第6話 神の努力

 「努力」は人間だけに課せられたものではない。これまで神は人間に対して少しも惜しむことなく計り知れない未知数の努力を重ねてきた。全ては人間の素晴らしい進化と未来を期待してのことである。人間の指導に当たってきた神々は、全く知識も技術も無かった人間にあらゆる基礎知識を手取り足取り教えて与えてきたのである。

 その知識がヒントになり、自ら応用を利かせて発展していくことを望んでいたからである。地面の石から狩猟のための道具である石斧や槍を作る技法、土を焼いて食器を作る方法、川をせき止め魚を追い込む漁、自然界に存在する動植物の毒についてその解毒や対処法、病気になった場合の薬となる薬草・鉱物・動物性の製法から処方、金属などを鉱物から抽出して加工し道具を作るたたら製鉄の技法、水路を確保して野菜や米を種から栽培して収穫する農業、海で漁をするための舟の造船技術、衣服や靴の縫製の仕方、家の建築手法などなど数えたらキリがないほどのヒントになる知恵を進化をみながら与えてきたのである。

 当時の人間たちはそれらの指導されたことを真剣に素直にそして確実に習得していったという。そして基礎をしっかり身に着け終わった頃を見計らい神々は人間から離れ距離を置き見守ることにしたのだ。それ以上は研究の為にならず、いわゆる経過観察に切り替えたのである。当然ながら神々は人間に対する期待を抱いてその場を去って行った。当時の人間たちからは惜しまれながら別れたのである。

 恩人であった指導者たちを同じ人間として尊敬し敬っていた人々は、その恩を生涯忘れてはならないと社を建て、その指導者の名を刻んだ石碑や姿を描いた彫刻などを祀り、毎年採れた収穫物を捧げるようになった。あくまで人間と思っていた者を祀ったことがそもそもの「神」崇拝の起源になったということだ。

 ある程度進化が進んだ人間は、基礎技術から応用技術を生み出し、さらに技術と知識を磨いていったのである。だが、文明を築く頃には神が望んだ人間の姿は少しづつ軌道から外れていくことになる。

 夫婦にとってこの神様に聞かされる話題はどれも始めて聞くことばかりで、驚かされるばかり。妻に聞くと話しながら杖になっている“アーモンドの実”を時々口に含むという…確かモーゼの兄のアロンが神様から与えられていた通称“アロンの杖”もアーモンドの花が咲き、実を結んだというから、神様の所持する杖は“非常食”対応かも知れない…などとくだらないことを言っている場合ではないのだ。

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