰で、ふたりはそちらの世界で名が知られるようになった…それはさておき、ある日のこと、妻の耳に遠くから助けを呼ぶ声が聞こえた。とても辛そうで悲痛な声だという…妻の頂いた力は方角はもちろん、距離に関係なくテレパシーで動物や植物以外であれば会話が出来る能力。その波動で相手の種類も分かるのだ。妻に聞いたところ“聖獣っぽい”という。声の主に大体の居る場所を聞いたのだが、「暴れ川の下流に封印されている…」で途絶えた。

 神事にもルールがあり、神様からの指示は具体的な趣旨と内容なのだが、神事以外でふたりに助力を願う者の場合は直接会いに来るか、抽象的な表現でしか居場所を伝えられないことになっている。後者の場合は見つけ出して実際に会って話さなければいきさつが分からないのだ。それはふたりに“見える修行”だけではなく、“見えない修行”を積ませることで、頭をより活性化させる目的があるからだ…それからがこちらの担当である。

 神から妻とペアで与えられた力は大雑把にいえば“導き”と“攻防”である。直観とこれまで培ってきた知識が本領発揮を示す時である。まずは最大のヒントは“暴れ川”である。この現代においてほとんどの河川は整備されている。その単語だけで、ある程度大きな川で昔はそう呼ばれたことのある川と推測出来る。さらに“下流”という表現は山よりも海に近いほうであること、それに最大のヒントの単語は“封印”である。そして決定的に答えを導き出した言葉は“聖獣っぽい”という妻のひとこと。

 導き出した答えはこうである…その昔、暴れ川と呼んだのは大抵大きな川の氾濫を意味する。妻には声のする方角は分かっていたため、その川がすぐにT川(昔、暴れ川と呼ばれていたひとつ)に絞ることが出来た。また、川に関係の深い聖獣で封印というからには祈祷師(風水師)も関係してくる。その聖獣とは間違いなく“龍”である。恐らく川づたいに住む当時の人々に頼まれた祈祷師が何とか川の氾濫を鎮めようと龍を呼び寄せたのだろう。龍を呼び寄せる場所といえば大抵は“龍穴”と呼ばれる場所である。平野部の多い地域では大きな川の合流する(ぶつかり合う)場所が龍穴である。さっそく検討した場所のC県K市に向かった…

 T川に掛かる橋の上から妻が眼にした光景は、川の中に苔むした綱でがんじがらめになり、泥色に染まった数百メートルの巨大な“白龍”であった。中州に下りられる道ががあったので白龍の姿が見える土手に車を止めた。白龍は数キロ先からふたりが向かってくるのが見えたという。とても喜んでいたが、挨拶は後回しにしてさっそく“解縛”の呪文でその縄をほどいた…

いきさつを聞いたところ、数百年前に中国の東の方から呼ばれて来たという。願いは一度だけのはずであったが、当時の力のある祈祷師が到着してすぐの白龍を呪縛し、「この暴れ川が氾濫を起こさないようしばらく見て欲しい。数年したら必ず呪縛を解くから」と一方的に約束したが、約束を果たさずにその数年後死んでしまったという。無責任な話だが、当時住んでいた“風の民”(風車を生活に活用していたらしい)と呼ばれていた民がきちんと供物を捧げ祀ってくれていたという。ところが時代が変わるにつれ忘れ去られてしまったという。なんとも悲惨な話である。

 解放後は神様にお願いして“療養”させてもらえることになった。神の手に委ねた後は体力が戻り元気になり次第、多少の修行は必要とするが、“聖獣”から“神獣”にランクアップし、力も増大するのだ。






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