フ
六時間は登って来ただろうかという
「
男は差し出された蓮柄のそれに手を包み、
「少し、渋い味がします……」
「ふふふ。ええ、そうでしょうね。この
「僕は健全……なのでしょうか」
「
「あ、い、いえ、その……」
クスリ、と少女は再び柔和に眉根を沈めると「そうでもなければこのような僻地の
ここへ来るに
「──けれども、この
「たったの? まるで僕が、早く着いたみたいな言い方ですね」
「ええ、もう少し掛かると想っていました」
「何度も引き返そうとしたのは、事実ですけど……」
「けれど進むことを辞めなかった。お強いお方です」
「でも、僕より早い人なんていくらでも、」
「はい、もちろんそうした方々もおられます。ですが、ことに早く到着されるほとんどは、その感が残念にも鈍ってしまわれている方が大多数なんです。感じ取れる靈性が低ければ視るものも少なくお散歩気分で悠々到着できるでしょうけれど、そういった方々は心靈現象やその他の何かを期待されているのか
なにを思ってなのか、少女は手水舎の横に設けられた朽ちかけの木製椅子を見つめる。笑みを含んだその語尾が気になった。
運よく……。つまりは平常であれば、故意ですらも踏み入ることのできない力のようなものが働いているということなのだろうか。男は思念して整理にちょっと黙り込む。読心したかのように少女が言葉を紡いだ。
「その『故意』が不欲であれば是。反面、欲あらば否です。はじめに例外はないと申しましたのは、断りを得て事に際している者に限った話です。前言に否とした者に至る次第は怖いもの見たさか或いは馬鹿。第一が、断りを得なければ山奥にあるこんな小さな祠など、感じ取ることも見ることを出来ないのです。あなたのように導かれたのでしたらその限りではありませんが、巡るというのは得てしてそういうものなのですよ」
「ではあなたがその、門前払いの取捨選択を……?」
「いいえ、わたくしではなく、
「地……。地って、この場所のことですか?」
「はい。土地というものは、聖地・
「……」
「難しいことは説明も複雑ですが、要しますに、人やそれらとの触れ合いと同じということです。捉え方の違いとも言えますね」
ただ
呼ばれていたのだ。幼少の頃よりずっと。十年やそこらの歳月をしたためて、
どくん……どくん……どくん────…………
「この地は鬼の地。あなたに
気付けば男は二之鳥居を潜り抜け、拝殿の奥、本殿のそのまた奥に建てられた
少女は
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