第3話 最終話
それでは蠟人形のように瞬き一つせずに、氷付くような冷たい表情の美男美女カップルは何者なのか?
実は…この2人を語るには江戸時代にさかのぼらなくてはならない。
旗本の娘だったハナは非常に美しい娘。だが、ハナには許嫁がいた。同じく旗本の息子佐助という男だ。
だが、ある時ハナの余りの美しさに大奥総取締役、旭局(あさひのつぼね)の目に留まり大奥に奉公に上がる事となってしまった。
ハナは早速、お目見え(将軍と御台所に面会できる身分)が叶い、なんと……将軍家忠のお手付きとなってしまった。
大奥にご奉公となったお目見え以上は一生御奉公となるので、大奥から帰郷が許されるのは盆と正月の2日だけ。
これでは愛しい男佐助とどうして会えようか……
だが、運の良い事に、佐助の父上様が大奥内で御留守居という要職であった事から、佐助も父の名代として留守居を任される事が多々あった。
※留守居:将軍が戦などで江戸城を不在にする際に、江戸城と城下を預かる臨時の役目だったが、町奉行や大目付などの旗本が任命される名誉職で、大奥の取り締まりなどを行うようになった。旗本ながら5万石ぐらいの大名の待遇であった。
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大奥勤めが許された佐助は悪い事とは知りながら、恋心を抑えることが出来ずこっそり誰もいない大奥の蔵でハナと逢瀬を繰り返した。愛と言うものは、引き裂かれれば引き裂かれるほど燃え上がるもの。
だが、監視の目が光る大奥で早速旭局の耳に入り、即刻将軍家忠の知る事となる。
これに激怒した家忠はハナに「はりつけ」の刑を言い渡した。十字架にはりつけられて左右の脇腹から槍で何度も突いて、ヘビの生殺し状態でたっぷり時間を掛けて、生き地獄を味合わせて絶命させられた。
こんなにも残虐な「はりつけ」刑を執行しておきながらハナの事が忘れられない家忠は、死んだ愛しいハナに会いに行けるように、死者の面影を残す目的で蠟人形(デスマスク)を作り寺院に飾った。
一方の佐助だが、当然不貞を働いた佐助には極刑が言い渡された。「市中引き回しのうえはりつけ獄門」とは、「市中引き回し」された罪人が「はりつけ」に処され、さらに獄門(晒し首)にされる極刑。
佐助の死体は見る影もなく腕や足は無残にちぎれ落ち、更には晒し首になり3日間(2晩)見せしめとして晒しものにされた。その顔は恐怖と苦しみで歪み目が血走りこの世の終わりを悟った断末魔の形相だった
佐助とハナが無残極まりない死を遂げてからというもの大奥では、恐ろしい事件が多発していた。
ヨーロッパでは人形を使った呪いは一般的であったが、蝋人形や粘土人形は古くから呪いの道具として使われている。
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ハナの事などすっかり忘れた将軍家忠は、今は若く美しい大奥の着飾った華々に囲まれ愛欲の日々に溺れている。
いつもと変わらぬ大奥の日常が繰り広げられていたのだが、忘れ去られた筈のハナが夜になると床入りの最中の天井を恨めしそうに飛び回っていると言うのだ。それも御目通りが叶った側室や女中と床入りする時間に、その上を恨めしそうに飛び回っているのだとか……。
異変に気付いた家来が、余りの不気味さに蠟人形のハナを切り落とすが、今度は蠟人形が燃え上がって大火になり、大奥の大半が焼き尽くされる事件が起こった。
大火に見舞われた蠟人形のハナは、あれだけ美しかった髪は抜け落ち縮み上り、顔はどす黒く炎で溶け落ち、蝋が溶けて顔には醜いこぶが出来、天然痘のように顔中ウジ虫が這いずり回ったようにぶつぶつになり、蠟が溶けた事で片目が潰れて涙が流れているような姿になってしまった。更には声はまるで狼のような声で「ウオオ———ッ❕」と叫びながら天井から見下ろしていると言う。
余りの怖さと醜さに気絶する者も現れた。到底この世の者とは思えない醜い顔で床入りの様子を伺っているのだと言う。
何故このような事件が多発するのか?
それは…佐助とハナの恋愛成就出来なかった無念と悲しみが、怨霊となって現れたのだった。
「ギャギャ———ッ!ワァワァ~~~!あっ熱いタタ助けてくれ—————ッ!」
こうして…家忠は大火の犠牲となり逃げ遅れ命を落としてしまった。
「よくも……あんなにも愛していた佐助との愛を引き裂き……もっとも残酷な極刑で長~く苦しめ生き地獄を味合わせて殺してくれたなぁ!そして…自分は次から次へと女をはべらせ愛欲の日々を送りやがって……この強欲メが——ッ!許せぬ!許せぬ!許せぬ!」
将軍家忠が断末魔の死を遂げた事で蠟人形のハナは燃え尽き、やっと成仏できた。
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恋愛成就出来なかった2人だったが、昔は非常に楽しみの少なかった時代だ。そんな庶民の生活の中で、唯一おとぎ話に描かれる浦島太郎が大好きだった佐助とハナ。
「今世では実を結ぶ事は出来なかったが、来世では浦島太郎が辿り着いた竜宮城で2人幸せに暮らしたいね💛」
「来世では絶対に竜宮城で幸せになろうね!」
東京都品川区南大井は、佐助とハナが「はりつけ」の刑で無念の死を遂げた場所だったが、何という運命なのか……淳と彩の学校の帰り道だった。
※鈴ヶ森刑場は江戸幕府によって開設されたもので、東京都品川区南大井にかつて存在した刑場。
だから「はりつけ」の刑が執行された場所にやって来ると、無念の死を遂げた佐助とハナ2人の夢だった場所、竜宮城が再現された。そして…夢のような竜宮城が淳と彩の前に現れた。
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大奥の蔵でこっそり逢瀬を繰り返した佐助とハナには、可愛い娘が生まれていた。
ハナは大奥奉公の身で外出もままならない。だが、愛の結晶を何としても生き長らえさせたかった2人は、娘を佐助の親に預けていた。
何という運命なのだろうか?佐助とハナの子孫が彩だった。
どんな事をしても一目我が子に会いたかった佐助とハナの亡霊が「はりつけ」られた場所に現れた。そして…会う事も叶わなかった我が娘や子孫に霊となって彷徨い、代々子孫の前に現れていた。
あれ~?でも淳は子孫でもないのに何故竜宮城が見えたのか?
それは…恋愛成就出来なかった佐助とハナの強い執念と怨念が今尚彷徨い、時代を超えて淳と彩に乗り移ってまでひとつになりたかった。
佐助とハナの強い意志が届いたのか、淳と彩はメデタク結婚した。
めでたし💒💖めでたし💒💝
おわり
竜宮城伝説 tamaちゃん @maymy2622
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