第9話 どうして選ばれし者に…

 さて、こういうお話ばかりでは実に堅苦しい限りである。しかし、神様からの近未来予告であるので軽視は出来ない。恐い感じは一切無かったのだが、ごく普通の平凡な夫婦にとって、接し方がまず慣れていない。(これは他の人間も皆そうだとは思うが…) 初めは正直“疑心暗鬼”状態であったが、人間が「奇跡」と呼んでいる事を何度か見せられれば、それはもう奇跡ではなくなる…現実に変わるのだ。例えれば、目の前にマジシャンが居て凄いことをしてのけるのを見ているのと、対象者が誰もいないのに凄いことを幾度となく見せられるのとでは全く意味が違うわけで、認めざるを得ない状況に追い込まれるのである。

 さて、そんなことがあり、その神様いわく「この地球でやり残した大切な業務(神事・かむごと)は選ばれし人間が行わなければならない」という…

地球は終焉に向けてカウントダウンを始めたという話を聞かされたばかりなのに今さら何を…それも人間にさせるとは。一体どうしてまた何処にでもいるこんな平凡な夫婦が選ばれたのか…気になって他にも誰かいるのかを訊ねると、この地球上でたった二人だけが選ばれたのだという。どのような審査が行われたのか詳細は定かではないのだが、妻の感性と潜在能力、夫の直観と洞察力・行動力が評価の対象にあった…らしい…

 神が刻んだという“モー〇の十戒”なるものは決して難しくはない内容ととれるが、人間はそれさえ守れなかったように完璧な人間になるのはなかなか難しい…

選ばれたからといってこの夫婦に特別な才能があったというわけではないのだ。だが、選んだ理由の中で決して抜かしてはならない重要なことがあるのだと言われたのは、“実在する不可視の存在”を認める意思を持ち合わせているかである。それは世間一般で“不可視の存在”を全く信じない方々に言われるところの「変わり者」とか「頭がおかしい」部類にされてしまう分野といえる。確かにU〇O研究家とか心〇研究家とか呼ばれる方々の中には変わった方もいるが、悪人ではないので大目に見て頂くしかないであろう。たまたまふたりは信じるほうの人種だったのだ。

 さらに驚く話を聞かされた…この次元での人間の選任が終わった時点で平行次元(パラレルワールド)にも同じ人間のコピーを三組用意したという。そしてそれらも同時進行で事を進めていくという。なぜさらに三組追加したのか質問したところ、平行次元は現世に対して三層までしか重ねることが出来ず、それ以上重ねようとすると次元に歪みが生じてしまうと説明を受けた後で、全部で四組用意する理由は「保険」だと言われた。何とも複雑な心境である。四組はそれぞれ皆違う仕事に就いて生活しているが、同じく夫婦であり仕事以外は一緒に行動するという。だが、どの組かが突発的な事故にあったり、病気になったりして亡くなると、事が順調に運ばなくなり支障をきたす恐れが生じるのでそれを回避するためだという。

 “平行次元を造る”話をしたついでなので、神がおこなう業務内容は如何ほどなのかを説明する。ゾーハルの管理者の元で活動している神々はその広範囲ゆえにチームを組み手分けして各宇宙のそれぞれの銀河全体の惑星管理やそこに居住している住人たちからの要望のみならず、不定期に各宇宙に自然発生する“星の卵”が惑星になり落ち着いた後、その星の環境造りまで全てを行うという超多忙な責務をこなしている。各宇宙の何処かで何かあればすぐに駆け付けて処理する。人間には到底計り知れない想像の域を超えた能力である。

 さて、話は戻り…人間の老人を装った神が現れてから1年ほど経ったある冬の夜、「そろそろ修行に入るか?」と前置きもなく言われる。夫婦はお互い目を合わせ、ある程度親しくなった(と勝手に思っていた)神様に対して、つい「ハァアー!?」と応えた。その態度に当然ふたりは𠮟責された。

「これからは大事な神事に携わってもらわねばならないので、まずは日本式でいう清めの儀式“禊(みそぎ)”をしてもらうか、いつにする?出来れば近いうちに深夜、誰にも見られないような場所を選び滝に打たれてきなさい!」と信じられない内容をいとも簡単に言われた。それは忘れもしない12月の寒い夜だった。子供はいないものの、共働きでそれなりに疲れて帰ってくる日々、これが何処にでもいる普通の夫婦に起こる降って湧いたような 波乱の幕開けである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る