くじゃくのなか
川辺いと/松元かざり
第一章 御贄の器
── 導きの巫女 ──
ヒ
──
美しさだけを持ちより、神の座す域に入る。結界で隔てられた門前に佇み、穏やかな心身で
清廉潔白──純白なその
「ほ、本日は……お招きくださり大変感謝いたします……」
緊張を纏わせた声で少女の背に向けそう告げる。結界内に差し入った少女は振り返り、その者に目線を逸らしたまま会釈して見せた。
「お招きしたのはわたくしではありません。それに、
淡々と気品さを呈す巫女に頭を下げたのち、男は鳥居を仰ぐ。その
おに……とり……。
「どっこ。と、お読みします。正式名称としましては、『
「鬼の毒、ですか……」
「ええ」
その彫字を目にし、或いは鈴のような声から聞こえきたその不気味な語調にゴクリと喉が上下した。朱塗りの額束に白く彫られ、聳える鳥居は
びゅるびゅると
「参ります。さ、
「あ、ああ……はい」
一段づつ、三つ編みを下げ再び参道を登り始める。男も見惚れながらに意を決して踏み出したが、一歩ごとが地面からグッと掴まれているように重く息苦しい。長年様々な神社を巡って来たが、ここは異様な空気が障りを引き起こしているようだ。
噂に調べた通りだ。遊び半分で来るにはあまりにも不敵すぎる。そろそろ中間辺りだろうと登った跡を男は覗き込んだが、己の双眼が潰れているのかその焦点は定まらず、黒渦のような濁りが真後ろで
彼女の足許から後頭部までをジッと観察していると、たった指一本の一関節分、彼女の周りが何かに透けているように見えた。放つ、と言えばしっくり来るだろうか。燐光体のように時折幽かに
──ツと、少女が立ち止まる。
「あまり、
「え、」
「慣れぬものを慣れぬまま意識すると、返って御身を害されます。目下は深い呼吸のみに集中なさってください。数えながらでしたら尚、落ち着くことでしょうから」
「は……はい……」
判然と、しないわけではないのだ。けれど、どうも属する世界が違う気がしてならなかった。
男は言に努めて
──
※ひはかま……
正しくは『ひばかま / ひのはかま』と表記します。
意図については次話のコメント欄に説明書きがありますが、
本作内で記載することはありません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます