本文


 あぁ、かわいい。


 ひっそりと、見つめる。


 最初から、最後の時間まで、ずっと、ずっと、あなただけ。


 一途に愛す。これは、私の恋。


 最高の、至福なの。



×+×+×+×+×



 会議室、なんて言ってはいるが、要は机のある場所だ。

 黒板なんてあるわけもなく、ただ、情報の交換に使われている。


 今回のように、人が集められるのは、極めて稀だろう。


「これより、この国は戦争に入る。」


「はい。」


 少し、ざわめきを交えて、話が進む。


「よって、一部動物の、殺処分を決定する。」


 さ、殺処分。つまり、あのピーちゃんが、殺される……?


「な、なぜですか!」


 この話は、大きく反感を買っている。

 なんせ、今までの長い付き合いの動物を殺せと言われたのだから。


「すまない……」


 そう、園長が言った。


「上の指示なんだ……!」


 苦しそうだった。そして、理解した。


 この苦痛を受け止める人も、反対の意を伝えることも、私たちにはできないと。


 今の怒りは、ただの八つ当たりにしかならないと。


 無駄だなんだと。


「わかりました………」



 誰もが、暗い顔をしていた。



 でも、動物がミサイルで檻が壊れて逃げ出したら、誰も責任が取れない。


 たとえ私が取ると言っても、だ。



 ただ、一つの愛は、打ち砕かれる。




×+×+×+×+×




「頼む…… 何もせず、このまま死んでくれ……! 私に何もさせないでくれ……!」



 ゾウのピーちゃんは、死んだ。


 毒入りの餌を、ゆっくりと持ち上げ、あたかも、自死を選ぶかのように、食べた。


 吐いたりもしなかった。


 ゆっくりと噛み砕き、しっかりと押し込んでいた。



 きっと、彼女にはわかっていたのだろう。



 その上での、行動。




 何も抗わない動物の姿に、私の心は、また締め付けられた。


 人間の都合で、死んでしまった彼女たちに、深く、感謝した。




「ありがとう…ございました………」


 こぼれ出た言葉は、まるでモノに対するような気もして、また、締め付けられた。




ー完ー

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飼育員さんの1日 灯火(とうか)@チーム海さん @UMIsandayo

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