第8話 FF7

「おい、お前なにしとんねん」

 と急に誰かがぼくの頭を殴った。


 振り向くと、そこにはギャルがいた。

 世界で一番可愛らいいギャルである。


「どちらさんでしょうか?」

 とぼくは尋ねた。


「一ヶ月以上もココに来てへんから、私のこと忘れてるやん」

 とギャルが言う。


 ココ、というのは北花田のダイヤモンドシティーの4階にあるベンチである。

 ぼくは塾に行くまでの時間をココで潰していた。


「カネコ」とギャルが言った。


「カネコさんっておっしゃるんですか?」

 とぼくは尋ねた。


「殺すぞ」とギャルがキレている。


 カネコさんはぼくの時間潰しに、なぜか付き合ってくれる謎のギャルである。


「ほんで、なんで一ヶ月もココに来うへんかったん?」

 とカネコさんが尋ねた。


「マテリアを探してました。ぞくせいのマテリアがほしくてほしくて堪らんかったんです」


「ちょっとタイム。マテリアってなんやの?」


「知らんの? ファイファン」

 とぼくは言った。

「ファイナルファンタジー7の続きが出たんやで。そりゃあ、やるやろう。マテリア探すやろう」


「へーーー」

 と興味なさげにカネコさんが呟いた。


「カネコさんってゲームせいへんの? 興味ないん?」

 とぼくが尋ねる。


「ゲームするために、私との待ち合わせを一ヶ月もすっぽかしたん?」


「待ち合わせなんてしてへんやん」


「私、毎日来てたんやけど」

 とカネコさんが言った。


 カネコさんが怒っているような、悲しんでいるような顔をしている。

 ようやく申し訳ない気持ちになって、「ごめん」と呟いた。


「別にええよ。待ち合わせもしてへんかったし、私達付き合ってる訳でもないし、私が勝手に待ってただけやもん」


「ごめん」とぼくが言う。


「だから、もうええって」


「カネコさんが、毎日ココに来てくれてたなんて知らんかってん」

 とぼくが言う。


「もうええって」

 と彼女が言う。


 あっ、とぼくは思う。

 このまま謝るだけやったら、またぼく達の関係は切れてしまう。

 また彼女と喋る事が無くなってしまう。

 彼女はギャルで、ぼくは一般生徒。

 学校ではぼく達には大きな壁があって、喋りかけることもできない。


「カネコさん」

 とぼくは彼女を呼ぶ。


 彼女は鋭い目でぼくを睨む。

 

 なにかを言わなければ、……そう思って頭の中がグルグルと回転する。


「ぼく、カネコさんの事が好きやで」

 とぼくは言った。

 もう縁が切れるのが嫌だと思って、好きだと伝えた。


「なに言ってんの? アンタ」

 とカネコさんが言って、顔を真っ赤にしてる。


「ホンマにめっちゃ好き」

 とぼくが言う。


「めっちゃグイグイ来るやん。どないしてん?」

 とカネコさんが顔を真っ赤にして言う。


「いや、このままやったらカネコさんとの縁が切れるんじゃないかって思って。もしカネコさんとの縁が切れるんやったらファイナルファンタジーを恨んでしまう」


「そこは自分を恨めよ。普通にゲームしてるから来られへんって私に言えばよかったやん」


「その手があるとは思ってなかった。そもそもカネコさんがぼくに会うために毎日ココに通ってるとは思ってへんかった」


「アンタに会うためちゃうわ」とカネコさんがキレている。


「よかった。ぼくに会うためちゃうかったんか。それじゃあ後ろめたい気持ちにならんでもええな」

 とぼくが言う。


「殺すぞ」

 とカネコさんがキレている。


「えっ、なんで殺されなアカンの?」


「アンタに会うために、毎日ココに来てたに決まってるやん」

 とカネコさんが言った。

「私も好きやねん」

 と彼女が言った。


 私も好きやねん。

 誰が?

 何を?

 それはラブ?

 それはライク?


 ホゲー、としてぼくはカネコさんを見つめた。


「なんか言えよ」

 とカネコさんが言った。


「なんか」

 とぼくが言う。


 カネコさんがぼくの頭を殴る。

「なんかを言え、って言ってるわけちゃうわボケ」


「ほんじゃあ何を言えばいいん?」

 とぼくは尋ねた。


「付き合ってくれませんか? とかちゃう」

 とカネコさんが言う。


「付き合ってくれるの?」

 とぼくは尋ねた。


「ええよ」

 とカネコさんが言う。


「付き合うってアレやで。本を買いに行くの付き合って、とかじゃなくて、男女として恋仲になって、のちにエッチする関係の事を言ってんねんで」


「のちにエッチする関係、は言わんでよかったな」

 とカネコさん。


「嘘嘘。プラトニックでええ。彼女になってくれるってこと?」


「そう言ってるやん」

 とカネコさんが言った。


「ほんじゃあぼくは、カネコさんの彼氏ってことか?」


「そうなるわな」

 とカネコさんが言う。


 彼女がぼくの脇腹をつねった。


「痛っ」とぼくが叫ぶ。

 

 カネコさんは顔を真っ赤にして、ニヤニヤと笑った。


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クラスで一番可愛いギャルとのアソコ お小遣い月3万 @kikakutujimoto

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