第47話
48
地下室を抜けたラビは、塔の頂上へと向かっている。
メイドに変装していたのもあってすんなり頂上へと行けた。
「外が騒がしい。ニルヴァーナ姫の軍勢が来たんだ」
戦場の混乱で、兵士達はラビに構っている暇はないようだった。
ラビが目指すのはイバラの元だ。
(お兄ちゃんはイバラに会いたがっている。でも魅了催眠を使うイバラには、お兄ちゃんじゃ絶対に勝てない。私がなんとかしないと……)
「イエス」
「始めの洞窟で」
「ソウルワールドには魔族がいる」
「魔族は言葉を話しながら、心を持たない存在として描かれる」
「この場合の心っていう奴にはね。私は言及さえしたくないんだよね」
「心って定義される物を持たない人間がいる。窮屈で窮屈で仕方が無い」
「それが私と毒島なの」
「人が罪だと思うのは、小悪党だけでしょ」
「殺人や強姦は裁かれるけど。戦争指導者は裁かれない」
「戦争指導ってのはさ。教育なんだよね」
「私にはそれがすごくわかる」
「弱肉強食。適者生存。淘汰。弱者へのリソースは私たちの首を絞めている」
「だから間接的に断ち切ってあげたい。私のものにしてあげたい」
「それの何が悪いの?」
「利己的な人間が永遠に利己的に振る舞えばば世界はいずれ安定するわ」
「その発想は、闘いや暴力を永遠に肯定することになります」
「全員で生きる選択を投げています」
「平行線だわね。マジになっちゃってんだ」
「マジな綺麗事は人前でいうだけのものじゃない?」
「王都の大半はデズモンド派に占領されている」
「私と毒島ね」
「しっかりした恐怖で支配してあげている」
「例えば税金ね」
「小さなことから従わせるんだよ」
「でもまだぬるい」
「弱者の生きる権利とかぬるすぎる」
「勘違いしないで欲しいのはね。別に私は排他的なわけじゃないのよ」
「仲間は欲しいのよ。でも邪魔な思想が多すぎる」
「正義マンが大嫌いなの。ああ、見て見ぬ振りをしてくれる人は大好きよ」
「あんたのことは嫌いじゃ無かったけどね」
「あなたは、境界線を跨いでしまった」
城の周囲で轟音が響き始める。
クーデターの音だ。
「ニルヴァーナ姫?」
「違うわ。毒島さんだよ」
「勢力と勢力の闘い」
「勝った方が正義になるわ」
「私たちは勝って正義の側になる」
「あとは緩やかに民衆を説得すれば良い。『身を切ります』『切磋琢磨します』『お給料を増やすよう努力します』」
「……主語がない」
「ええそうよ。身を切るは市民の身を切る。切磋琢磨するのは市民。お給料を増やすのは王宮。曖昧にしてうやむやにすれば、オールオッケーでしょ? さ、て、と」
「んぐ?」
「ドーピングシャンパンを飲ませてあげる」
「いや。いやだぁ!」
「魔族化して心を失いなさい。アルトがまだ虫の息でも生きてるなら、あんたの存在は利用価値がある」
「いやだよ。心を失うなんて」
「楽になれる。欲望だけで生きれる。それでね」
「私の仲間になってね」
49
ラビに口づけをする。
回復を始めていた。
〈概念呼吸〉により、彼女の死を吸い込んだ。「お兄ちゃ……」
「」
「君を殺すことは復讐にならない」
「私は、元に、戻ったの?」
「元のあのときの。入院していたときのあたしに……?」
「見届けるよ。イバラ」
「俺はラビを守るので精一杯なんだ」
「見捨てないで。見捨てないでよぉ!」
「俺は選ぶことにしたんだ」
「ラビを選んだ」
殺したって解決しない。
俺は選ばれなかった。
イバラへの復讐に必要なのはラビだったんだ。
「ラビ、ごめんな」
「はぶらないでよ。私をのけものにしないでよ!」
「俺を斬り捨てたのは君だから」
ラビは息をしているが眠っている。
もし目覚めても残酷なものを見ることが無いように。
眠っている彼女の目元に、手を添える。
「ラビは見なくて良い」
イバラの死に様をみるのは俺一人だけでいい。
「助けて。助けて……助けて」
俺は彼女の声を吸い込む。
君のことは助けた。
「許して、許して、もうしませんから」
何度も君のことは許した。
けれどラビに手をかけるのは許されないことだった。
「さよなら。俺の初恋」
奈落蟲に食われていく。
それは葬送のようだった。
黒く絶命した遺体を前に俺は手を合わせる。
「お兄ちゃん……。イバラさんのブローチの中に」
病院で三人で、治るように願って生きていたときの……。
三人で詰んだ花だった。
彼女のことは最後までわからなかった。
俺達は遺体を奈落の奥に埋め、ブローチの花を添える。
すべての復讐は完了した。
スキル【呼吸】が最弱すぎて追放された俺、NTR&追放確定で奈落に堕ちるも〈奈落の空気〉を取り込み人生確変!復讐と共に無双する! リミットオーバー≒サン @moriou_preclay
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