二十話 ーーー

ネックレスを手に取ると、わたしは小さく笑った。


死に戻る前にも、第二王子から送られたプレゼントね。

まぁ、選んだのは第二王子ではないのだろうけど。


「本当に美しいですね」


「そうね」


こんなもの、わたしには何の価値もないわ……。


「大切な物だから、前に頂いたブレスレットと同じ所へしまっておいて」


「わかりました」


「そうだわ、アーニャ」


「はい」


アーニャがわたしに視線を向けたので、わたしは微笑んだ。


「アランとアラクがわたしの身の回りのことを手伝ってくれるから、これからはしっかり休みを取ってね。今まで十分な休みが取れなくて、デートも満足にできなかったでしょう? ごめんなさいね」


「ハルティアお嬢様……ありがとうございます」


「トラス・カーシュさんとはうまくいっているようね」


わたしの言葉に、アーニャはうっすらと頬を染め恥ずかしそうに笑う。


「大切なアーニャが幸せそうで、わたしは嬉しいわ。彼の手を離しては駄目よ」


「はい」


えぇ、絶対に離さないでね。


「お風呂の準備をお願いね」


「はい」


アーニャがお風呂の準備のために部屋から出て行くのを見送ると、わたしは第二王子から贈られたネックレスを取り出した。

そして、そのままネックレスを床に落とし、足でチェーンの部分を踏みつけた。

何度か踏みつけたネックレスを拾い、チェーンの部分を確認する。


「あら、チェーンが切れちゃったわ。ふふふっ」


一月後に王家主催のパーティがある。

二回目の死に戻りまでは、パーティには第二王子から贈られたブレスレットとネックレスを着けて出席した。

でも、パーティの途中でネックレスのチェーンが切れてしまうという問題が起きた。


王族からの贈り物が、そう簡単に壊れるはずがない。

そう周りに思われたため、わたしは王家からも家族からも叱責された。


「理不尽よね。わたしのせいではないのに。三回目の死に戻りからはブレスレットだけ着けて出席したんだったわね」


それにしても、わたしが踏んだ程度でチェーンが切れるなんて、あり得ないわよね。

どこの誰が、こんな不良品をわたしに送りつけてきたのかしら。


どうせ第二王子は指示を出しただけで関わっていない。

という事は、第二王子の側近の誰かという事になるわね。


手に持っていたネックレスをしまうと、ソファに座り、目を閉じる。


今回と前回までの死に戻りでは、第二王子の側近たちとある程度交流していた。

まぁ、第二王子がわたしを疎かにするので、彼らの態度も侯爵令嬢にしていいものではなかったけれど。


「そういえば、側近の一人とアリアリス・チャス伯爵令嬢は幼馴染同士だったわね」


もしかしたらアリアリス・チャス伯爵令嬢が関わっているのかしら?

まぁ、今回はもう壊れてしまったから、パーティで壊れることはないわね。


「明日、アーニャにネックレスを直すよう言わないといけないわね」


コンコンコン。


「ハルティアお嬢様。準備ができました」


「ありがとう」



「「「ハルティアお嬢様、おはようございます」」」


朝の準備を終えると、部屋にアラン、アラク、ガルスが来る。


「おはよう。今日もお願いね」


「「「はい」」」


アランとアラクはわたしの朝食の準備状況を確認しに行き、ガルスはわたしから少し離れた場所に立った。


「アーニャ」


「はい」


「第二王子から贈られたネックレスを修理に出しておいて」


「えっ? 修理ですか?」


「そうよ。あの後、見てみたらチェーンの部分に問題があったの」


「わかりました」


アーニャは急いでネックレスを取り出すと、小さく息を呑んだ。


「修理はどこへ出しましょうか?」


「チョルトへお願い」


王家から贈られる装飾品は全てチョルトから購入される。

もし例外があるとしたら、それは問題になる。


「わかりました。朝食が終わりましたら、行ってまいります」


「お願いね」


アーニャはわたしを見て深く頷いた。


離れの食堂に入ると、今日から働くことになっている侍女と侍従がいた。

それをチラッと見ると、声を掛けることなく椅子に座る。


ティナスが、わたしの反応に一瞬、嫌悪の色を見せた。

すぐに表情を取り繕うと、わたしのそばに静かに近づいた。


「ハルティアお嬢様。今日から仕事をする彼らにお声をおかけください」


「なぜ?」


「えっ?」


「わたしは、彼らがここで待っているという連絡は受けていない」


「それは……」


「ティナス、連絡はどうしたの? まさか、わたしには必要ないと思っていたのかしら」


「いえ、違います。申し訳ありません。準備があり、連絡を忘れてしまいました」


噓つき。

わたしだから、必要ないと判断したんでしょう?


「そう」


アランとアラクが持ってきてくれた朝食をゆっくりと食べ始めると、ティナスの手がギュッと握りしめられた。


「あいさつはあとでいいわ。ゆっくり朝食を楽しみたいから、出て行って」


侍女と侍従に視線を向ける。

彼らは、微かに驚いた表情をしたあと、わたしを睨むように食堂から出て行った。


その様子を見ていたアランとアラクが険しい表情を浮かべる。


朝食を食べ終わると、ティナスがそっとわたしに近づく。


「ハルティアお嬢様。今日から働く者たちに声を掛けていただけますでしょうか?」


「わかったわ。どこ?」


「玄関におります」


椅子から立ち上がると玄関へ向かう。

玄関には、先ほどわたしを睨みつけた者たちが、とりあえず感情を抑えて並んでいた。

彼らの前に立ち、順番に見渡す。


「今日からよろしくね。この離れは、わたしが管理していることを忘れないように」


「「「「「はい」」」」」


全員、反抗的な視線ね。

それは、そうよね。

あなたたちの大切な家族を助けてくれているティナスをわたしが疎かにしたから。


まぁ、真実を知った時に、あなたたちはどうするのかしらね。

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わたしを殺した者たちへ やぁみ @honobono55

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