今日も幼馴染の水着姿を眺めたい!~バレンタイン短編~

綾乃姫音真

バレンタインの日の同好会

 高校の屋内プール。競泳水着に着替えた4人の女子がプールサイドに並んでいる。


一樹かずきくん。私のチョコ食べていいですよ?」


 正座して肉付き豊かな太ももに一口サイズのミルクチョコを置いている幼馴染。確実に手作り。


「兄さん、わたしのを選んでくれるわね?」


 女の子座りして、大きく実った胸の膨らみにナッツ入りチョコを乗せている義妹。これも確実に手作り。


「一樹さん、どうぞ」


 体育座りして、差し出した右の手の平にチョコクッキーを乗せている後輩。これも手作りの可能性あり。


「あはは……先輩も大変ですね!」


 なんて笑っている百合っ娘は、親指と人差し指で市販の一口チョコを摘んでいる。


「兄さんは、誰のチョコから食べるのかしら? ちゃんと口で直接受け取ること」


 どうしてこうなった? 毎度のことながら、俺にはよくわからなかった。



――――――――

   


 今日も今日とて高校の屋内プールに来ていた。本来なら俺は自由登校期間で、春からの大学生活に備えなきゃいけないはずなんだけどなぁ……結局、バイトと同好会で終わってしまいそうだ。


「一樹くん」


 百合っ娘から逃げ回る義妹を眺めながらプールサイドに座っていると、幼馴染が声をかけてきた。赤を基調として黄色ラインの入ったミドルカットの競泳水着を身に着けている小田氏姫おだうじひめが俺を見下ろしている。


 肩にかかる長さの髪がサラサラだし水着も濡れてない。着替えを済ませてそのまま俺のところに来たっぽいな。肩紐にスイムキャップを挟んでるけど、被ってるのを見たことない気がする。


 両手を膝について前かがみになってる体勢のせいで、腕に挟まれた胸が強調されていることに本人が気づいているのかいないのか。ちなみにどこかの百合っ娘と義妹に本人曰くCカップ。


 プールサイドを逃げ回ってる義妹なら確実にわざとだと断言できるんだが、氏姫の場合は……大抵はわざとだけど、時折天然を挟むせいでわからないことがある。今日はそのパターンだった。だから触れないでおく。


「隣いいですか?」


「ああ」


 どうした? 普段は確認なんてしないで隣に座るくせに。なんか様子が変だ。つい氏姫の表情を窺ってしまうが……不機嫌ではないな。


「別に嫌なことがあったとかじゃないですよ。怒ってもないです」


 俺の視線を敏感に察して言葉にしてくる氏姫。


「珍しく遅れて来たけど」


「それは、まぁ……」


 氏姫が言葉を濁すってことは、よっぽど言いづらいんだなと思う。幼馴染は俺の視線を誘導するように手を動かして、正座している脚に着地。肉付きの良い太ももを撫でている。これは確実にわざとだった。意味は、膝枕どうですか? だ。


「よいしょっと」


 遠慮なく膝枕されにいく。後頭部に太ももの弾力を感じつつ、目の前には人並みの双丘。天国だった。


「こんにちは」


 膝枕状態の俺たちにツッコミを入れることなく話しかけてきたのは深緑色に黄緑ラインが入った競泳水着を着ている羽山未空はやまみくだ。俺に視界には逆さまになって見下ろしてくる彼女が映っている。ようするに、正座する氏姫の隣に立ってこっちを向いてるんだが……足を閉じろや。何故肩幅に開く。


 他人の視線に敏感なくせに、変に無防備だよな……これで制服姿だと1番ガードが固くなるんだからよくわからない。氏姫たちがワンピースタイプの競泳水着なのに、ひとりだけ膝近くまで覆うスパッツタイプだから油断してるのだろうか?


 お尻の食い込みも基本放置だし……スパッツはスパッツで、代わりに線がキレイに出るからハミ尻とは違うエロさがあるってことを知ってほしい。いや、どっかの幼馴染とか義妹みたいにわざと俺に見せつけるようにして食い込みを直されるのも嫌だな……。


 目線をずらしたところで、目に入るのは同好会で2番目に大きい胸の膨らみ。その向こうに顔が見え、俺と氏姫を見下ろしている。シャワー浴びる前からスイムキャップを被るところとかは生真面目さが出てるよな。ふたつのお団子がケモミミみたいに膨らんでいた。


「きゃあ!?」


 響き渡ったのは義妹である二葉ふたばの悲鳴だった。見なくてもわかる、百合っ娘こと雪路ゆきじゆきに捕まったんだろう。


「おっぱい確保ーっ!」


 おっぱい呼ばわりされている二葉が可哀想になるなんてこともない。どうせいつものことだし。


「揉まれてますねぇ」


「あれ、水着の中に手を入れられてますよね」


 氏姫と羽山の言葉で見なくても状況がわかる。ふたりとも自分じゃなくてよかったと安堵してるのがまるわかりだった。別に冷たいとは思わない。今回がたまたま二葉だっただけだし……そもそも、この後同じ目に遭う可能性が高いのを察してため息まで吐いている。


「Eカップは揉み応えあるよねー!」


「うっさいAカップ!」


 あいつら……この場に男がいることをもう少し意識して欲しい。


坂口さかぐちちゃんのおっぱいはあたしが育ててあげる! じゃないと、Dカップの羽山ちゃんに追いつかれちゃうよ?」


「未空のバストサイズを口に出す意味がわからないです……」


「ほんとにな……」


 俺が同好会の女子たちのサイズを把握してるのも意味わからん。


 全員が揃って、これから同好会としての活動が始まるのに膝枕されてるのも問題か。身体を起こすことにする。


「あ、兄さんたち全員揃ってる……んんっ」


 俺の視界に二葉と雪路が映ったタイミングで義妹の身体が不自然に跳ねたのは見なかったことにしておく。変な声も聞いてない。氏姫の意味深な視線もスルー。


「ほんとだ」


 俺たちに気づいた雪路が二葉を解放する。ふたりはそのままこっちへ歩い来るんだが……あのふたりが並ぶと、嫌でも気になる。なにがって、二葉の水着が。


 青を基調とした白ラインの入った派手目な競泳水着を身に着けている二葉と、シンプルな黒色競泳水着の雪路。ハイカットの二葉とローカットの雪路。その差がよくわかる。兄としては、義妹の水着がハイレグなのに関してどう思えばいいのか。


 出るところが出て、髪も背中に届くくらいの長さがある二葉。小柄で童顔、ボーイッシュな雰囲気もある雪路が並んでると、結構いい感じに見えなくもない。


「兄さん、今日ってバレンタインでしょ?」


「そういやそうだな」


 完全に頭から抜けていた。あ、氏姫の様子がおかしかったのはそういうことか。


「ちゃんとチョコあげるわね」


 二葉の言葉をキッカケに、プールサイドに置いてあった私物から箱や袋を取り出す4人。


「私もありますよ」


「義理チョコですけど、未空もあります」


「あたしもあります! 義理だけど!」 


 わざわざ義理だと宣言する羽山と雪路。正直、ありがたい。俺も受け取りやすくなるし、なにより氏姫の機嫌が悪くならずに済む。幼馴染が渡してくるの……完全に本命だもんな……というか今年も幼馴染として貰うことになってしまった……。


 来年こそは彼女として貰えるように頑張りたい――なんか去年も同じことを思ってた気がする。


「そうだ、いいこと思いついた。せっかくだから兄さんに誰のから受け取るか選んでもらわない?」


「二葉ちゃん、それなら直接食べてもらうのはどうですか?」


「いいわね」


 なんだ? 急に雲行きが怪しくなったぞ? 嫌な予感がしつつ見守っていると、まず二葉が箱を開けてチョコをひとつ取り出して、プールサイドに女の子座りした。


 なにをする気だ? と思ってる俺に見せつけるようにして、ナッツ入りに見えるチョコを自分の胸に乗せる義妹。


「それはズルいです。胸が大きくないとできないじゃないですか!」


 氏姫、怒るのそこじゃねーよ!


「姫姉さんにも武器あるじゃない」


「……一応、コンプレックスなんですよ? 脚とお尻」


「コンプレックスだけど、兄さんが太ももとお尻フェチで好みに当て嵌まってるから複雑なのよね?」


「解説しないでください!」


 と文句を言いつつも、二葉の隣に移動して改めて正座。その太ももにチョコを置く氏姫だった。こっちはシンプルなミルクチョコっぽい。ただ、よく見ると形が歪だから手作りだな……。


「未空たちもですよね?」


「だろうねー」


 まず羽山が氏姫の隣で体育座りして、手の平にチョコクッキーを乗せて差し出してきた。間を置かずに雪路が片膝を立てて座ると、指でチョコを摘んで持ち上がる。前者は手作りの可能性あり。後者は確実に市販チョコだ。馴染みのあるパッケージだったし。


 つうか羽山さん? あなた男嫌いを公言してますよね? まぁ、男嫌いは本当なんだろうけど……克服しようとして俺を利用してる節があるよな……。


 雪路は単に面白がってるだけだ。


「兄さん、ちゃんと口で受け取ってね」


「は?」


 本気で言ってる? いや、雪路はいいさ。ちょっとした罰ゲームみたいな空気になるだけだろうし、似たようなことしたことあるからな。ある意味では慣れてるレベルだ。羽山もギリ。義妹と幼馴染がアウトなんよ……。


 氏姫に関しては、絵面がアウト。傍から見たら、歳下の幼馴染の太ももを舐めてるようにしかみえない。俺は犬か!


 二葉はコメントするのも嫌だ。なにが悲しくて義妹の胸に乗ってるチョコを啄まないとならないのか。高確率で事故るわ! というか、二葉が事故らせてくる。コイツはタイミングを見計らって俺の頭を胸に抱きかかえるくらいは平気でやってくる信頼がある。


 氏姫なら事故っても笑い話になるかもしれないけど、二葉はアウトだろ……その後は確実に氏姫の機嫌まで悪くなるし、座るんじゃなくて寝れば胸に乗せられるかもとか言い出しかねない……というか、お尻ならいけます! とか言い出すよな……。


 ただ、この同好会で1年近く活動してるわけで……こういう流れになってしまったからには、俺が行動するまで終わらないのもわかってる。


「一樹くん。私のチョコ食べていいですよ?」


「兄さん、わたしのを選んでくれるわね?」


「一樹さん、どうぞ」


「あはは……先輩も大変ですね!」


 取り敢えず、二葉は無しだ。絵面的に無難なのは雪路。内心ではそんな風に考えているが、俺の中で答えは最初から決まっている。


「じゃあ氏姫で」


 やっぱ、好きな相手からのチョコを最初に選びたいし……な。


「私ですか」


 意外そうな風を装っているけど、喜んでいるのが長い付き合いでわかる。俺はそんな幼馴染の前に移動して、膝をつく。四つん這いになるような形で、口を太ももに乗っているチョコに寄せていく。


 うわ、氏姫のいい匂いがする……シャワーもまだ浴びてないもんな……そりゃそうか。これ、さっさと終わらせないとヤバいかもしれない。それでいて、間違って太ももを舐めたりしないように細心の注意を払って――


「氏姫、脚をモジモジさせるのやめてくれ」


 チョコが動いて狙いがつけづらい……。氏姫も氏姫で、どうしてチョコを身体寄りの絶妙な位置に置いたのか。もう少し膝側なら気楽だったのに。


「姫姉さん、自分が競泳水着姿なのを意識して恥ずかしくなってるでしょ。少しでも脚を開くと際どいもんね」


 二葉! 余計なこと言うなや! せっかく考えないようにしてたのに! つい視線をチョコからズラしてしまった。肌綺麗だよなぁ、氏姫――って違う違う! 競泳水着と素肌の境目から目を背けつつチョコに集中する。


 ゆっくり、慎重に唇で挟んで離脱!


「ふぅ……」


 特に事故が起きなかったことに安堵する。


「一樹くん」


 無事終わったのに、妙に不安げな表情を向けてくる氏姫。あ、そっかチョコの感想か。本人が甘いモノそこまで得意じゃないのに作ったから気になるのか。


「美味しいよ。俺好みの甘さでちょうどいい」


「ほっ、よかったです」


 氏姫が残りのチョコが入った箱を渡してくる。ありがたく受け取れば終わり――


「まぁ姫姉さんを選ぶよね。わかってたけど」


「ですよね」


「だよねー」


 ニヤニヤしながら頷き合う二葉、羽山、雪路の3人。


「じゃあ次は、わたしたちがチョコを乗せる場所を指定するわね」


「「え?」」


 二葉の発言に、見事同じ反応を返す俺と氏姫。


「わたしが指定するのは――」


「待った!」「待ってください!」


 さっさと進めようとする二葉を慌てて止める俺たち。たぶん気持ちは同じはず!


「二葉ちゃんは絶対に難易度高い場所を指定するので、ゆきちゃんからにしてください」


 ちげーよ! やること自体は賛成なのかよ氏姫! ……冷静に考えれば、そうか……俺の幼馴染はそういうタイプだったわ……。嫉妬すると平気で胸を押し付けてくるようなヤツだった。


「あたし? そうだなー……おヘソ!」


「わかりました」


 素直に従い、仰向けになるとオヘソの位置にチョコを乗せる氏姫。そんな幼馴染を黙って見下ろす俺と、それはもう楽しそうな残り3人の図。


 ……こんなのさっさと終わらせるに限る。余計なことを考える前に、四つん這いになりさっさとチョコを啄んだ。太ももより気が楽だった。


「未空が指定するのは、お尻です」


 羽山ぁああ!! 


「お尻は流石に恥ずかしいですね……」


 なんて言いつつも、身体を反転させてうつ伏せになる氏姫。それを確認した二葉が、氏姫のお尻に食い込んでいた水着を直すと丁寧にチョコを置く。……氏姫、コンプレックスに思うレベルで肉付きいいから直しても若干ハミ出てるのよ……意識するな俺!


 そして打ち合わせもなく呼吸の合っているふたりに頭が痛くなる。いや、俺と氏姫が幼馴染なら、二葉と氏姫も幼馴染な訳で不思議じゃないんだけどさ……むしろ、同性の分お互いを理解しているかもしれない。


「「「「……」」」」


 氏姫はもちろん、他3人の女子陣も俺の行動を待ってるのがわかる。地味に逃げた場合の方が状況が悪化する未来が視えてしまうのが怖くて仕方がない。


「氏姫、動くなよ? 頼むからな」


 間違っても唇が水着越しとはいえ、氏姫のお尻に触れないように気をつける。ゆっくり慎重に競泳水着1枚しか身に着けていない幼馴染のお尻に顔を近づけていく。ある意味3度目で助かったかもしれない。初回だったら緊張で距離感を誤って事故ってた気がしてならない。


 いざ実食って段階で、思わず大きく息を吐いてしまった。吐息がくすぐったかったのか、目の前で揺れる氏姫のお尻。動揺することなく、余計な場所に触れずにチョコを取ることに成功した俺を褒めまくりたい。


「最後はわたしね……シンプルに『あーん』はどう?」


「いいですね」


 素直に頷く氏姫。


「ちょ、お尻って言った未空が変態みたいじゃないですか!」


 悪い羽山。今回に関しては擁護できんわ。


「はい一樹くん、あーん」


「あー――っ!?」


 てっきり口内にチョコを放り込まれるだけだと思っていたから、指ごと侵入してきて驚いた。反射的に舌を動かさなかった俺は偉いと思う。


「……」


 チョコを放さずに俺を見ている氏姫。つまりあれか? 自分で舌を使って回収しろと? 俺の考えてることがわかってるのか静かに頷く氏姫。


 ったく、遠慮なくチョコを貰うことにした。当然、舌が氏姫の細い指先に触れる結果になるが、コレまでの場所に比べれば断然健全だ。そう納得することにする。


 じゃないと――自分でやっておきながら頬を朱に染めてる氏姫みたいになりそうだからな……。


 こうして今年のバレンタインは終わ――らないんだよなぁ……同好会としての活動はこれからなのよ。まだ水着に着替えただけでシャワーすら浴びてない。今日も楽しいけど、長く感じる時間の始まりの訳だ。


 ちなみに、4人からもらったチョコはしっかりと味わって食べた。お返し、ちゃんとしないとな……。

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